軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話42:トリエラ

久しぶりに教室へ行ったら、そこは予想以上にひどい状態で、もはやスティフくんの工房にされていた。

ただそれを注意する気も失せるような大変なことが起きた後だと、なんとなく片づけの続きという作業を再開してしまう。

「なんなんだ、あの下級生たちは…………」

キリルくんが床に散らばった画材を拾い上げつつぼやくように言った。

「なんだろうねぇ。仲良しなのはわかるけど、びっくりしたよ」

教室にいることがわかってアクラー校の魔法学科が意地悪をしに来た。

私は驚いて悲鳴を上げるだけだったんだけど、下級生たちは突然窓から水の魔法を放り込まれた途端反撃に。

それで追い払ってしまったんだからすごい。

今は投げたものの回収で外へ出ている。

「面白いでしょー。魔法学科とやり合って勝ってるんだ。その上、ラクス城校のほうが後ろから狙うことをしたから教師の間でも問題になってるんだって」

スティフくんはあまり興味なさそうに言うけど、私は驚いて手を止めた。

今までヴィー先生が訴えても一時的に静かになるだけで、結局時間が経てば何も変わらなかったのに。

それどころか一人の貴族を相手にしたら貴族が徒党を組んで仕返しにも来たから、誰も触らないようになっていたくらい。

キリルくんは床から拾ったものをごみとそうでないものに分別しながら聞く。

「あの中の誰かにそれほどの影響力がある後ろ盾がいるのか?」

「んー、たぶん一番身分が高いのはエルフの子かな。けどルキウサリアじゃ無名に等しいね。それよりも密かに注目集めてるのは猫の子だよ」

ラトラスくんはどうやら帝都で人気のお酒を扱う商人の家の子らしい。

しかも錬金術でお酒を造っているんだって。

「は、まさか私の商売敵?」

「田舎と帝都じゃ勝負にもならないよー。皇帝にも献上品として上げられたって言うし」

スティフくんがばっさり言うけどそれは確かにそう。

故郷のヨウィーラン王国は、スティフくんの故郷リビウスにも劣る田舎の国だもん。

このルキウサリアのように高い建物が並んでいる街並みなんて王都一つくらいのもので後は畑、もしくは放牧地。

そして斜めに傾いだ家々を誤魔化し誤魔化し使ってる。

働けば食べていけるんだけど、それだけだと家を修繕するお金もなかなかない。

「…………だが、下級生を率いてるのはアズロスという生徒だろう?」

「そう言えば、どの子もアズくんの様子窺うよね」

キリルくんのところにもお邪魔していたらしいし、だったら私のところに来た時と同じ様子だったはず。

それぞれ発言は自主的にしてたけど、その正否を確かめるようにアズくんを見てた。

だから私はアズくんが一番偉い家の子で、主導的な立場にいるんだと思ったんだけど。

「一番長く錬金術やってるらしいよ。あとマナー関係は完璧みたい」

「あぁ、留学すると言っていたし、勉強の進度で一番余裕があるからか」

パンくずを落とすスティフくんを、キリルくんが睨みながら頷く。

そうして片づけをしつつ、私は気になったことを聞いてみた。

「なんだかスティフくん、アズくんのこと気にかけてる? というか、下級生たちにずいぶん詳しいような」

スティフくんは大公家という偉いおうちに生まれ、その上大勢いる内の一人として責任も抑圧もなく育った。

そしてあくせく働くような環境でもないまま、おおらかで、周囲にされるままであると同時に自分の道は譲らない性格に育っている。

ヨウィーラン王国の貴族出の子は、偉ぶっていて苦労知らずだとぼやいていた。

けれどカツカツで怒りっぽく、下に当たることが当たり前の人よりもそれくらい余裕があるお貴族さまのほうが私としては嬉しい。

「アズくんは面白いよぉ。他の子たちが手探りなのに、あの子だけ何か別のところに視点があるんだ」

そう言って手を止めるスティフくんは、ずっと騒ぎの間スケッチを進めていた。

できたと見て、私とキリルくんは覗きに行く。

文句を言いつつキリルくんはけっこうスティフくんの絵が好きだ。

私なんてそんな物に触れる機会すらなかったから物珍しさだけど、キリルくんがいうには、宗教画を描けば教会でも仕事が取れるとか。

ただ本人はあくまで絵をかくのは趣味で、やりたいのは画材の開発らしい。

「ほら、全体を見られる位置にいるんだ。一番最初に動いたのに」

描き出されたのは教室の風景。

