軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

301話:学生道中1

まだ冬のこの時期、ルキウサリアの雪解けも一カ月先の予想。

それでも移動可能なくらいに降雪が間遠くなったので、ルキウサリアでは往来が復活し始めていた。

そんな中、僕ら錬金術科も春に開催される競技大会へ向けて、レクサンデル大公国へと向かうことになる。

「けっこう大荷物になってしまったな。それに扱いも気をつけなければ」

「錬金術の道具は持ってかないと、ないからね。ガラス容器外せないし」

ウー・ヤーとラトラスが、用意された馬車に積まれる荷物を見ながら話す。

多くなったとか言う割に、旅慣れた二人は麻袋一つずつという荷物の少なさだ。

「その道具も、アズとラトラスが持ち運びできる物を持っていたから少なく済んだんじゃない」

「あれいいよな、俺も欲しいなぁ。山に戻る時道具ないと困るし」

増えた荷物は僕とラトラスのだというイルメに、ネヴロフは素直に道具を羨む。

ちなみにイルメは、四角い旅行鞄と衣装箱を一つずつ。

ネヴロフが持つのも麻袋だけど、ラトラスくらい入りそうな大きなものだった。

「荷物も運べる馬車が手配できて良かった。先生が同行してくださるお蔭です」

エフィがそうして礼を言うのはウェアレルだ。

「いえ、あなたたちが特訓している姿に、昔を思い出して行きたくなっただけですから」

ウェアレルは学生時代に九尾と呼ばれる同級生が、競技大会に出場したんだとか。

それを観戦した思い出を引き合いに出して、競技大会に同行する理由にしてる。

もちろんそれは建前で、僕の護衛が本当の目的なんだけどね。

それはそれとして競技大会観戦の思い出は本当らしい。

参加しなかった理由を聞いたら、秋田犬にしか見えない獣人ヨトシペが参加してたからだって。

ちなみにヨトシペの結果は、失格で記録なしだそうだ。

遠当てという遠距離にある的に魔法を当てるという競技で、身体強化しか使えないヨトシペは、声を強化して吠えることで的を破壊。

もちろん同じ場にいた選手、審判、観客席にまで被害を出したとかで危険行為とされたらしい。

「ヴィーも興味はあったようですが、こちらでやることもありますので」

「そう、ですね」

エフィが視線を逸らすのは、そのヴラディル先生のやることに心当たりがあるから。

実は青トカゲのことをヴラディル先生には告げた。

課題を出したネクロン先生からすれば、僕たちが魔力によって変化する金属を成功させたのは想定外で、錬金炉の使用も想定外。

それだけでも検証すべき項目は増えるのに、僕とエフィからすれば更なる想定外があることを知ってた。

もちろんそれは、青いトカゲの姿をした精霊の存在だ。

「気にしてもしょうがないよ、エフィ」

「お前があれのいる錬金炉に放り込んだくせに」

慰めたつもりが呆れられた。

ヴラディル先生はセフィラを知ってるから精霊がいても騒がず聞いてくれた。

ただ青トカゲと会わせたところ、四人もいると落ち着かないと告げられてる。

その場には、僕、エフィ、ヴラディル先生しかいなかったけど、実はセフィラもいた。

つまり青トカゲはセフィラを知覚しての発言だ。

ヴラディル先生も勘付いたみたいだけど、知らないエフィがいたから口を閉じてた。

(セフィラは未だに青トカゲの感知下手なのにね)

