軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

249話:獣人豪族の禍根4

せっかく競技大会でわだかまりを解消したように見えていた獣人豪族たちは、宴で問題が発生したことにより一触即発の空気を醸し出していた。

仕込まれたのは製法は広まっていないけど、猫系の獣人にだけ効くという有名な毒らしい。

その中でイマム大公の婚約者の山猫一族だけが被害を免れ、疑惑を向けられている。

「どう考えてもおかしいであろう! 毒を使って我々を排除しようとしたのではないか!? そして自らが大公の座に収まろうと卑劣な手を使ったのだ!」

毒が抜け切れていない苦しげな表情で、獅子の獣人の代表者が声を振り絞って糾弾する。

「自分の欲望を他人にかぶせるな! そんなことはしないはずだ!」

イマム大公は婚約者を庇うけど、他の獣人たちからも疑いの目が向けられた。

そこに声を上げる者がいる。

「これ、違うだす!」

見るとヨトシペが、両手にグラスを掲げていた。

二つのグラスは見た目も入ってる飲み物も同じにしか見えない。

「なんだ? なんと言っている?」

ただルキウサリアの言葉だから、大半の獣人がわからない顔だ。

僕が口出そうとするのを止めるように前に出たのはヘルコフだった。

「ちょいと剣呑なんでな。お二人はそこで待っててください」

ソティリオスも含むように言いつつ、ユーラシオン公爵の侍従たちに守られた中に僕を置いてヘルコフはヨトシペの側へと向かう。

「で、何が違うって?」

「ヘルコフさん、これ、同じに見えて入ってるもの違うだす。臭いでわかるでげす」

ヨトシペは必死に訴える。

それをヘルコフがロムルーシの言葉に直してイマム大公へ伝えた。

「こっちが虎の人が飲んでたどす。こっちは山猫の人が飲んでたんでごわす」

「ふむ、確かになんか臭いがちょいと違うか?」

ヘルコフも嗅いでみて感じるものがあるようだ。

「婚約者の人が飲んでたのがこれでげす。馬の給仕が山猫ばかりに配ってて変だと思ってただす」

「あ、それは僕も見たよ。ヨトシペの分を用意しようとして逃げられてた」

一応援護の声を上げる。

どうやらヨトシペも見ていて疑問を感じ目で追っていたそうだ。

そして騒ぎの時に婚約者が手放したグラスを確保。

さらに虎の獣人が飲んでいたグラスで、割れてない物も今見つけて来たらしい。

「婚約者さんはイマム大公の成功喜んでたどす。壊すことしないだす」

ただそんな説明を誰も聞いてない。

何故か馬の給仕がと言った途端、獣人たちは反応が変わっていた。

「まさか、先代大公の、あれが関係してるのか?」

「あれはやはりそういうことなの、ではこれは…………?」

「まさか、復讐で同じように毒殺をしようとしたというのか?」

物騒な単語がそこかしこで聞こえ始めた。

そう思ったら、もっと物騒な声にならない声が聞こえる。

(馬の共犯者がいます。牛の豪族たちがここまでとは知らなかった、危険すぎる、もうばれている、見捨てようと話し合っています)

(何処!?)

セフィラに言われて見れば、暴れていた猫系とは全く離れたところで牛の獣人たちが固まって話し込んでいた。

どうやら妙にやる気だったのは、この混乱を使って目立ち、発言権を強めようと言う下心だったようだ。

(何か関与の証拠持ってないかな? ここまでってことは何かあるとは知ってたんでしょ? 指示書とか、毒そのものはさすがに無理だろうけど)

(持っています。会場に持ち込み、馬の給仕に受け渡すことが共犯者の役割でした。その際に薬のからの回収も請け負っています)

それなら話は早い。

「ソー、ことが毒なら仕込んだ者がいるはずだ。馬の給仕の姿は見えない。けど、何かやると思われていたなら相応に警戒されてたんじゃない? だったら毒を仕込むための協力者がこの場にいるかもしれないよ」

