軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211話:遅れて来た者1

入学から二カ月が経ち、僕はロムルーシ行きを目指して動いている。

僕がいる内にヴィーラの試運転を始めたり、抵抗していたテスタには、カルウ村の温泉についての資料を回したり。

エリクサーの材料が鉱物毒と知った上で見れば、実際知見があったらしく大人しくなった。

後は封印図書館にあった強化ガラスと合金の割合をルキウサリア国王に回して、再現できるかどうかの実験をお願いしている。

午後には学園へ行き、今日はウェアレルのエッセンスに関する授業を受ける。

やり方は知ってるけど顔出さないとね。

「…………増えてる」

教室に来たウェアレルが、そう言って緑の被毛に覆われた耳を下げた。

何がと言えば生徒がだ。

僕たちの教室だけど、机と椅子を持ち込んで、上級生三人が増えていた。

「ヴィー先生には許可取ったのにぃ?」

「聞いていましたが、ステファノくんだけかと思っていたんです」

実際は登校を了承したキリル先輩とトリエラ先輩もやってきている。

キリル先輩は軽く自己紹介をすると、僕たちが訪ねた経緯もウェアレルに話し始めた。

「なるほど。それで三人はエッセンスの色についてしりたいと。ですが、この授業はエッセンスの作り方と調合の仕方を教えます。色については独自にやってもらいますよ」

「え、色違い先生もできないんですか?」

ラトラスが驚くけど、ウェアレルは一応魔法の教師としているんだよ。

ウェアレルは、ちょっと考えて答えた。

「聞いたところによると独特なエッセンスの使い方でしょう。ディンク酒のために開発したと聞いています。私が知るのは書籍に遺された一般的な活用法ですから」

「あ、なるほど」

ラトラスもディンカーが作ったと知ってるから、それで納得する。

ただ尻尾を巻き込んでるのは、上級生たちの視線を感じてるせいかな?

