軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

183話:留学皇子3

今でも揃えるには莫大な費用が掛かるのに、完成形として存在する封印図書館があった。

八百年前は帝国から侵攻を受けて、お金なんてない時期にもかかわらず。

そんなルキウサリア以前の国、三国同盟が費用を賄ったあて、それは贋金ではないか。

僕の推測は別に思いつきじゃないし、錬金術も関係している。

「電気あるし、 鍍金(めっき) できると思うんだよね。けど、その辺りの記述は封印図書館にはなかったけど」

「鍍金が何かを聞いてもよろしいですか?」

制約のないウォルドが素直に聞いて来た。

見ればテスタたちも知らない様子だ。

けど声にして聞かないのは口束の魔法のせいだろう。

僕の秘密という括りは心理的な縛りだ。

何を言って死んでしまうか本人たちにもわからない。

狙いどおり口を硬くさせられたけど、喋れないのはそれはそれで面倒だな。

「ウォルドが条件に入ってないから喋れないなら、あとで口束の魔法の条件変更をしよう。今は地下の硬貨を調べようか」

僕たちは地下へと移動を始め、その間に鍍金について説明をした。

鍍金は、日本人として馴染みがあるところでは金箔だ。

技術的には錆止めや金属塗装というほうが聞こえはいいだろう。

「結構古い技術らしくて、帝室図書館の本にも書かれていたよ」

地下への仕掛けを解きながら言えば、初めて見るウォルドは口が開きっぱなしで目を逸らさない。

「やり方は…………電気分解から説明することになるから、ナイラに実験可能か聞いてみてからでいいか」

ミサイル作ってるし、錆止め技術がないわけがないだろうし。

地下に降りて宝を見ることはできても、罠が仕掛けられているため下手に触れない。

ただ見る限りはちゃんとした金貨に見える。

「ナイラ、この硬貨を調べたいから取りたいんだけど」

「どうぞ、お取りください」

姿の見えないナイラが言うと、何処かで仕掛けが動く音がした。

仕掛けをロックしたか何かだろう。

手に取って金貨を見つつ、オリンピック関係で金メダルも鍍金だって何かで見たことを思い出す。

これも鍍金は噛んだくらいじゃはがれないと思っていいのかな?