「確かに。馬の獣人は逃げているがこの場の者たちは逃げていない。どうやら外から塞がれて扉が開かなかったそうだ」

僕は目の前のことで手一杯だったけど、ユーラシオン公爵家の侍従は退路を求めてたらしい。

たぶん馬の獣人が逃げるために細工していったんだろう。

それもイマム大公の指示で扉を半ば破壊する形ですでに開かれてる。

けど使用人が水を運ぶ以外の出入りはない。

「じゃあ、この場の人たちに身体検査してもらおう。馬の獣人と共謀した人がいるかも」

「そうだな、イマム大公に今の話をお伝えしよう」

ソティリオスが侍従に指示を出すと、すぐに動く。

こっちの推測を聞いたイマム大公も応じて声を荒くした。

「大公の座を狙うことが目的だと言うならば、獅子も怪しいだろう。自らが被害者のふりをしての企みかもしれない!」

「なんだと!? 誰がそんな卑怯な真似をするか!」

獅子の豪族が怒ると、すぐにイマム大公は別にも矛先を向ける。

「それにこの毒なら猫系に必ず作用する。であれば、自らに害あるものを扱うなど愚か。疑うならばこの毒の害が及ばない他の者の可能性もあるだろう!」

「こちらこそ、そのようなことをするものか! 舐めるな!」

「確かに怒りで今回騒がせた。だが場を用意されて負けたからと卑劣な手は使わん!」

鹿と猪の豪族たちは、矛先を向けられて誇りを重んじるようなことを言い合う。

ただ牛は心当たりがあるせいで意気は低めだ。

「い、今はともかく馬の獣人のほうを追うべきではないか?」

「違うというなら身の潔白をしてみせろ!」

牛の豪族の意見を無視して、イマム大公が吠える。

煽られた他の豪族が即座に応じたせいで、牛の豪族だけが嫌とは言えなくなった。

結果、調べられる前に捨てようとしたところを、僕がすぐさま見つけて声を上げる。

牛の豪族の共犯は露呈した。

「え、えぇい! 元はと言えばお前たちデニソフ・イマム大公家が撒いた種だろ! 馬の奴らを毒殺しておいて、自らに害が及んだからと見苦しい!」

牛の豪族が苦し紛れに罵倒し始める。

「そもそもが先代のやらかしではないか! それを叱責されたからと逆恨みし、あの性根の腐った謀殺だ! 謝罪の品などと偽り馬の獣人にのみ効く気狂いの毒で、馬の豪族はほぼ身内殺しで潰えている! あんなものよくも生み出したものだな!?」

どうも音沙汰のなかった先代のイマム大公は、逆恨みで馬の豪族の首長一家とその周辺を毒殺したらしい。

毒殺の場にいなかった子息の兄弟二人だけしか生き残らず、さすがにあまりの所業にイマム大公家も先代大公を非難したとか。

そのせいで前大公派と反大公派にイマム大公家が内部分裂。

争った末にようやく前大公を降ろし、疲弊した者たちの中から、若い今のイマム大公が立ったという。

どうやらイマム大公家自体が内部で疲弊して弱っていたのが、今回の豪族たちの諍いを誘発したようだ。

さらには先代のせいで今のイマム大公は、舐められるどころか軽蔑されもしていたとか。

「あれは、あの毒は、すでに廃棄した…………はずだ」

「そう言って今回の毒も今猛威を振るったではないか! 現に馬の豪族のほうから渡されて、その効果も確かだっただろう!?」

責め立てられるイマム大公は苦悩するように唸る。

それをさらに牛の豪族が責め立て、自業自得だと罵った。

すると婚約者が立ち上がって、体格の大きな牛の獣人相手に牙を剥く。

「やめなさい! 大公閣下を責めてなんになります! 何より、あなたは自らの欲のために片棒を担いでいることに変わりはありません! さらには無実の我が一族になすりつけようと卑劣な企みを抱き、他の無関係の者たちにまで毒を盛るなど許されないことでしょう!?」

婚約者の指摘に、牛の豪族に集まる非難の目。

特に毒を盛られた側の獅子たちの視線は敵意さえ感じるほどだ。

この状況はどう考えても面倒だし、正直僕たちには関係ない話だ。

けど解決しないと今後の留学に差し障る。

何より、理不尽に襲われて怖い思いをした人がいるっていう状況を無視したくない。

なんだかそれをすると、常に他人ごとな宮殿の貴族たちと同じになりそうで嫌だ。

「…………ソー、どうする?」

「どう、とは? 何ができると言うんだ、この状況で?」

場の空気に圧倒されていたソティリオスは、年相応の反応だろう。

僕みたいにひねた大人の記憶がないんだから。

「厄介な問題だよ。関わるだけ面倒だ。競技大会で義理は果たしたと言える」

「だが、これは…………」

「けど、これをどうにかできれば新たにイマム大公へと貸しを作ることになるだろうね」

僕の提案に、ソティリオスは一度口を引き結んで迷うことをやめた。

「何かあるのか?」

「あまり気は進まないけど、被害者ってことで、今ここにいる弱って疲れた豪族たち纏めて馬の豪族にぶつける。その上で生き残った首長の息子兄弟を人質として、イマム大公の下に置く。それが一番被害は少ない」

獅子は被害者で、牛は加害者として罪滅ぼしに巻き込む。

鹿と猪は見張りや証人とでもいって協力してもらい、馬の保護をしてもらう。

今は無理に足並みを揃えるからこそ、本来の力を発揮させず、無用な暴力を抑制する方向に持っていくことにした。