軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95話

翌朝、夜明け頃にモソモソと起きだし、準備をして宿を出る。

メルモもあくびを噛み殺しながら、宿から出てきた。寝ぐせがトルネードのように逆立っている。

「髪型カッコいいな」

俺が褒めると、メルモは自分の髪を触り、

「しまった~。寝る前に髪梳かすの忘れた~」

と、髪を直していた。

アルフレッドさんたちが泊まっているはずの、教会前に行くと、馬車が停まっていた。

サブイはすでに起きて、準備をしていた。

「おはようございます」

「おはようございます。早いですね」

「ええ、時間だけは遅れないように、と思って」

遅刻しないようにするのは前の世界からの習慣である。

サブイがフィーホースを連れてきたので、俺とメルモがブラシをかけながら、脚に風魔法の魔法陣を描く。

サブイがフィーホースにベルトを巻こうとしたので、止めた。

「行きは俺が曳くので、馬車の後ろに繋いでおいてください」

「ナオキ殿が曳く?」

「たぶん、そっちの方が速いので」

俺は、腕にベルトを巻いて馬車を少し曳いてみせた。

サブイは驚いたように目をひん剥いていたが、頷いていた。

「サブイさんは道を教えて下さい」

「わかりました。ただ今、アルフレッド様を呼びに行ってまいりますので」

サブイは急いで教会の中に入り、アルフレッドさんを連れてきた。その後ろからヒルレイク王国の調査員・グイールが慌てたようについてきた。

二人を馬車の中に入れ、サブイが御者台に座った。

「用意はいいですか?」

「はい、大丈夫です」

「メルモは頑張ってついてきてね」

「はい」

俺はサブイの指示に従って、馬車を曳く。

ちゃんと走ると、馬車が揺れるようなので、軽くジョギング程度にしておく。

それでも、後ろに繋いだフィーホースが遅れ始めた。

メルモがフォローしているものの、辛そうだったので幾度も休憩を挟んだ。

何台もの馬車を追い越し、商人や旅人などに驚かれながらも、そこそこのスピードで走った。目立つのは嫌だったが、もう二度と来ることはないと思うと、注目されるのはあまり気にならなかった。