「…………一応聞くけど、ナイラ。これって鍍金?」

「ご明察です」

「え!?」

声の主がいないことにきょろきょろしてたウォルドが声をあげるけど、僕も含めすぐさま肯定とは思ってなかった。

鍍金のことはよくわからなくても、ナイラの肯定が贋金に繋がることはわかったらしい。

「うん、よし。下行って話そうか」

罠だから鍍金と言うことも考えられるけど、考古学やってるテスタたちが食いついたんだ。

つまり全くの偽物ではなく、本物と思えるくらいには精度が高い。

そんなのわざわざ作る理由を勘ぐるなと言うほうが無理だろう。

初めてのウォルドは途中で動けなくなったのでヘルコフが担いで降りた。

出迎えたナイラには、その場で話を進める。

「上に言わずに来たから手早く済まそう。ナイラ、この封印図書館の前身である研究所を作るにあたって、資金はどうしたの?」

「お持ちの硬貨を新造しました」

「あーあ」

予想どおりの答えに、ヘルコフが思わずと言った様子で声をあげる。

見れば財務官であるウォルドも顔面蒼白だ。

「絶対値崩れが…………回収も…………新たに貨幣鋳造…………もっと資金がかかって…………」

具体的な問題を呟くウォルドに、テスタたちも身震いする。

どうやら贋金は相当後から響いてくる問題のようだ。

新たに作って秘密裏に回収するにも、まずお金がないから贋金を作ってる。

新造する資金繰りもまた問題になるし、さらに贋金を資金にしてばらまいた後なら、入れ替えには贋金を使った以上の資金が必要だ。

贋金を使っていたと知られれば信用はがた落ちで、お金の価値自体が下がってやはり何を買うにも価格が跳ね上がることになるだろう。

「露見していないだけましだと思おう。ナイラ、八百年前から今までばれないよう何をした?」

「この地を作るための資金面で使用しました。その後は黒犬病でこの地を封印したため、製造方法が地上では失われたものと推測します」

ここの錬金術と同じでごく短期間、贋金は使用されたらしい。

しかもすでに失伝していて、さらに世界的な疫病による社会の停滞が起きた。

それらによって贋金のことは露見せず、時をかけて新造硬貨の入れ替えが成功したと言うところか。

立て直したテスタたちも、何処の国に使ったかなどを聞き始める。

その上でどうやら、現在に影響する心配がないとわかった。

さすがに八百年前なら、日本でも鎌倉時代で現代に影響が残るほどではないだろう。

「ただ、技術がありそれを悪用した前例があるのであれば、気は抜けません」

イクトが釘を刺すように言うと、テスタたちも神妙に頷く。

けれどナイラは表情自体ない淡々とした様子で事実だけを告げた。

「今一度行うには使用金属が足りません。しかし作るための機材は未だ稼働可能です」

「あぁ、そう来たか」

苦笑いする僕と違って、テスタたちは必死に首を横に振る。

この善悪のなさ、セフィラに似てるな。

八百年前は防衛のために苦肉の策でも実行見越して戦力の増強を計った。

それだけ覚悟決めてたなら、贋金くらいはまだ軽いほうだろう。

当時の人間の疑似人格で動くナイラとしては、そういう基準なんだと思う。

(ナイラは古い価値基準のまま。だから黒犬病を利用しようとしたテスタにも乗った。この考え方はきっと後でまた問題を引き起こす)

(代替機の存在を確認。初期設定における機体名ナイラとの相違あり)

(天才に作られた自覚あったみたいだし。たぶん疑似人格と共に天才の影響があるんだ)

セフィラ曰く、代替機は複数ある上、すでに代替機に変えている様子もあるそうだ。

すでに起動不可能となった機体も見つけている。

たぶんナイラは天才に作られた当初から、後継機を乗り継ぐように活動してる。

その時に学んだことを今も引き継いでいるんだろう。

そしてそこには八百年前の今とは違う倫理観と共に、人間たちが忘れ去った歴史の事実が含まれる。

「ナイラ、君は今やこの封印図書館の一部だ。今を生きる僕たちが研究し、過去を顧みるための史料に他ならない」

共通認識を確立するために言葉にしたんだけど、返事が遅い。

想定外の言葉に理解や対応が遅れているようだ。

だったらここは畳みかけよう。

「テスタもそう思うよね?」

「おっしゃるとおりです。八百年前のその時を生きた人間が存在しない今、当時の人間を克明に記録していることは重要と言えます」

「ナイラ、僕たちとしては君に今以上の活動によって情報を上書きをしてほしくはない。それは資料の損失に他ならない。君はこの封印図書館の保存と維持を行ってきたはずだ。だったら自らを書き換えること自体が資料の棄損になりかねないことは理解できる?」

「理解、検討します」

「いや、まずは提案を聞いてほしい」

どれだけ説得が有効かは知らないけど、上手くいけばナイラの暴走を抑止できそうだ。

「君は同型機に情報を移し替えて今まで活動している。そこには少ないながら欠落があるはずだ。どんなに写し取ろうとしてもエラーがうまれるだろう。今までそうして来たなら、少しの欠落が大きくなっている可能性は高い。だから君には情報の移し替えをせず、長くその機体と共に情報を維持してほしい」

「活動を続ければ耐久年数が減るのもまた自明です」

「うん、だから別の機体をこの封印図書館の維持管理のために起動してもらう。君はできる限り機体をもたせるために仕事を減らすんだ。機体の初期設定は残されていて、疑似人格の設定も可能なはず。何より受け継ぐなら確認も兼ねて分業するべきだ。資料整理とでも思ってね」

つまりは司書役を別の機体に任せる。

そちらはナイラのような学習をしていない状態なので、今の常識を覚えて行くはず。

そうなれば、こっちとしても操縦が可能かもしれない。

ナイラは駆動音を響かせたまま沈黙する。

駄目かと思った時、淡々と読み上げるように言葉を発した。

「…………帝国第一皇子殿下の提案を検討。有用性を確認。対応措置を検討。提案の実効性を確認。受諾します。機体名ヴィーラの起動を開始」

どうやら後継機をすぐに起動し始めたらしい。

そんなことになって何も聞こえないってことは、すでにセフィラは様子を見に行ったな?

「ナイラ、君の持つ情報は有用だ。それと同時にこちらもその情報を受け入れる準備が必要になる。ヴィーラには封印図書館の維持管理だけに集中させてほしい。その上で君の持つ情報は封印図書館の維持管理以外伝達しないように気をつけて」

同型機同士で通信できるかわからないけど、余計な学習をしないよう言っておいた。

ともかく贋金の存在は今いる者たちで秘密にして、王城に報せることに決めると、何故かウォルドが胸を撫で下ろす。

まぁ、あからさまに他国の面倒ごとだもんね。

技術としては有用だけど、事実としては知らなくていい話だった。