イルメが近くにいるから、掌に光でサンプルケースが少なすぎると文句が来た。

今まで精霊を見つけるための機能なんて考えたことなかったからね。

何より青トカゲのほうがセフィラよりも絶対年長だ。

経験の差とも言えるんだろう。

「何か忘れものでもしたのか?」

思わず遠い目をした僕に、ネヴロフが勘違いして聞いてくる。

「いや、ネクロン先生の課題のことでさ」

「あれはもう上級生への課題に変わったようなものでしょ」

僕の言い訳にイルメが反応するのは、当人も気になっていたからだろう。

ネクロン先生も想定外の作り方をしてしまった上に、僕たちも成功した理由はわからないし、春は不在。

だったらそこを解明するのを、上級生の学習に取り込もうと言う話になった。

何せ使った錬金炉、ネクロン先生は学生時代にもほぼ触らなかったらしくヴラディル先生も魔法の属性上自由には使えない。

だから人間で魔法の適性のある学生を主体にするしかなかった。

そして僕たちがいない春の間、ネクロン先生は新入生も相手にするそうだ。

「そう言えば、競技大会から戻った時には自分たちも上級生になるわけか」

「今年は何人入学してくるかわからないし…………って、あれ」

ウー・ヤーに答えていたラトラスが耳を振る。

見れば、フードを被った女性が近づいて来ていた。

縁を上げて顔が見えれば、それはディオラだ。

「お見送りをさせていただけませんか?」

「これはディオラ姫。ご厚情いただきありがとうございます」

教師であるウェアレルが代表して応じる。

ここ学外だし、今は休業期間中だしね、お姫さま相手に馴れ馴れしくはできない。

ウェアレルに続いて王女に対する礼を執ろうとした僕やエフィに対して、ディオラは笑みを浮かべて止めた。

「同じ学園の友人を見送りにまいりました。ですから礼は不要です。それに、私以外の見送りの方もいらっしゃっているようですし」

ディオラが言うように、ラトラスの身内の猫獣人が別の道から現れているのが見える。

さらにイルメの所のエルフたちも固まってやってきた。

そしてこそっと様子を窺ってるのは、エフィの取り巻きだった子たちじゃない?

言われて気づいたエフィは、ネヴロフに他からの視線を遮る壁になってもらいつつ話をしに行く。

それを見て、ウェアレルは一人のウー・ヤーに声をかけに行った。

つまり、ディオラと僕が残されたわけだ。

「ありがとう、ディオラ。なんだか慌ただしくてごめん」

「レクサンデル大公国には第二皇子殿下もおられるとか。謝られる必要はありません」

散々手紙で語ったから、僕が弟たちを気にしてることはわかってくれてるようだ。

ただそれ以外にも、僕には謝る理由がある。

「転輪馬のプレリリースについても、テスタたちに投げてるし」

「そちらは、第一皇子殿下にご出席いただきたかったと帝国の学者からも声が上がっているとか」

そこは帝国代表兼、僕の代わりに表立ってもらう人員だから聞かないけどね。

転輪馬は、春にルキウサリア王都から帝都までの間を往来する予定になってた。

運用は駅馬車と同じで、一定距離に駅を置いて、そこに交代の人員を待機させる。

最初は駅三つ分程度から始めて、改善しながら延伸、終着を帝都に据えていた。

「何より春の発表は、皇帝陛下からの尽力の賜物であると公表する場だ。僕がいると、ね」

僕が出ない代わりに皇帝である父を前に押し出すんだから、注目は皇帝の名声にしぼってほしい。

「封印図書館の技術から転輪馬を作った以上、そのきっかけに私も含まれますが、大部分がアーシャさまであるというのは、我が国の陛下も申しております」

けどその僕が前に出ない上に、テスタも僕を押しのけて前に出るのは嫌だという。

結果、父の名前を借りることになったし、伝声装置があるから前みたいに事後承諾にもならなかったんだけど。

ルキウサリア国王としては、国際的なバランス取ることに苦心する状況なのかもしれない。

けどせっかくテリーが皇子として前に出ようとしてる時に、僕が注目されるなんて足を引っ張るだけだし。

帝都を離れてる間に、テリーが皇太子として認められる環境を作ってほしいんだよね。

「こちらからも道の整備を行う者を出させていただきます」

ディオラが話を変えたようだけど、目がウェアレルに向けられる。

つまり道の整備の人員って、僕の護衛ってことかな?

「一応、転輪馬の試運転を名目に、春にはイクトが帝都へ。そこからレクサンデル大公国で合流する予定は立ててるよ」

ようは冬に帝都に戻ったレーヴァンは、雪解けと同時に戻ることになるんだけど。

しかも僕いないから、第一皇子不在を誤魔化すためだけっていう骨折り損。

「それと」

ディオラが声をいっそう小さくする。

「受験者十三人中、十三人合格圏内という状況になっております」

「おぉ、すごいね」

僕に言うってことは錬金術科の受験者だ。

しかも僕が封印図書館開けて入学したってことで、この国が用意した人も含むんだろう。

さすがに僕の学年で入学者は用意できなかったけど、一年かけて入学者を集めた結果、全員が合格圏内の学力があったらしい。

とは言え、試験に受かっても辞退者って言うのが毎年出るらしいから決定の数字じゃないそうだ。

「戻った時にはまた賑やかになってそうだね」

「…………入学されて、楽しいですか?」

「もちろん」

迷いなく答えると、ディオラは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「帰ったら土産話でもさせてほしいな」

「はい、楽しみにしております」

そうしてディオラに見送られて、僕たちはレクサンデル大公国へと出発した。