軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182話:留学皇子2

封印図書館の真上で、僕はテスタたちと額を寄せ合って唸る。

「うーん、考えてみれば弱い国だからこそ同盟結んだんだよ。それでどうして封印図書館なんて作れたのかもっと疑問に思うべきだった」

「これは、今でも各地に輸送ルートがある帝国でならば可能と言ったレベルでは?」

計算を手伝ってくれたウォルドは、手元の計算をやり直しつつ言う。

多岐に渡る素材の産地はバラバラで、前世のレアメタルなんて使ってはいないけど、それでも産出国ではないルキウサリア王国で、封印図書館を作るのは現在でも無理だ。

それなのに、実物はこの下に確かにある。

テスタとしては、一つ思い当たる部分があるらしく考え込む。

「ふぅむ。今は産出せずとも、八百年前には貨幣の新造ができるくらいの資源があったのではないかと考えられております。実際、新造に関する記録は残されておりました。そのため、国内に忘れられた鉱床があるのではないかとも言われていたのですが。これだけの種類となると鉱床一つ二つでは賄いきれませんな」

考古学的にはそうした推論があったそうだ。

そして、封印図書館に行くまでにあった宝、その中でテスタたちは貨幣に興味をもっていた。

その理由が歴史ロマンと実益の両方だったらしい。

「だからって新造するには金属はもちろん燃料も必要だ。お金を作るためにお金使うことになるんだから」

ルキウサリアは結構緑地があるけれど、木材となると話は別だ。

今では学園に集まる王侯貴族からの外貨で、建材や薪を輸入するお金もあるけど、八百年前の国の体裁を作り始めた時期にそんな資本はない。

「殿下、こっちの計算はなんです?」

ヘルコフが指すのは、ウォルドにやってもらった金額とは別に僕が書いた計算だ。

それは時速と距離だけの簡単な概算を書き連ねたもの。

僕は答える前に周囲を見て、ヘルコフとイクト、ウォルドを確かめる。

後はテスタ、ノイアン、ネーグがいるだけだし、これならいいか。

「封印図書館、見えないくらい離れた位置から街一つくらいなら壊せる兵器あるんだけど」

「…………はい?」

ほとんどが絶句する中、イクトだけが間はあったものの聞き直してきた。

「あ、実物はさすがに残されてないよ。今計算して、作り直すにも相当なお金と材料が必要になるから、秘密裏に作るとかは無理だってわかったし」

「え、これ…………」

ウォルドは自分が計算した紙を見直して身震いをする。

「で、簡単に計算したけど、それだけお金使っても、射程が足りないんだよね」

封印図書館にあったミサイルなんだけど、さすがに大陸間弾道なんてものじゃない。

地対空ミサイルっぽい箱と筒を合わせたような見た目だけど、前世のように移動可能な車体なんかない。

据えて打ち出すタイプだ。

それでも車もないこの世界じゃ行き過ぎた兵器にかわりない。

「移動させることは設計上考えてない。つまり国内から発射する形だ。けどこんなの作っても、隣国の首都には届かないし。国内に撃つ理由も…………何かある?」

僕はルキウサリア王国の歴史は表面しか知らないから、つい今の常識で語ろうとしてしまう。

もしかしたら八百年前は攻撃対象いたかもしれないので、テスタに聞いてみた。

「正直、殿下の想定が理解しかねます。故に、どう答えてよいやら」

テスタは慎重に言葉を選んだ。

薬関係の人だから兵器とかは門外漢だったりする?

「えーとね、ここから一番近い街道の街に届くかなって距離? いろいろ条件揃えばもっと飛ぶとは思うけど」

前世で考えれば、近代兵器としてはしょぼい飛距離。

けれどこの世界では画期的な飛距離だ。

複数人で使う大型の魔法もあるけど、結局人間が視認できる距離しか飛ばないし。

(あ、そうか。条件もっと考えないと。ここ高台だ)

(修正はどのように?)

