軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話

定食屋に入ってみると、先ほどまで感じられていた嫌な感覚が全くなくなったことに、満景は驚いていた。

身動きを止めた満景に、店員が近づいてきた。

「お客様は、一名様ですか?」

「あ、はい。一人です」

「カウンター席でも、よろしいでしょうか?」

「はい。構いません」

「では、ご案内いたしますね」

店員に案内されるがまま、満景はカウンター席の一つに座る。すると、すかさず店員の手によって、お冷がグラスに入った状態でテーブルの上に置かれた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「生姜焼き定食の、ご飯大盛りで、お願いします」

「生姜焼き定食の大盛りですね。ご提供まで、少々お待ちください」

店員が去っていき、満景はグラスの水を一口飲む。氷になる一歩手前かというほど、キンキンに冷えていた。

その水の冷たさで、満景の思考も冷静さを取り戻すことができた。

(外にいるときと中に入ったときで、感覚が違い過ぎるのは、なにか理由があるはず)

満景は、顔を巡らして、店内の様子を確認していく。

店内は、良く掃除されているものの、長年の店舗経営による経年劣化が見られた。

各テーブルには端が擦り切れたメニュー表があり、置かれている醤油差しは綺麗だが昨今では見かけない年代物。

壁にはメニュー表に記載されていない料理名が書かれた短冊があり、その近くには真新しいビールの宣伝ポスター。

満景の座る位置からカウンターを挟んだ向こう側に厨房があり、料理人が忙しく動いている。厨房の中も掃除が行き届いているが、料理人が作業しやすいように最適化された形で調理台や調味料が配置されている。

それらの光景を総合して考えても、人が入り難くなる雰囲気を出す要素が一つもなかった。

(僕が見落としているのかな?)

もう一度、満景は店内の様子を確認してみた。

すると、一回目には気付かなかったことを発見した。

それは、店の出入口の扉の上の壁にあった。

そこに、人の指ほどの細さと長さの小さなお札があったのだ。

満景が座っている位置からでは、お札に書かれている文字が小さすぎて、何と書かれているかは判別できない。

しかし、入り難いと感じていた理由は、あのお札なのだと、満景は直感していた。

そうしてお札を発見してからすぐに、満景が頼んでいた生姜焼き定食が運ばれてきた。

満景は、これ幸いと店員にお札のことを聞いてみることにした。

「すみません、ちょっと気になったことがあって。あの出入口の上にあるお札なんですけど。あれって、どうしてあそこに飾っているんですか?」

注文とは関係のない質問に、店員は困惑顔を見せてから、お札の来歴を語ってくれた。

「ここら辺は、学生が良く行き来するんです。その学生の中にはヤンチャな人もいて。昔、この店は、そういう人たちに迷惑を受けていたそうです。それで店のオーナーが、有名な霊能者に相談したら、あの札を渡してくれたんです。あれを飾るようになってから、ヤンチャな人は来なくなった。って話を聞いてます」

「なるほど。教えてくれて、ありがとうございました」

「どういたしまして。追加注文は何時でも受け付けてますのでー」

言い終わってすぐ去っていく定員に、満景は情報料を払う意味で追加注文はするべきだろうと考える。

(でもその前に、料理が温かいうちに食べないとね)

満景は両手を合わせてから、生姜焼き定食に箸をつけた。

甘辛い中にもショウガの味が際立っている生姜焼きに、ふっくらと炊きあがっている白米を合わせて楽しみながら、満景はあの札のことについて考える。

(荒っぽい人を寄せ付けないための護符ってことだけど、どうして僕まで?)

満景の自認では、満景は荒事を好んでない。だから、あの札の効力を受ける人物ではない、という考えに繋がっている。

それにもかかわらず、札の効力に巻き込まれてしまったからには、本当は『粗っぽい人物を追い払う』という効力ではないのだろうと予想を立てた。

そして、店員が語る、ヤンチャな人とはどういう人物かを考えていく。

人に迷惑をかけるほどヤンチャな人ほど、人に恨みを買っているものである。

だから荒っぽい人は、恨まれているという認識があるなしに関係なく、多かれ少なかれ周囲に対する警戒心を持っているはず。

(となると、あのお札の効力は、警戒心を持っている人が店に入ってきにくくするもの。たぶん警戒心の強さに従って、店に入る心理的な壁が厚くなるような設計で呪をかけたんじゃないかな)

もし満景の考える通りの効果だとすると、なかなかに手の込んだ術式だ。

満景も出来ないとは考えていないものの、あれだけ小さな札に術式を込めた上で何年も効果を継続させるとなると一苦労だ。知り合いの店のオーナーに頼まれたからといって、安請け合いできないぐらいに、難解な仕事になる。

(マンションの部屋にあった気配逸らしのお札といい、この店の悪漢を入らせない護符といい、この手の技術が上手い人っていうのはどこにでもいるものなんだろうな)

満景は、自分も学校で立派な霊能者になるべく勉強しなければと決意を新たにしながら、白米のお代わりを頼むことにした。ついでにクリームソーダも追加で。