作品タイトル不明
38話
呪具製作が始まって、実習室の中は騒がしくなっていった。
各々の生徒が協力して呪具を作っているのだが、初めて製作する人が失敗する度に、製作に手馴れている生徒が助言する。そうした会話が成立すると、自然と雑談の流れになっていく。
生徒たちも、授業中ということもあって、最初は小声で話していた。だが鬼瓦先生からの注意が来ないこともあって、段々と普通の声で喋るようになっていた。
満景のグループでも、共同で祓串を作っている若槻と小里は会話しながら手を動かしている。
「若槻ちゃん、上手~。テレビ番組でお呪い道具の作り方を披露していた過去を持つだけあるー」
「そんなことないよ。それに作り方を伝える番組は、一度だけだったしね」
「全国のチビッ子が挙って真似したことで、ちょっとした騒ぎになっちったからだよねん?」
「実は、詳しく教えてもらってないんだ。噂で、どんな事態が起こったかを聞いたぐらいで」
「よくあった噂だと、自作のお呪い道具を使って、祓ってはいけない霊を祓っちゃったとか、家の守護妖怪を追い払う真似して怒らせちゃったとかね。出所の怪しい噂だと、作ったお呪い道具に悪霊が入り込んじゃって、祓いきるのに大金を使う羽目になったとか、聞いたことあったね」
「へー。悪霊の下りは初めて聞いたかな。それって事実なの?」
「言ったでしょー。出所の怪しい噂だって」
二人が人の興味を引きそうな話題を口にしているが、満景は内心で首を傾げていた。
自作の呪い道具が悪さを起こしたという話だが、満景は小学校中学校の時代に、そんな場面に出くわした記憶がない。
そも、若槻が昔に有名だったというが、満景は家庭で虐げられていた環境もあってテレビ番組に詳しくない。そのため、二人の話題が真実か否かも判別できない。
満景は、二人の会話は自分とは関係のないことだと判断し、呪具作りに集中することにした。
満景が作っている折り紙は、俗に『ヤッコさん』と呼ばれる折り紙。
製作の手引書には、上半身と下半身をそれぞれ作って合体させるものが載っているが、上半身だけの折り紙も存在している。
満景は、手引書通りに紙を折ったり開いたりして、完成を目指す。作業が雑にならないように、見た目が綺麗に出来上がるように、細心の手つきで作っていく。
霊能者を育成するための学校だけあり、折り紙に使う紙ですら手触りで高級だとわかる滑らかさ。
(製作に失敗したものでいいから、持って帰って自分の呪具用に使いたいなあ)
そんなことを思いつつ作業を進めていき、上下を組み合わせる段階になって、満景は手を止める。
よくある作りかたは、上半身と下半身を合わせ目で糊付けするもの。
しかし今回の作り方は、下半身のお腹部分を少し折り曲げて、上半身の中に入れるものだった。
手引書には、この上下を合体させる際に無理に力を入れて紙がくしゃくしゃにならないようにと、注意点が書き込まれていた。
満景は、合体する部分を注意深く観察し、どうやったら抵抗少なく合体できるかを探る。
そして、やり方を思いつたら、早速実行する。
失敗しても、まだ実習時間に余裕があるのだから、作り直せばいいやと考えて。
その思い切りの良さが功をそうしたようで、上手い具合に折り紙の上半身と下半身が合体した。
外から見る分では、まるでお手本で作られたもののように、上手く出来ている。
満景は、グループの他の面々が作業中――ギヤマンは居眠りしているが――だと確認すると、一人で鬼瓦先生に成果物を見せに行った。
「折り紙、作りました」
「おー、出来たか。上手く作ったもんだな。よし、合格。他のも出来たら、見せに来いよ」
鬼瓦先生は元の席へ戻るように指示をだし、満景は従ってグループに戻った。
鬼瓦先生の講評で満景が課題を終わらせたことが教室中に伝わったらしく、真面目な生徒が雑談を切り上げて製作に集中し始めた。
満景のグループでも、若槻が小里との会話へおざなりな対応するようになり、祓串の製作に熱中しだす。
楽しいお喋りが唐突に終わりになって、小里が満景に恨みがましい目を向けてくる。
満景は、小里に若槻を手伝ってやれと身振りしてから、自分は力雄に近づく。お札の政策に苦戦しているようなら、手助けしようと思って。
しかし、満景のその気配りは、要らない世話だったようだ。
「力雄って、文字書くの上手だね」
満景が思わず感想を口にしてしまった通りに、力雄が毛筆で書いている文字は、これぞ正式な達筆だとお手本にしたいほどだった。それこそ、どこぞの書道家の作ではないかと見間違うほどに。
力雄は、光影に褒められて、顔は厳めしいまま頬を照れで赤らめている。
「実家が神社だから、これぐらいやれるよう、文字の書き方を教わるんだ」
「神社だと御朱印帳を書くもんね。その手伝いをするために、文字が上手くなるわけか」
「先祖伝来の書を読むのにも役立つ。だいたい草書だから」
「へえ、そうなんだ――って、喋っていたら製作の邪魔だよね」
「構わない。作業は楽しくやってこそと、俺の親も言っているからな。楽しく作業をすれば神の力も乗りやすい、らしい」
それならと、満景は会話をしながら、力雄の製作風景を見ていることにした。