窓に寄っているキリルくん、別の窓にはクズリという聞いたことのない種族の獣人であるネヴロフくん、その後ろに臨戦態勢のウー・ヤーくん。

そして半歩身を引いているエルフのイルメちゃんがいつでも前に出られるようにして、逆に同じように半歩退いてるけど身が低いラトラスくんは、いつでも逃げられる体勢。

そんな子たちを後ろから見て、懐に手を入れているアズくんが描かれていた。

「確かに一人だけ目の前の問題よりも別のことを考えているような泰然とした表情だな」

「最初に手を出した上に、自己責任なんて安全策を大声で言うんだから笑っちゃうよねぇ」

私は慌てて忘れていたけど、そう言えば掃除だからとか言っていた。

安全策って今までの学園生活で聞いた限り、後から怒られないための言い訳だ。

それを動いてすぐに言えるんだぁ。

アズくんはとても頭がいい子らしい。

二つも年下なのにすごいなぁ。

「二人も行き詰ってるんでしょ? 僕もなんだぁ。もう国に帰って手あたり次第試すしかないかなって思ってたんだけど、下級生たち、きっと面白いことしてくれるよー」

スティフくんは、私ともキリルくんとも違う視点を持ってる。

それで発される言葉はけっこう当たる。

キリルくんと目を見交わすと、どうも図星。

そして私も確かに行き詰ってる。

「食べ物に色をつけるって聞いて。考えたこともなかったんだけど」

「それは貴族の食べ物だからな。こちらも薬に色を付けると言われた」

「あはは、僕は素敵な青に惹かれてるよ。持ってたのはラトラスくんだけど、アズくんが言い出したんだよね。使えるって」

珍しくスティフくんは誰かの面倒を見るということに乗り気らしい。

「半年の間下級生を見てればぁ、戻ってきたアズくんに相談持ちかけてもいいと思うんだよねー」

「そこはものを持っているラトラスじゃなくか?」

キリルくんに聞かれたスティフくんは、描いてしまったスケッチを放り出す。

「そこはエッセンスっていう錬金術の道具を作るやり方教えてくれるって言うしー。だったら後は独自に研究。けど、もとから考えもつかない発想なんて、聞くしかないしー?」

「そう言えば、試作品にちゃんと感想くれたのアズくんだったなぁ」

保存食としてという使い方と、何が駄目かということも言ってくれた。

スティフくんとキリルくんに食べさせていて思ったのは、私が作るのは労働者向け。

けれどそれとも違う方向性を示してくれてる。

「お料理できる人なのかな?」

「そこはわからないが、少なくとも独自に薬剤を作るだけの腕はあるんだろうな」

確かに幻覚剤とかいうものを持っていたし、その点ではキリルくんも興味を覚えたようだ。

「だが、また絡まれるとなると、下級生を見る余裕があるかどうか」

「そこは来ようよ。キリルくん、また細くなってるよ」

言って、私は昨日作った肉クッキーの残りを二人に渡す。

小麦粉に細かくした肉、ナッツ、ラードを混ぜ込んで焼成してある腹持ちが良くて簡単に食べられるを目指した試作品。

「不味い。肉の味はするが肉の食感がないし、小麦の匂いも死んでいる」

「わぁ」

「やっぱりそういう反応しかくれないよねぇ」

キリルくんは駄目出ししてくれるけど、突き詰めると高級食材を使えってことになる。

その辺りがまず、私と食の基準が違いすぎた。

そしてスティフくんは余計なことは言わない。

言わないけど、特に隠しもしないから不味いって思ってることは見ればわかる。

「…………今度砂糖と干し果物と香辛料あげるから祝い菓子作って来てぇ」

「はぁい」

スティフくんが口直しを要求して来たよぉ。

そこまで不味いのかな、ありって言ってくれた子たちは何が良かったかもう一度聞こう。

スティフくんには、肉クッキーに使ったナッツ類のあまりも入れようかな。

「お酒で香りづけしたいからお酒もくれる? 砂糖は保存用に表面包むから多めに」

「お前は普通に作れば美味しい物を作れるのに、どうしてこう妙な手を加えるんだ?」

「だってぇ、売りになる珍しいものを作るのが目的なんだもの」

お祝いで食べる豪華なお菓子を作ろうとしたら、キリルくんが溜め息を吐く。

たぶん貴族の生まれである二人が美味しいと言ってくれるものを作れるのは誇っていいとは思うんだ。

けど高い学費を工面してくれた親族を思えば、もっと別の、私たちでも食べられる美味しいものを模索したいじゃない。

けどそれがまず行き詰ってて、色を変えるって少なくとも私にはなかった考えだ。

アズくんでなくてもいいけど、そのヒントをくれる子がいたら嬉しいなぁ。