軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39話

力雄のお札も、一発で鬼瓦先生の合格を貰えた。

一方で、若槻と小里は変なことになっていた。

二人は祓串を作っていた。最初は若槻が手慣れた調子で製作していたようだ。しかし、串につける紙の最後だけは小里が単独で製作することを、若槻が頑なに譲らないのだ。

「ええー。最後の最後に私に任せるの? 若槻ちゃんが最後までやっちゃえばいいのに」

「そういうわけにはいかないのです。小里さんが頑張って頂かないと」

小里は、若槻が意見を曲げないと理解したからか、渋々といった態度で最後の工程を始める。

しかし若槻が作った部分より、明らかに小里が一人で作る部分は拙い。全体で見てみれば、小里が作った部分だけが浮いて見えるぐらいにだ。

一応は完成した祓串を、小里が代表して鬼瓦先生へ見せに行く。

結果は、不合格。小里が作った部分だけを作り直せば合格だという助言をされて。

小里は作業台にもどってくると、ムスッとした顔で祓串を机の上に置く。

「ほらー、やっぱり若槻ちゃんが最後まで作った方が良かったってー」

「でも、完成は小里さんの手でして貰わないと」

二人の意見が対立しているのを、満景は傍から見ていて首を傾げた。そして二人に声をかけることにした。

「一応の確認なんだけど、若槻さんって完成した呪具に触れられない体質の人?」

満景の言葉に、若槻が大きく反応した。その顔は、隠し事がバレたと言いたげな表情になっていた。

その表情を見て、満景は話を先に進めていく。

「その原因は、悪霊系? それとも神霊系? もしくは家訓のような仕来り?」

「えーっと……」

満景に完全にバレていると観念したのか、若槻は目を伏せ気味に呪具を触れない理由を口にし始める。

「わたし、幼い頃から陰陽師として、色々な霊現象を退治する仕事をしていました」

「僕は知らないけど、小里さんから聞いているよ。有名な子供陰陽師だったって」

「その仕事の中で、わたしは手を出してはいけない案件に、知らずに関わってしまいました。詳細は省きますが、その際に霊障を受けた事が原因で、陰陽師としての活動を休止せざるを得なくなりました」

子供陰陽師として有名でも、現在では有名ではないのは、その出来事が原因だったようだ。

「この霊障は、わたしや親族の陰陽師では祓えないもので、専門家に頼むことになりました。しかし生半可な処置では祓えないものでもありました。そこで、依頼した専門家はわたしを神付きにすることを提案しました。悪霊の霊障を、神の 分霊(わけみたま) でもって祓うのです」

「つまり、いまの若槻さんには、守護霊ではなく守護神がついている状態なんだね」

「その守護神が問題なんです。並の陰陽師では太刀打ちできない霊障を、身体に憑くだけで祓えるほどの力ある神の分霊です。わたしが呪具に触れると、その神の力が呪具に伝播してしまい、それは止められません。完成直前までは悪影響は出ないのですが、完成したものに触れると、途端に異常が起こってしまうのです」

若槻の告白を受けて、満景は制服に入れている紙の護符を一枚取り出して彼女に差し出す。

「試しに、これ触ってみて。ああ大丈夫。これ自作の札だし、予備はいくつもあるから」

「そういうことでしたら」

若槻が護符に触れた瞬間、護符が自然に燃え上がった。

しかし炎上はほんの一瞬で、すぐに鎮火した。

燃えた護符を見ると、満景が書いた文字が全て焼き切れていて、何の効力もなくなったゴミになっていた。

「これは凄い。この護符は、普通の悪霊の霊障なら一晩ぐらいは身代わりになってくれるものなのに。こんな一瞬でダメになるなんて」

満景は、自分の護符がダメにされたことよりも、若槻の守護神の力強さに強く感激していた。

そんな満景の嬉しそうな態度に、若槻は不思議なものを見る目を向けてきた。

「あの、ご不快ではないんですか? 自分が作った護符をダメにされたのに?」

「えっ、なんで? 護符って効果を発揮したらダメになるものでしょ。それに力を見せて欲しいといったのは、僕の方だよ?」

「それでも、その、その力は非常識だとか、近づかないで欲しいとか、そう思われたのではないかと」

「ああー、そういうこと。じゃあ、はい」

満景は若槻に向かって手を伸ばす。

若槻は、その行動の意図を掴みかねている様子で、首を傾げる。

満景が急かすように伸ばした手を上下に少し振ると、若槻は意図をようやく察したようだ。

「えっと、握手ですか?」

どうしてと疑問顔のまま、若槻は満景の手に触れて握手した。

すると満景はニコッと笑顔になった。

「悪意ない人が触れる分には問題ないね。制服の袖口が若槻さんに触れているけど、制服の機能に障害が出ている様子もない。となると、若槻さんの守護神がダメにする呪具には偏りがありそうだ」

「えっ、偏りですか?」

「たぶんだけど。まず若槻さんの身を護る系の呪具はダメ。若槻さんの身を護る役目は守護神の役割だから、その役割を取り上げようとする呪具は焼き払っちゃうんだろうね。僕の制服が触れられても無事なのは、この制服の役目が僕を護るためのもので、若槻さんには関係ないから、守護神は壊したりしなかったんじゃないかな」

若槻が理解したと身振りしたのを見て、満景は更に言葉を続ける。

「守護神が若槻さんを護ることを重視しているってことは、若槻さんの身を狙う意図を持つ人は近づくと神罰が落ちるかもね。若槻さんを利用して視聴率を稼ごうとした人は、全て神罰が下ったんじゃないかなって予想するけど、どう?」

「たしかに、わたしに関わったテレビ関係者たちが、ある日から不運に見舞われていると、そういう噂を耳にしました。あれは、わたしから離れた霊障が、あの方たちに降りかかったからだと思っていたんですが」

「若槻さんの家族は、その人達と同じ目に会っている?」

「いいえ。皆、普通に暮らしています」

「ならやっぱり、守護神からの神罰だったんだろうね。祓われた霊障が残っていたら、先ず狙うのは若槻さんの身近にいる人物のはずだからね」

長々とした話をいったん終わりにして、満景は祓串の製作の問題に話題を戻すことにした。

「若槻さんの守護神の特性についてわかったところで、やっぱり祓串は小里さんが作り上げるしかないことが確定したね」

「ちょちょい! えっ、やっぱり私が作らないとダメなん? 話の流れからすると、若槻ちゃんを説得して作ってもらう感じだったじゃんか!」

「祓串も、対象者を護るための呪具だからね。守護神が焼いちゃう可能性が高いんだ。だから小里さんが作らないと」

小里は満景の説明を受けて、自分で仕上げるしかないのかと肩を落とす。そして直後に、満景に指を向けた。

「気付いた! 問題なのは若槻ちゃんが呪具の仕上げが出来ないって点だから、別に私である必要ないじゃん! 満景が作ったっていいじゃん!」

「……バレたか。でもさ、小里さん。最後の部分だけでも、自分で呪具を作り上げる経験は必要だよ。ほら、僕が手伝うから、一緒に作ろう」

「むぅ。誤魔化された感じするんだけどー」

小里は文句を口にしながら、満景の手を借りて、どうにか祓串を完成させ、鬼瓦先生から合格を貰うことができた。