軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96話

翌日、朝早くにメルモを起こして、宿を出る。出たところで、アルフレッドさんとサブイに会った。

昨夜は王様を説き伏せた後、城で盛大な歓迎を受けたらしい。

「行くのか?」

「ええ、仕事も残ってますし」

「仕事か…?ふむ、それでは止められんか…」

「アルフレッドさん。ガルシアさん以外の勇者について知りませんか?」

中央政府の役人なのだから、きっと顔も広く、世界の情勢にも精通しているのではないか、と思った。

「勇者を探しているのか?」

「はぁ、まぁ」

俺は頭を掻きながら言う。

「ルージニア連合国には勇者はガルシア、唯一人だ。遥か東方に勇者がいる国があると、聞いたことがある。ワシも詳しくは知らんが、姉のマーガレットなら知っているかもしれん。姉のところに寄ってから、行くと良い」

「わかりました」

「ああ、そうだ。これを持って行ってくれ」

アルフレッドさんは、封筒を渡してきた。中に手紙が入っているようだ。

「姉に渡しておいてくれ。有料道路が完成した際のお主の報酬などを書いておいた」

「あ、了解です」

「それではな。いささか、働き過ぎた」

そう言うと、アルフレッドさんはサブイに付き添われ、宿に入っていった。

「はい、それでは」

俺は宿の前で、屈伸やアキレス腱を伸ばし、準備運動をしてから走り始める。メルモも必死でついてきた。

ノッキングヒルの城下町を出る際に、衛兵に声をかけられたが、冒険者カードを見せるとすんなり通してくれた。

メルモのほうがランクが高いので、俺が従者か何かに思われたらしく、メルモがものすごい勢いで否定していた。どうでもいいから、早く来い。

俺は魔物に当たらないよう避けて走ったが、メルモは魔物とガッツリ戦っていた。

メルモの戦い方は激しいというか、魔物を血を噴き出す血袋か何かだと思っているのか、とにかくやたらと棍棒で殴り、返り血を浴びていた。解体するのはノームフィールドに着いてからにしようと、俺は魔物の死体はアイテム袋に仕舞っていく。

「クリーナップかけてやろうか?」

俺がメルモに聞く。

「いえ、ノームフィールドに着くまで、あと何匹か倒すと思うので、あとでお願いします」

「出来れば、早く帰りたいからね。あまり魔物に構わないように」

「わかりました」

メルモはそう言いつつも、目に入った魔物は殴らずにはいられないようだった。

「お前は狂戦士か?棍棒は没収。代わりに木の枝でも持っておけ」

俺はメルモから棍棒を取り上げ、落ちていた木の枝を渡した。

「そんなぁ……」

「『そんなぁ』じゃない!行きはこんなことなかったのに、どうして帰りはこんなに魔物を殺すんだよ」

「行きは社長が馬車を曳いていたので、邪魔しちゃ悪いと思って」

「じゃ何か? 帰りは邪魔してもいいっていうのか?」

「……てへっ」

笑って誤魔化そうとするメルモ。

「『てへっ』じゃない!」

俺が叱っているにもかかわらず、メルモは木の枝を素振りし始め、近くを通ったダチョウのような魔物を一突きで倒した。

「こらっ! 言ってる側から魔物を倒すな!」

アイルはいったいどういう教育をしたんだ。

俺はアイテム袋から、回復薬を取り出し、鳥の魔物を治してやる。

「だって~」

「いいか。いくら俺たちが駆除業者だからって、その土地にはその土地の生態系があるんだから、無闇に魔物を殺しすぎるな」

「わかりました! でも、こうしている間にもセスはレベルを上げているかもしれないんですよ」

「なんだ? メルモはセスをライバル視しているのか?」

「同じ新人として、負けてられませんから」

そう言いながら、メルモは木の枝を素振りした。

意外だ。まぁ、ライバルがいたほうが張り合いがあって良いかもしれないが、うちの会社では珍しいタイプな気がする。俺も、アイルもベルサも我道を行くタイプなので、あまり他人のことを気にしないが、メルモのようなタイプのほうが一般的なのかもしれない。

「ただなぁ、メルモよ」

「何ですか?」

「例えば、アイルは剣術のスキルも持ってて、地面に軽いクレーターを作ることも出来るよな?」

「ええ、アイルさんの剣術はスゴいです!」

「でもな」

俺は道を逸れ荒れ地に入り、地面を思いっきり殴った。軽いクレーターが出来る。

「な!」

俺はメルモに見せて言った。

「『な!』じゃないですよ!なにしてるんですか!?」

「要するに、だ。別に剣術のスキルがなくたって、こんなふうに軽いクレーターくらい作れるわけだ。剣術だろうが殴ろうが結果は同じだ。会社としてはいろんな方法で結果に辿りついたほうが良いんだ。手札が多いほうがいいんだよ。誰かが失敗しても他の人の方法でうまくいくことだってあるからね」

