軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217話:トライアンへ向けて2

翌日の会場。

レセプションルームっぽいという感想は合ってた。

ただ文化的にサロン室って言ったほうが良さそうな内装をしている。

そこに大きな丸テーブルが三つ、壁際には椅子、そして会場正面には一段高い舞台があった。

「あ、いらっしゃい。何持って来てくれたの?」

キッチンがあるらしい奥から、トリエラ先輩がエプロン姿で現れる。

その後ろからエルフの女性が、イルメを気にしながら近づいて来た。

「あ、初めましてだよね。こちら就活生のイア先輩。スティフくんと一緒にお仕事する予定なんだって」

「イアンヒルトよ。イアって呼んでくれていいわ。それで、その…………」

「私も錬金術の有用性と危険性は理解しています。こうして同じ学び舎にいるのですから不必要な畏怖の念を抱く必要はありません」

顔色を窺われたイルメは、ぴしゃりと言い放つ。

イア先輩も平民出身なせいか、イルメが特権階級らしく接しても気後れするばかりのようだ。

僕たちはともかく自己紹介をして、持ってきた食材を渡して場を濁す。

「白パン、鶏肉、蕪、チーズ、魚? それにこれはお酢ね」

「ヴィネガーかしら? こっちは小麦粉とかそば粉も。こっちの粉は何?」

「一応料理を手伝うのが、僕とラトラス。そして飲み物を用意するのを残り三人に。その粉は重曹で、酢と配合して水に混ぜて飲み物を作ります」

説明してもわからない顔をされる。

けどそれでできるのが、なんちゃって炭酸水だ。

ちなみに重曹は胃薬として売られてる。

胃液を抑える作用があるってテスタが言ってた。

「あらぁ、何するん? お料理できるやなんてえらいわぁ。千歳、手伝ってやりぃ」

いつの間にか来てたヒノヒメ先輩が、僕たちの後ろからそう声をかけた。

チトセ先輩は料理できるらしく、僕たちと一緒に厨房のほうへ。

ただしあまり広くないからけっこう圧迫感が生まれる。

けどイア先輩はイルメの目がなくなって一息吐くようだ。

「イルメは物言いが率直すぎることもあるけど頭が固いわけじゃないよ」

「えぇ、噂に聞いてた巫女姫の家系にしては優しいわね」

僕のフォローにイア先輩が頷く。

それを聞いてラトラスのほうが興味を持った。

「噂ってどんなですか? 宗教家系ってことくらいしか知らないんですけど、戒律が厳しいとか?」

「僧兵抱えてるから、顔上げただけで槍突きつけられるって聞いたかな?」

「「怖…………」」

僕もラトラスと声を揃えて、予想以上に物騒な宗教に首を竦める。

どうやらイルメの生家は、宗教関係者であり教会騎士団さえ抱えるような家だったようだ。

異文化は変に当てはめると見落としがあるんだなぁ。

「それで、何を作るんだ? 大抵のものはできているように見えるが」

チトセ先輩は、先に来ていたトリエラ先輩とイア先輩が作った料理を見て聞く。

なので、僕はラトラスを前に押し出した。

名目上はラトラスの家業の秘匿技術だからね。

けど僕をディンカーと知るラトラスの尻尾が腕に巻きついて離れない。

「懇親会も兼ねるそうなので、ちょっと僕らがやってる錬金術のお披露目を、ね?」

「う、そうです。…………この、エッセンスから作った色を使って、料理を鮮やかにしようと思って」

ラトラスは紫、緑、黄色、オレンジ、ピンク、赤の六色の食用色素を出す。

青を入れなかったのは食べるから。

やっぱりこの異世界でもあまり青系統の食べ物は受け付けないらしい。

飲み物なら平気なのも、サイダーとか前世に近い感覚だ。

炭酸水もモリーのところで扱ってるからラトラス提供ってことで今回持ち込んだ。

そっちには水色の色素を入れて作るよう他の三人に頼んである。

「え、こんなくらいでいいの? うわ、本当だ。めちゃくちゃ色がつく」

「あぁ、だから白い食材ばっかり。へぇ、これなら味付けはこっちでできるね」

トルティーヤかクレープのようなものを作るイア先輩は生地に赤色を入れて声を上げた。

トリエラ先輩は根菜の煮物に紫を入れて、チーズは細かく切りそれぞれ色を付けて行く。

