軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232話:逃げる鼠2

一度ソティリオスが連れ去られたファーキン組関係の建物で、上の者を捕まえた。

運び出しや重要資料の捜索を小一時間かけて行った後で、僕はもう一度潜入を試みる。

すでにセフィラが地道にかけた幻惑の魔法は解けてるけど、全員が前後不覚だったから客観的に認識もできない。

建物内部の人間は、小一時間の記憶と感覚がうろ覚えになっていた。

耐性がない者は、まだ幻惑状態でぼーっとしてたりする。

けど早くに幻惑が薄れた者はすでにしっかり意識を保っていた。

(ユーラシオン公爵家は、何か魔法対策してたと思うべきかな?)

(推測はできますが、現状主人との交友であれば確かなところを聞きだすことが可能です)

それはつまり、どうやってたか聞けって?

まぁ、後学のためにありか。

そんなことを考えながら、僕はソティリオスの元へ向かう。

捕まっていた部屋から抜け出し、幻惑にかかり切る前に階段裏へと隠れたそうだ。

「ソー、助けに来たよ」

「な…………!?」

「しぃ」

驚きと警戒で声を上げそうになる口を、僕が塞いで黙らせる。

落ち着いたソティリオスの口から手をどけると、すごく険しい顔で問いかけられた。

「アズロス、どうやって?」

「鼠穴を通って?」

もののたとえで言ったら、ふざけてると思われたらしくさらにソティリオスの眉間に皺が寄る。

「外で窺ってたんだけど、異変があったらしくてね。それで大急ぎで小さな穴から入れる僕がソーを捜しに来たんだ」

「つまり、他の者も外にいるんだな?」

「急だったから少数ね」

声を潜めて僕たちは情報交換をする。

その上ですぐに動かないのは、セフィラの走査で向かう先を横切るルートを取る者がいるからだ。

「今は監視の目もない脱出しよう」

セフィラの誘導を受けつつ、僕が先導する形で身を隠しながら室内を進む。

行く先に人影があれば止めて、隠れなければいけない時には安全な部屋へと誘導した。

そうして進み、目的地である物置らしい細長い部屋へ。

「あの窓から外に出られるよ」

「高い上に、確かに私たちくらい細身でないと無理だな」

三メートルくらい上にある明り取りの窓は、横幅はあっても縦が狭い。

その上一本窓の格子が抜けているため、子供なら潜り抜けられる。

「入る時に縄をかけたから、それを使って…………誰か来た。隠れよう」

「何故そう手慣れているんだ?」

「うーん、ちょっとね」

誤魔化して、灯りのない室内の物陰に、ソティリオスを誘導する。

細長い室内の奥は、木箱とその物蔭で見通しが悪い。

勝手に走査したセフィラ曰く、中身は乾燥させた植物や白い粉。

それが何かなんてすぐにはわからないけど、あまり長居はしたくない場所だということだけはわかる。

「おい、本当か!?」

「しぃ、声が大きい!」

「いいから落ち着けお前ら」

荒々しく急いだ様子で部屋に入って来たのは四人。

人のいない場所を探してきたような性急さだ。

「そう、ことは一刻を争うのだから、落ち着いて、しかして懸命に判断したまえ」

一人、落ち着いた声の人物は、他の荒っぽさとは違う声質だ。

いや、いっそ一人だけ余裕がありすぎる雰囲気がある。

「…………上が、消えたってのは本当か?」

「あぁ、名簿なんかめぼしいもん持ち出してったようだ」

「くそ! やっぱり公爵家のガキなんてやべぇの捕まえるから!」

隣でソティリオスがびくっとするけど、自分の口を押えていて声を漏らすようなことはしない。

「問題は、そのことを組長に上げて、俺らがどうなるかってことだ」

「割符手に入れるためにやれって言ったのは上だってのに…………!」

「帝都と同じだ。また俺らを囮に逃げやがったんだ、あいつら」

緊迫した様子で話し合ってるんだけど、なんか、冤罪発生中?