「ふんふん」

メルモは頷いている。

「別に強くなることばかりが目的ではなく、そいつ自身の個性を伸ばしていったほうが、この会社としてはプラスなんだよ」

「なるほど! それで、私はどうやってクレーターを作ればいいんですか?」

「わかってないな?」

「え!? そういう話じゃないんですか?」

「うん、別にもうこれ以上強くならなくたっていいわけだよ」

「強く、ならなくてもいい!?」

メルモは頭を抱えた。

「いや、俺たちは別にクレーターを作る集団じゃないだろ?」

「……はい! 当たり前じゃないですか。うちの会社は清掃駆除会社ですよ」

何言ってんだ? という顔でメルモが見てきた。

「このやろう……。つまりだ、メルモなら魔物を使役するスキルを上げて、土魔法が使える魔物に命令して、地面にクレーターを作ってもいいだろ?結果は同じだ」

「ああ、なるほど!」

ダチョウのような魔物が気がついたように、ふらふらと身体を持ち上げ、走り去る。

「あ、それから、メルモは血を見ると興奮するようだけど、それはイメージじゃダメなのか?」

「イメージですか?」

「血を見て生きてるって思うのは良いんだけどさ。ほら、今走っていった鳥の魔物の血管をイメージして、その中に血が通ってるんだなぁとか想像するだけじゃダメなのか?」

俺は走り去っていくダチョウのような魔物を指差して聞いてみた。

「血管ですか?」

え? 血管知らないの?

「お、マジか。魔物の解体はよくやってるよな」

「ええ、やってます」

「そうだよな、料理もするしな」

でも、血管は知らないのか。

「ちょっとあの魔物追おう」

「はい」

俺たちはダチョウのような魔物を追った。

ダチョウのような魔物は自分の巣に帰り、巣には雛がいた。まだ、毛も生えそろっていないような雛だった。

俺には探知スキルで見えていたが、メルモは珍しい物でも見るようにヒナを見ていた。

「メルモはどうして血が噴き出すのか知ってるか?」

巣に近づきながら、聞いてみた。

「どうしてってそれは……、どうしてですかね?」

親鳥の攻撃を無視して、俺は巣にいるヒナを持ち上げて、毛が生え揃っていない羽を広げ、日の光に向ける。

羽の中の血管が日に当たって透けている。

雛はギーギー鳴いているが、ちょっと協力してもらうだけだ。

「魔物を解体した時に見たことがあると思うけど、この赤い線が血管だ。ここを切ると血が噴き出す」

「はい」

「それは、胸のあたりにある心臓という器官がポンプのように血管を通して全身に血を送り出していってるからだ」

「ハツですね」

「そうだ。胸に手を当てればわかると思うが、心臓は死ぬまで血を送り出し続けている」

「死ぬまで、ですか?」

「そうだ。血管が太いところでは俺が本気で走るよりはるかに速いスピードで流れるんだ」

時速200キロメートルくらいと聞いたことがある。本当かどうか知らんけど。

「え!? 本当ですか!」

俺は頷いてみせる。

「どうだ?想像するだけでも、結構ゾクゾクするだろ?」

「しますねぇ!」

「よし、じゃあ、ちょっと触ってみろ!」

俺は持っていた雛をメルモに渡す。

雛の心臓はドクドクと早鐘のように脈打っている。

「ぉぉおおおおっ! これって血が流れているんですね!」

「ついでに親鳥の方も触ってみよう!」

「はいっ!」

俺をつついていたダチョウのような魔物を掴んで、メルモに渡す。

「ぉぉおおおおっ! 社長!」

「なんだ!?」

「なんか変わったスキルが発生しました!」

「え!?」

「しんさつ?」

「診察スキルか!」

俺も、魔物を掴んで脈を感じながら、血管を想像してみると『診察スキル』というスキルが発生した。

最後にスキルを取ってから、かなりレベルも上がっていたので、スキルポイントは40ほど溜まっていた。

すぐに診察スキルにポイントを割り振り、スキルレベルを5上げる。

思わず取得してしまった。この先、病気や怪我などがあった時は使えるスキルだから、よしとしよう。

試しに、ダチョウのような魔物に使ってみると、骨格から内臓から中身が丸見えだった。

これを人間に試すとどうなるんだろう?

「社長! 顔がセクハラです!」

メルモが俺を見て言う。

「な、なんてこと言うんだ! ちょ、ちょっといいから診察させてみなさい!」

「嫌です! 帰ったらアイルさんとベルサさんに言いつけます!」

「それは止めなさい!」

メルモは道に向かって走りだした。

「待て待て、これで俺が追いかけたら、セクハラ親父みたいじゃないか!」

「社長はセクハラ親父です!」

道に出たメルモは全速力で、ノームフィールドに向けて走った。

俺も走った。割と本気で。

メルモを追い抜き、アイルたちには先に弁明するつもりだ。

ノームフィールドに近づくと地面は濡れていた。雨上がりのようだが、水たまりは一つもなかった。さすが、ガルシアさんの仕事だ。

すでにメルモは疲れて死にそうな息をしていたが、懸命に走ろうという意志は感じられた。

宿と教会を通り過ぎ、農園の跡地へと向かう。村の家々を抜け、目の前に広がっている焼けた農園には2つの風車が回っていた。一つは大樽を半分にして、縦に幾つも並べた風車。もう一つは大きな羽の風車。

うちの社員とガルシアさん一家が大きな羽の風車の下に集まっていた。いろいろと試しているようだ。

「ああ、おかえり!」

「おかえり!」

アイルとシンシアがこちらに手を振る。

「ただいま!」

俺も手を振り返し、近づく。

「ただいま帰りました! ちょっと聞いてくださいよ~。社長がぁ……」

後ろから来たメルモが訴えだす。

「いや、誤解なんだ! 聞いてくれ」

俺とメルモの話を聞きながら、うちの社員の3人は呆れ、ガルシアさん一家は笑っていた。

シンシアとアシュレイさんが同じ笑い方をしていたのが印象的だった。