2日かかると言われたヒルレイクの王都・ノッキングヒルには昼ごろには到着した。

城下町は栄えており、人も多い。道には人が溢れていたが、馬車を曳く奴なんかいないので、自然と道を開けてくれる。

灰色の大きな城まで行くまでに、何人もの衛兵に止められたが、その度に、馬車の中からグイールが声をかけて事なきを得た。

馬車の扉を開けると、アルフレッドさんとグイールは必死に椅子を掴んでいたらしく、腕をブルブルとさせていた。

俺は「運河を作ると呪いがかかる」と手紙を書き、封筒にイヤダニを一緒に入れて封をする。

グイールに封筒を渡し、王様の部屋に持って行ってもらう。

「床とドアの隙間からでも入れてくれれば、いいので」

グイールは心得たとばかりに、城に向かった。

俺はノッキングヒルの商人ギルドに向かう。

特に俺が馬車を曳く必要もなくなったので、サブイがフィーホースにベルトを付けていた。

「俺たちは商人ギルドに行きますけど」

「わかった。こちらは宿を用意しておく」

外に出て肩を回しているアルフレッドさんが答える。

俺は町行く人や衛兵に道を聞きながら、商人ギルドに向かった。

商人ギルドは混んでいたものの、ちゃんと順番を守って、奥のカウンターに辿り着いた。

「仕事募集の張り紙出させてもらえますか?」

俺は商人ギルドのカードを見せて、職員のおばちゃんに聞いた。

「どんな仕事なんですか?」

「害虫駆除です」

「害虫駆除?」

「ええ、家の中の虫系の魔物やマスマスカルを駆除する業者なんですよ」

「へぇ~、そりゃ珍しい! どうぞ、この紙に書いて、階段横のボードにピンで貼って下さい」

そう言って、職員のおばちゃんが、雑な紙を渡してくれた。

俺は紙を受け取って、「害虫駆除請け負います。イヤダニ、バグローチ、マスマスカルの駆除ならお任せを!」などと書いて、ボードに貼った。

商人ギルドの中では、北の国境線付近に現れたという二頭のドラゴンの話題で持ちきりだった。

あの二頭は、フロウラのマーガレット邸にでもいる頃だろう。

「社長、これで終わりですか?」

「うん、だいたい終わり。あとはお城から依頼が来るのを待つだけ。昼飯でも食う?」

「良いですねぇ」

俺とメルモは、外に出て飯屋を探す。

歩いていると、何人かの冒険者に声をかけられ、「ドラゴン討伐に行かないか?」と誘われた。

馬車を曳けるほどの力持ちの俺を戦力に加えたいらしい。

当たり前だが、無下に断る。しつこい冒険者が飯屋にまでついてこようとしたので、メルモが殴ってふっ飛ばしていた。その後は、あまり声をかけられなくなった。

飯屋は衛兵が多い店にした。地元の人が行く店なら間違いないだろう、というのが理由だ。

グリーンディアという鹿の魔物の焼き肉にパンと野菜スープを頼んだ。

朝早くに出発した俺たちにとっては朝昼飯だ。

「ノッキングヒルの仕事が終わったら、フロウラに戻るんですか?」

「そのつもりだよ。あ、メルモも里帰りする?」

「いえ、5年は帰らないと言ってあるので」

「そうか。連絡はとってるか?」

「ええ、この前もボーナス送りましたし」

親孝行だなぁ。異世界に来てしまったので、俺は親孝行は出来ない。そもそも前の世界でも連絡など、数年に一度くらいしか取っていなかったように思う。

今頃、どうしているのか。家族とのつながりが無くなって思うのは、親孝行しとけば良かったかなぁ、と思うくらいだ。顔もおぼろげにしか思い出せない。ノームフィールドに戻ったら、アイルとベルサにも親孝行は出来るうちにしておけと言っておこう。アイルは知らないが、ベルサの方は生きているようだし。

「あとで、魔法陣教えるから、通信袋でも作ろう」

「え?あの縫うのが、めんどくさそうな袋ですか?」

「そうだ。通信袋を親元に贈っておけば、いつでも連絡が取れるだろ?」

「できれば、あまり連絡は取りたくないんですが」

「はぁ~これだから若い奴は、まったく。親孝行したい時に親はなしって……まぁ、いいか」

前の世界で仕事したての頃に、上司から言われたことと同じことを言っている。あの上司もこんな気持ちだったのだろうか。

わからない時に言っても、わからないだろう。俺がそうだったし。

「手紙くらいがちょうどいいのかもな。でも通信袋は便利だから、作り方覚えておくと良いよ」

「そう、ですね」

マーガレットさんに頼まれていた分は、メルモに押し付けよう。

「社長! 今、悪い顔しませんでした?」

「いや、してないよ。ワインでも飲む?」

その後、少しメルモを酔わせて誤魔化し、外に出た。

曳いてきた馬車が停まっている宿を探していると、逆にサブイさんに見つけられた。

宿に案内され、休んでいていいと部屋の鍵を渡された。

部屋に入ってメルモに通信袋の作り方を教えたり、メルモがバグローチをテイムしようとするのを止めていたら、商人ギルドの職員がやってきた。

お城から駆除の依頼が来ているという。

夕方頃にはなっていたが、イヤダニたちがちゃんと仕事をしたらしい。

「意外に早かったなぁ」

「フフフ、私のイヤダニちゃんたちは優秀なのです」

メルモが胸を張った。

「アルフレッドさん、います?」

部屋を出て、サブイに声をかける。

「もう城に行きますか?」

「ええ、依頼が来ました」

「わかりました。用意しますから、お待ち下さい」

しばらく待つと、寝起きのアルフレッドが出てきた。

朝が早かったから昼寝していたらしい。

城の近くだったので、馬車は使わず、歩いて向かった。

今更気づいたが、ノッキングヒルには衛兵が多い。綿花が売れて軍備に力を入れているのだろう。もう綿畑はなくなったので、あの人達はどうなるんだろうな。

「備蓄もあるだろうから、しばらくは大丈夫だろう。中央政府が引き取るという手もある。有料道路が完成すれば、仕事は山ほどあるからな」

俺は、自分の考えを声に出していたようで、アルフレッドさんが答えた。

城に着くと、すぐに王様の部屋の前に案内された。アルフレッドさんは中央政府の役人ということで違う部屋に案内されそうになったが、「どうせ王に会わねばならん」と言って、俺たちと一緒についてきた。