セフィラが興味を持ったので、計算をし直してもらう。

高いところから低いところを狙えば飛距離は伸びると思ったんだけど、それでも一国の領土を超越できるほどではないようだ。

敵軍と見合って使うなら、一撃で敵軍を壊滅させられるだろう。

ただそれなりに大きいからミサイルは的にされかねないので、どう使うつもりだったのか。

「戦場で組み立てできるのかな? 安全確保するなら、国境で組み立てて一発敵国には届く。ただそれも相当な費用が掛かるから、一回きりしか使えないかな」

想定を伝える僕に対して、イクトとヘルコフが意見を挙げる。

「でしたらおびき寄せて確実に狙うための罠を併用する方法が手堅いでしょう」

「そうだな。それなら国内で地の利のある場所に敵軍集めて一網打尽ってところか」

「あぁ、なるほど。つまりそれだけ危機的状況を想定しての最終兵器扱いか」

兵器としての活用方法はあるらしいので、改めてテスタに聞く。

「封印図書館となる前段階で、この地にそういう危機的状況ってあった?」

「あり、ました」

喉が渇いたような声で返事をしたテスタは、唾を飲み込んで言い直す。

「えぇ、ありましたとも。黒犬病の前ということでしょう? であれば、教会荘園との独立戦争かと思われます」

八百年前、教会関係者が荘園として土地を持っていたけど、三国同盟がなってから独立の動きが生じた。

対立が起きて、激化すると民が教会から派遣されていた荘園領主を追放。

それを理由に教会側が帝国に助けを求め戦争状態になったそうだ。

あ、うん。

そこなら僕も自国の歴史でやったよ。

勝手に独立するとか言って、一切の権利財産を奪ったっていう形でね。

しかも教会の私財も全部没収したとかって、まぁ、そこはお互いの見解の違いだよね。

結局帝国軍が出て来たことで、三国同盟側は劣勢に陥った。

独立した荘園も、一度は帝国軍に奪い返されたんだとか。

「最終的には帝国が義理を果たしたとして退いて講和。何度か荘園では独立運動が繰り返されて、最終的に教会のほうが他の国の介入を受けて、荘園を譲ったって形で独立だったよね」

となるとだ、ミサイルを叩きこまれる想定、帝国軍かぁ。

帝国相手なら三国同盟の国々すべてに戦火の可能性もあったんだし、火力求めるかも。

その上で同時代に天才が生まれて、ミサイルを作成してしまった。

「そうか、侵攻されて国内に足場を築かれた時に、そこをいっそ街ごと…………」

「国全体を奪われるよりもましと言ったところでしょうか」

「侵攻するなら拠点にした街に兵も食糧も集めはするでしょうね」

僕の呟きに、イクトとヘルコフは他人ごとで、結構な戦果が見込まれることを告げる。

けど自国の話であるテスタ、ノイアン、ネーグは固まったままだ。

ただこの想定は使える。

ミサイルなんて実用化されても、戦いの激化しか想像できない。

だったら諸刃の剣だと最初に刷り込んでおくべきだろう。

「そうなると、天才が黒犬病の元になった毒を作った理由も同じだろうね」

「ま、まさか!? …………敵に占領された街に、それは…………」

テスタも薄々気づいてたから反応が早かったんだろう。

想定さえしていなかったノイアンとネーグは、肩を跳ね上げて慌てて否定した。

「ありえない! 占領されたとしても街の人々は大抵そのまま街に住み続けるのですよ!」

「そ、そうです! ましてや黒犬病に汚染されたとなればその街に戻ることもできないのに!」

肉を切らせて骨を絶つ、もしくは苦肉の策。

民ごと敵を消さなければ国が消える。

それだけ弱い国だったということなんだろう。

そんな始まりだったと思えば、ルキウサリア王国が今八方美人で争いを避ける方向性なのも頷ける。

「問題は国内での使用を企図していたにも拘らず、天才は特効薬を作れていないことだ」

そこは作る前に持ち出されてしまって、天才自身も死なせないよう隔離されてる。

だから作るに作れなかった可能性はあるけど、今は割愛。

「できる限り残った毒の解毒方法や対症療法を研究すべきだと思うけど、どう?」

僕の言葉にテスタたちは揃って頷く。

封印図書館は知識の宝庫で、それを使えばルキウサリア王国は強国になれる。

けれど同時に世界を戦争へと駆り立てる技術でもあることを僕は知っていた。

だから、そもそも自国すらも攻撃対象に含んでいた技術だとわかったのは牽制として大いに役立つ。

これだけ言っておけば、薬関係で余計なことはしないだろう。

ミサイルの技術についても、国内を危険にさらすものと認識してくれたらいい。

「あとは…………」

僕の頭に浮かぶのは、地下に降りてすぐ目につく宝の山。

帝国に敵う財力もなかったはずなのに、これ見よがしの罠として据えられていたあれだ。

「贋金かな?」

思わず声に出すと、さすがに全員が頭を抱えてしまった。