軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216話:トライアンへ向けて1

「送別会やろう!」

「「「「「は?」」」」」

突然教室にやって来たステファノ先輩の第一声に、僕たちは困惑の声を揃えた。

けど気にせずステファノ先輩は、ずいずいと教室の中へやって来る。

「明日会場取れたからそこでやるよ。基本的な料理はトリエラがしてくれるって。けど一人一品は何か持って来て。デザートでもいいよ。放課後に買って戻って来てもいいから」

「落ち着け、スティフ」

「あいた!」

立て板に水で喋るステファノ先輩を、後ろからチョップが襲う。

見ればキリル先輩が、衝撃で口を閉じさせ後ろに引っ張っていた。

「悪いな。こいつ飲み食いしながら騒ぐのが好きなんだ。しかもそういう時だけ行動が早い。いくら言っても片づけはしないくせに」

愚痴を言いつつ説明をしてくれた。

どうやらヴラディル先生が言うとおり、世話を焼く性分らしい。

「アズロスが留学でロムルーシに発つんだろう? 正直出会ってすぐで別れを惜しむような間柄じゃないが、懇親会と抱き合わせの送別会をしてもいいかという話になってな」

そう言えば登校促しはしたけど理由ははっきりと話してはいなかった。

たぶんヴラディル先生辺りから、僕が抜ける穴埋めだと聞いたんだろう。

「トリエラ共々呼び戻された理由は聞いた。正直英断だ。こいつは使えない」

「えー? 手伝いくらいはするってぇ。一応僕も先輩だし?」

キリル先輩にのしかかるように懐きながらステファノ先輩が訴える。

それをキリル先輩は雑に引きはがして眉を顰めた。

「このとおり、俺たちも後輩は初めてで教えること自体なかった。それでも興味関心がそのまま行動に出るこいつよりはましだろう。今こいつの頭の中は、明日どう楽しもうかってことだけだ」

断言するなぁ。

けどステファノ先輩を見ると、そうかもしれないと思えるほどこっちの話気にしてない。

これはキリル先輩に話を聞いたほうが確かだろう。

「じゃあ、まず。会場って何処ですか?」

僕が聞くとステファノ先輩がそこには反応する。

「そっかぁ、まだ使ったことないよね。学園には学生同士がサロン開いたり研究会の発表をしたりするための広めの場所があるんだー。学生なら借りられるからそこで送別会しようって話になってねぇ」