「王様! 開けてください!」

グイールが部屋の扉を叩いていた。

「あ、ナオキ殿!」

「ども。王様は痒みを訴えておられますか?」

「はい。のたうち回っているようで、先程から何度も倒れるような音が鳴っております」

メルモがニッコリと笑っている。イヤダニには封筒を開けた者を襲うよう命令してもらっていた。

「じゃ、開けても?」

扉を指して聞いた。

「今、衛兵が慌てて鍵を持ってきていますから、少々お待ちを」

「あ、大丈夫でーす」

俺はそう言うと、身体で隠しながら、解錠の魔法陣を描き、扉を開けた。

アイテム袋から、燻煙式の殺虫剤を取り出し、煙を発生させ、中に放り込む。特に殺虫効果はなく煙いだけだが、効果的だ。

扉を閉め、しばらくすると、顔や腕に赤い斑点をつけた王様らしき男が部屋から飛び出してきた。

「ゲホゲホッ! 火事だ! グイール! 我の部屋が火事だ!」

「火事ではございません」

そう言うと、グイールは王様の手を取り、違う部屋へと立ち去る。

「じゃ、こっちの事後処理はやっておきますんで」

俺はアルフレッドさんに言う。

「うむ。こちらは任せておけ」

アルフレッドさんとサブイは王様たちを追った。

俺とメルモは王様の部屋に入り、窓を開け、煙を外に出す。

メルモは瓶を転がしてイヤダニたちを呼び、瓶の中に入れる。

イヤダニは一匹も欠けることなく、仕事を完遂したらしい。メルモはご褒美のパン屑を瓶の中に入れた。

最後に部屋にクリーナップをかけて、仕事は終了。

扉の前に鍵を持った近衛兵が立っていた。

「これ、塗るタイプの回復薬です。王様に渡しておいてください。痒みにも効くと思うので」

俺はアイテム袋から、塗るタイプの回復薬を、呆然としている近衛兵に渡した。

近衛兵の脇を通り過ぎ、廊下に出たところで、報酬のことを思い出した。

「あのー……、依頼報酬として銀貨3枚に塗り薬の代金で金貨1枚になるんですが…」

「少々お待ちください」

近衛兵は奥に走っていき、すぐに戻ってきた。

「宿にお持ちしますので、宿にてお待ち下さいとのことです」

「了解です。お疲れ様でした」

「お、お疲れ様でした」

俺とメルモは出口へと向かい、とっとと城を出た。

城を出て、そのまま商人ギルドに向かい、ボードに貼っていた仕事募集の張り紙を外す。

「お、もう良いのかい?」

ギルド職員のおばちゃんが聞いてきた。

「ええ、お城で十分稼ぎましたから」

「そらそうか。うちのギルドも頼みたいところだったんだけどね」

確かに、おばちゃんが言うとおり、探知スキルで見るとマスマスカルが屋根裏部屋に巣を作っていた。

「一匹銅貨3枚で駆除しましょうか? 業者価格ですよ」

「良いのかい? ちょっと、上の者に聞いてくる」

おばちゃんは奥に行った。

その後、ノッキングヒルの商人ギルドから正式に依頼を受け、マスマスカルの駆除を行った。ついでとはいえ、仕事はしっかりこなし、マスマスカルを48匹駆除した。

「はいよ。銀貨14枚に銅貨4枚ね」

「まいどあり」

思わぬ臨時収入が入った。

宿に戻って、食堂で晩飯を食べていると、サブイが戻ってきた。

「報酬です」

「どうも、ありがとうございます。どうですかね?」

俺はサブイから報酬を受け取りながら聞いてみた。

「運河の件は受け入れてくれたようなのですが、農園が潰れたことについては受け入れ難いようで、なかなか話が前に進まないですね」

「そうですか」

「最終的にはアルフレッド様が説き伏せるかと。あ、塗る回復薬ありがとうございます。とても効いているようでした」

「あ、それは良かったです」

「ナオキ殿たちはこれから如何なされますか?」

「明日の朝にでもノームフィールドに戻ります。アルフレッドさんとグイールさんによろしく伝えといてください」

「わかりました」

サブイはそう言うと、城へ戻っていった。

俺とメルモはノッキングヒルでの晩飯を堪能した後、部屋に戻った。

部屋では二人で通信袋を二つ作り、就寝。

寝る前にメルモが話しかけてきた。

「明日、ノームフィールドに行ったら風車出来てますかね?」

「出来てるかもなぁ……」

「シンシアさん、うちの会社に入ると思いますか?」

「どうだろうなぁ……」

俺は臨時収入が入ったので、メルモが寝静まったらノッキングヒルの娼館に行くつもりだったのだが、メルモの質問攻撃は深夜まで続き、俺の方が先に睡魔に陥落してしまった。