ラトラスだけが知っていると思って、ロックオンした感じだ。

ウェアレルはディンカー独自として色についてはノータッチを貫くらしい。

実は色の作り方も知ってるはずなんだけど、教える範囲を書籍に限定にするようだ。

その上、忘れ去られていたエッセンスの使い方を一般的と言い切った。

「では復習を兼ねてエッセンス作りからするとして、三人はエッセンスについて知っていますか?」

揃って首を横に振られ、ウェアレルも困る。

「錬金術はどうやって? いえ、特定分野をしていると聞きましたし。では分野か何を成したいか、何で学んだかを教えてください」

「絵の具作りたいんだぁ。家の古書で知ったよ」

「薬関係です。修道院の言い伝えから、再現を試みています」

「うちは食事処と小売りを兼ねて。祖父が錬金術師だったんでその研究から」

見事にバラバラだけど、僕たちもそうだ。

そこにキリル先輩がさらに質問を投げかけた。

「そのエッセンスというものは、帝都では一般的な錬金術なのでしょうか?」

「私も帝都に行って初めて見た者です。ですが、狩人を中心に詐欺商品として有名だったようですよ」

ウェアレルはなんでもない風に言うけど、たぶん初めて知ったのは僕と同じ時だ。

僕が読む本に目を通していたから、それでエッセンスの存在を知ったんだと思う。

たぶん最初から知っていたのは元狩人のイクトだけじゃないかな。

「錬金術師以外が使い方もわからず使っていたようです。売っていたほうも誇大広告で騙すつもりでもあったでしょうが」

「狩人?」

「何それ?」

どうやらイルメとネヴロフは知らないらしい。

聞けばエルフでは狩人と言えば森林保護官のようなもので、いわゆるレンジャー。

規律が厳しく詐欺商品に引っかかるようなことのないそうだ。

そしてネヴロフは、過酷な環境のため動物はもちろんまず魔物がほぼいない。

狩人があの山脈に分け入ることもなく知らない職業だった。

「魔物退治を生業にする者で、腕が良ければ領主や貴族に仕事を依頼されることもあります。それと同時に挑戦と不服従を尊ぶ旅暮らしの人々です」

「つまり浮浪者?」

「イルメ、違うから。ちゃんと社会貢献はしてるし、大抵は狩人で体を資本にお金溜めて、安定した暮らしに移行するための人たちだよ」

「あと腕のいい狩人は人気が出て一つの街に定住して活動することもあるよ。俺ら商人なんかは移動の時に世話になった」

あまりなイルメの理解を、僕とラトラスで修正。

「私の家は定住しての商売だよ。狩人の人もあまりいないから知らなかったなぁ」

商家の出のトリエラ先輩は、ラトラスとは違う商業形態で馴染みがないらしい。

大公家、伯爵家の出であるステファノ先輩とキリル先輩も狩人は知ってても詳しくない。

「あ…………そう言えば旅する中で新米だという狩人が散々笑いものにされてたあの色水。もしかしてエッセンスか?」

ウー・ヤーが手を打って目を瞠る。

どうやら騙された狩人を見たそうだ。

せめて炊きつけにしようと赤茶色の液体を薪にかけたという。

けれど火がつくどころか薪を湿らせて怒られた上、効果を誇大に謳った詐欺商品、ただの汚い水として笑いものにされたんだとか。

「でも、全然色も違ったし、エッセンスはちゃんと液体が火に代わる」

「帝都でもそういうエッセンスあるし、帝都で売られてるエッセンス買い集めて検証してたけど、混合棟で作られるもののほうが、あ、えっと…………」

「何なにぃ?」

口滑らせそうなラトラスに、ステファノ先輩が机から身を乗り出して食いつく。

たぶん僕が派兵でいない時とかに、モリーたちがやったんだろうな。

まともな錬金術師いないって言ってたし、エッセンスのことも調べてたのかも。

結果として僕が教えて作れるようになってもらったモリーたち以上の腕前はいなかったってことだろう。

「道具が、いいから、けっこうまとも?」

「確かに道具の良し悪しは結果に関わります。帝都にテスタ老がいらした時も、帝都で揃えた道具では蒸留水一つまともに作れなかったとか」

ラトラスが言い淀むのをウェアレルがフォローする。

宮殿で、テスタが確かにそんなことになっていたと聞いた覚えがある。

キリル先輩がそわっとするけど、手紙の件は屋敷に戻って確認したからウェアレルも知ってる。

たぶん今後も取り次いだりはしないだろうから、本気なら地道にヴラディル先生手伝って、テスタ本人と面識持つなりしてほしい。

「あの時知っていれば。エッセンスで火をつけて、魔物の肉が食べられたのにな」

水属性の魔法しか使えないウー・ヤーが後悔を呟く。

どうやら薪を湿らせて火が焚けず、食事はありものになったようだ。

僕も派兵で魔物化した猪を食べたから、どんなに保存に気を使っても季節によっては一日で駄目になるのは想像がつく。

「へー、魔物って食べられるのか?」

「魔物を食べるだなんて変な病気になるんじゃない?」

ネヴロフとトリエラ先輩はどうやら食べたことがないようだ。

ネヴロフは魔物自体を知らないからだけど、トリエラ先輩は声から拒否感が強い。

よく見れば、ステファノ先輩とキリル先輩、イルメも思わしくない表情だ。

僕はラトラスと顔を見合わせた。

「食べるよね、魔物。けっこう美味しいし」

「獣人だったら魔物食べることで一時的に身体強化の質が上がるから食べるけど」

それはさすがに知らないなぁ。

獣人って魔物食べるとバフかかるんだ?

軍だと魔物化した猪をおすそ分けして喜ばれたくらいだけど、もしかして魔物食ってロムルーシや帝都周辺だけの話?

ウェアレルを見ると耳を動かしつつ教えてくれる。

「魔物を食べるかどうかは地域差ですね。そして可食かどうかも魔物によって違います。少なくとも獣人には食べることの恩恵があり、帝都は人種が豊富ですから食生活も色んな所の食事があります」

「それで言えば、チトス連邦では魔物化した魚を食べるな」

どうやらウー・ヤーは旅で肉は初めてだったけど国では当たり前に食べていたようだ。

「魔物化した動物は精霊を怒らせた罰を受けているのよ。そんな物を口にするなんて」

イルメはエルフの宗教における考えを語る。

けどそう言えば前世の宗教でも、豚は穢れとして食べることを禁じてるところがあった。

その教義の元は豚を食べたことによる病の歴史ではないかと聞いたことがある。

もしそうなら獣人にバフがかかるように、エルフにはデバフの可能性がある?

と言っても試すなんてことはできないだろう。

それくらいイルメは嫌そうだ。

「おっと、話がわき道にそれていますね。ともかくエッセンスは一部ではまだ継承された技術ではあります。ですが、どうやらその継承も上手くいかずに使い方を間違う錬金術師もいるようです。その上でエッセンスは精度というものも効果に関係します。作る際には手順を間違えないように」

ウェアレルが授業に話を戻す。

エッセンスの作り方の復習と、本来やるつもりだった授業内容を駆け足で終わらせた。

そして最後に今日から参加の三人のためにエッセンスを実際に作る行程を見せる。

エッセンス自体に物珍しさはないけど、色んな話を聞けるのは面白かった。