どうやら前世で言うレセプションルーム、もしくは宴会場のような広い場所が学園には用意されているらしい。

家具や道具類は貸し出し可能で、小さいながらミニキッチン付きだから飲食も可能だとか。

そこで送別会というか見送りをしてくれるという。

そして出会って数日なので、まずは親睦会も兼ねるとか。

「つまり、村の集会場みたいな?」

「もっと上流階級な感じだとは思うけど、そんなのかな」

村育ちのネヴロフに、ラトラスが突っ込みつつ肯定する。

平民はまず縁のない施設。

けど上流階級のウー・ヤーとイルメはきちんと想像しすぎたようだ。

「席次は? この場合主賓はアズなのかしら?」

「けれど年功序列が学園の基本だろう。だったら上級生か」

「そこまでの集まりじゃないし、立食だから気にするな。平民がいるのはわかってる」

キリル先輩がすでに気を回してくれていたらしい。

立食だと挨拶は主催でこの場合上級生の誰かかな。

僕は招かれればいいみたいだ。

それこそ前世の大学の飲み会に近いのかもしれない。

「あと年功序列で言ったら、僕らの上も来るからねー」

「上って、もしかしてニノホトとリビウスの?」

ステファノ先輩の言葉に反応すれば、キリル先輩が答えてくれた。

「あぁ、まだ会ってもいないなら名前も知らないのか。ニノホトの先輩は…………」

「あらぁ、名乗りはうちの口で言わさしてもらいたいわぁ」

柔らかな口調だけれど、独特のイントネーションで女性の声が割って入る。

見ればいつの間にか教室の入り口に長い黒髪の女性が立っていた。

すらりとした身長と手足でアジアンビューティーというような見た目の人だ。

「あんじょうよろしゅう。うちは冷泉院の二宮、氷ノ姫て国では呼ばれるんよ」

僕は特殊な喋り口調にちょっと理解が遅れる。

クラスメイトを見てみると、全員が顔に疑問符を浮かべているというような顔だ。

たぶん聞き取れなかったんだろう。

「ご挨拶、ありがとうございます。御足労いただき…………」

ともかく貴族的に返しを考えていたら背後から突かれた。

見ればラトラスだったけど、クラスメイトたちが揃って口を開く。

「今の何語?」

「挨拶だったの?」

「もしかして目上?」

「訛りが強すぎないか?」

答えるべきか見ると、ヒノヒメと名乗った先輩は口元を隠して笑っている。

どうやら聞き取れない姿を楽しんでいるようだ。

そしてそれはキリル先輩もやられたらしく責めるようにヒノヒメ先輩を見た。

「レーゼン先輩、困らせないでください。話が進まない。イトー先輩も止めてください」

聞き馴染みのある苗字に見ると、金髪にオレンジの目をした人がさらに現われた。

名前は日本に近いのに、見た目は帝国の人とあまり変わらない。

いや、比較的アジア人に近い気はするけど、アジア人と呼ぶならイクトやウー・ヤーのような海人のほうが近いと感じる。

「こちら風に名乗れば、チトセ・ワカヒト・イトーだ」

「初めて会った時はイトーって名乗ったから、それが名前だと僕たち思ってたんだよねぇ。そしたらニノホトって家名から名乗るって。逆なんだってー」

ステファノ先輩がそんな豆知識を教えてくれた。

つまりこの落ち着いた人はチトセ先輩と呼ぶべきだろう。

…………この二人がロムルーシに高跳びしようとしたのかぁ。

見る限り、姫と武士って感じの取り合わせだ。

そして武士な先輩のほうは、お姫さまを止める気はあまりないらしい。

「あ、そないな顔して。うちらの後釜据えられたん、おたくやね?」

「はい、お話をいただいた際に事情も聞き及んでいます」

「よく聞き取れるな。俺たちも慣れるのに時間がかかったのに」

ヒノヒメ先輩に答えたらキリル先輩が変なところで感心する。

「帝国の古語に近く独特のイントネーション、そしてニノホトの文法に近い形で喋っておられるのはなんとか」

「そんな硬くならんといてぇ。とって食ったりはせぇへんよ」

にこにこしながらヒノヒメ先輩が見てるのは、僕の後ろに集まったクラスメイト。

どうやら僕が丁寧に対応してるから相当高位と理解して自重しているらしい。

黙ってたチトセ先輩が、しっかりとこちらの言葉で喋る。

「こちらはニノホト皇王直系宮家…………王位継承権の発生するお家のご当主であらせられる冷泉院のお二人目の息女であらせられる姫君だ」

僕たちにわかりやすく言ってくれた。

けどそれでわかったのは文化圏の近いウー・ヤーだけだ。

「王家から別れた公爵家か大公家なの、アズ?」

「親王とか宮家って言ってもわからないよね。臣籍降下はしてない、王族で家立ててるっていうか。けど院だから世俗的な継承権とかはない、わけでもないのかな?」

イルメに答えるけど、僕も実はあやふやだ。

親が院で出家してるけど、未婚だからまだ宮家に所属してるってこと?

悩んでると当人がひらひらと手を振る。

「難しゅう考えんでえぇんよ。うちらぁ、お国に帰るつもりないなってもうてん」

「国許へ戻るおつもりがないため、今はただの一学生として接して構わないとおおせだ」

気軽なヒノヒメ先輩をチトセ先輩が訳す。

それが普通らしく、ステファノ先輩もキリル先輩も気にしてない。

「それで、アズがレーゼン先輩の後釜ってどういうことー?」

聞き取れるステファノ先輩が、ヒノヒメ先輩に遠慮なく聞く。

どうやら悪びれる様子のないヒノヒメ先輩も気にせず答えた。

「お国からいねてうるさなってねぇ。もう、ロムルーシにでも逃げまひょかぁて企んだんやけど、ばれてしもてん」

「なるほど、後釜…………」

キリル先輩が同情の目を僕に向ける。

そしてさすがにチトセ先輩もこれは訳さない。

というかそういう時こそ止めるような立場なんじゃないのかな、チトセ先輩は。

留学での高跳びのことも、国に戻りたくないというお姫さまにも特に反応はない。

当のヒノヒメ先輩は僕に笑いかけて、両手を合わせてみせる。

「堪忍な?」

けっこうニノホトのお姫さまは自由な人のようだった。