僕とラトラスはともかく包丁使えるってことでこっちの手伝い。

ネヴロフとウー・ヤーはできないことはないけど見た目や味に頓着せず、イルメに至っては包丁すら握ったことがないお嬢さまだった。

「鶏肉と魚にも色をつけて、並べる際に絵になるようにしてみるか」

チトセ先輩は色付けからさらに提案する。

そしてそんな声に反応する人が現われた。

「え、何なに? 絵を描くの? あ、違う?」

いつの間にか来てたステファノ先輩が騒がしく厨房にやって来る。

それをチトセ先輩が頷いて迎えた。

「うん、ちょうどいいな。色つけた食材やるから絵にしろ」

「わーい」

「え、味付けどうするんですか?」

色つけただけで味なしなんだけど、鶏の水煮をさっそく並べだすステファノ先輩。

僕が聞くとチトセ先輩はすでに木製ボウルを抱えて答えた。

「ソースを作ればいいだろ」

「イトー先輩、手際いいですよね」

「イトーはレーゼンの思いつきに慣れ過ぎなんだよ」

トリエラ先輩にイア先輩が同学年として肩を竦めてみせる。

そして当のチトセ先輩は、ステファノ先輩が持ってきたフルーツからベリーソースを作り始めた。

「狭くなったし、僕らより先輩たちのほうが手慣れてるから、お皿並べに行こうか」

「異議なし」

「それはいいけど、ラトラス。そろそろ尻尾外して」

「うわ、無意識だった。…………俺、あの先輩たちの矢面立ちたくないよ」

「その矢面に僕を立たせる気なのがどうかとは思うけど、そこはキリル先輩あたりを盾に」

「おい、聞こえてるぞ」

やっぱりステファノ先輩と来てたらしいキリル先輩が声をかけて来る。

「お前、アズロス。小領主の息子って言う割に図太いな」

「いやぁ、権力ない分厚かましくいかないと何も残らないんで」

そう言うものだろうかという顔をするキリル先輩は、伯爵家長子から修道院に入った人。

実務はしてない可能性があるし、僕の適当な言い訳を否定もしない。

「たまにいるなぁ、そういう地方貴族。それ同じ貴族相手にやるならいいけど、通りすがりの商人にするなって思う」

ラトラスはまた経験か。

そんなのいるんだなぁ。

宮殿だと権力者ばっかりだから、厚かましいような人はいなかったけど。

思えば地方都市ホーバートの領主は厚かましい部類だったかもしれない。

「商人にだって厚かましいのはいるだろう。口だけで権利主張して、義務からは逃げる奴が」

おっとキリル先輩から統治者側の意見が出た。

これは僕の軽口が発端で喧嘩の種になるかもしれない。

「何処にでも厚かましい人っているんですね。あ、キリル先輩は何を持ってきたんですか? すぐ並べられます?」

「うん、あぁ、パイだ。肉包みとアプリコットの二つ。切ってもらおうと思ってな」

「あ、だったら俺らがやっておきます」

「頼んだ」

僕が振るとキリル先輩が二つの包みを出す。

そしてラトラスがすぐに応じて受け取った。

「ちなみに、あっちの下級生は何してるんだ?」

目配りするキリル先輩は、炭酸水づくりで賑やかにしてるヒノヒメ先輩に顎を振る。

遠目に見ると、クラスメイトが怪しい薬を水に混入しているようにも見えた。

「飲みものです。甘くしたいならあの青いシロップ入れてください」

「色はラトラスだろうが、用意させたのはアズロスか」

「やっぱり飲み物甘くしようとか、シロップ気軽に用意しようとか、貴族ですよね」

何故かキリル先輩にばれた上に、ラトラスまで納得する。

けど言われてみれば、シロップって用意しないと手元にないような嗜好品だ。

僕だって派兵で地方へ行ったからわかる。

そこでは皇子扱いだったけど、それでも地方に行くにつれて味付けもないような料理は増えたし、甘味なんてほぼない。

料理どころか森で採って来ましたなアケビのようなものが並んだこともある。

それだけでも地方では希少な甘味という扱い。

蜂蜜も砂糖も、原産地でさえ気軽には口にできず、相応の金銭と交換に貴族に回されるんだ。

「て、帝都ってけっこう色々揃ってたしさ」

「ま、食事に見栄を張るのは貴族のたしなみだな」

「あぁ、そういう。アズも大変だな」

なんだか納得されたけど、見栄っ張りだと思われるのはちょっとお断りしたいなぁ。