僕のほうが確保した上層部五人と情報資料。

だからこそ、状況から逃げたと思われたようだ。

そしてその部下だろう人たちは、さらにファーキン組の偉い人から責任追及があることを恐れている様子。

「従う者を選べないのは不幸なことだ。ただ、その時に私が居合わせたのは君らの幸運でもあるとも」

余裕の人物が、ずいぶん上から言っている。

「私の下につくのならば、仕事とそれに見合った報酬を約束しよう」

何やら誘いまでかける余裕ぶりは、いっそファーキン組の部外者なのだろう。

それに対して、今までと違って声を大にせずごしょごしょ相談する様子も窺えた。

「またこそこそ逃げ出す羽目になるとは」

「いいから今は信用できる下の奴集めろ」

「どっちにしろ情報持っていかれた以上、ファーキン組も長くねぇ」

どうやら誘われた三人は、ファーキン組を見限る決断をしたようだ。

そうして同じくファーキン組から抜ける者を集めに部屋を出る。

余裕の人物は嘲笑うような声を漏らし、最後に室外へと出た。

「…………鼠穴なんて言ったけど、まさか本当に逃げる鼠に遭遇するなんてね」

「笑えない冗談だ。逃げ隠れするのはこちらも同じだろう」

ソティリオスはテンションが低い。

セフィラにもういないか走査させて、その間に別の話題を振ることにした。

「ソー、何か魔法かけられてたみたいだけど大丈夫?」

「あぁ、縄で縛られたのを抜け出したのは良かったんだが、部屋を出た途端何か魔法がかかった。脱走防止が仕掛けてあったんだろう」

やったのはセフィラだけど、ファーキン組のせいだと思ったようだ。

そして幻惑状態ながら、階段下に隠れて状態が戻るのを待っていたらしい。

「よく隠れる余裕あったね。何か対策してたの?」

「魔法の効果を弱める道具だ。逆に自分が使う時にも影響するんだがな」

そう言って、ソティリオスは胸元から赤い石のついたペンダントを見せてくれた。

僕は宮殿育ちで、場所そのものが強い魔法を使うことを抑止するようできている。

無理をすると意識を失うし、その時点で魔法は不発になることがほとんどだとか。

だから装身具で魔法にマイナスの影響がでるものがあるというのは初耳だ。

帝都でも聞かなかったし、魔法学科でも使う人がいなかったから、相当希少なことは想像がつく。

話していたら周辺を調べたセフィラが戻ったから、僕たちは脱出のために窓へ。

入る時に結んだ縄を引いて、先にソティリオスを行かせた。

「箱を足場に登って。で、縄を伝って外へ。一応外に人待ってるけど、手を借りたくないなら縄で頑張ってね」

ソティリオスは首を傾げつつ窓から外を見た。

たぶんヘルコフとイクトを見つけたんだろう、背中に緊張が走るのが見えるようだ。

(セフィラ、さっき話してた人たちの顔とか覚えた?)

(確認しています。報酬を持ちかけていた者は、ニヴェール・ウィーギントでした)

思わぬ名前に僕は動きを止める。

帝国貴族を殺しただろうファーキン組から、帝国貴族が人員を引き抜いていた。

さらには仕事と報酬を持ちかけていたとなると、いったい何をさせる気なのか、嫌な予感しかしない。

(今の内に捕まえる? でもそれはそれで理由が必要になるよね)

(港町の範囲であれば、動きを追うことができます)

そう言えばファナーン山脈行った時にも、サイポール組に遠隔で居場所を特定する魔法を仕込んだんだ。

(なんの仕事をさせるために引き抜いたのかがわかればいいけど、場所だけ押さえていてもね。けど、ここで問題起こす可能性もあるかな)

(では、出航までの間は見張るべきです)

うん、見張るにしてもこっちもリミットがあるから、念のためってことくらいか。

ともかく僕はソティリオスの後を追って脱出をした。

特殊な結び方をされていた縄は、降りるために使ったのとは別の縄の端を引っ張ると簡単にほどけて回収できる。

「何故助けた?」

ファーキン組から離れると、ソティリオスがヘルコフとイクトに剣呑に尋ねる。

第一皇子関連で勘ぐられるのは予想の内だ。

「こっちの錬金術科の坊主に手助け頼まれたからだな」

「錬金術科の学生として、私たちの仕事を手伝ってもらう約束をした」

そういうことにしてあるし、実際港のクレーンとか僕が見ないと構造の把握は難しい。

だから付け焼き刃だけど、その辺りをいい訳にしたのだった。