軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『月と墓守』バルザック

ナオキがクーベニアを旅立ってから数日後。

カミーラはバルザックに薬草の採取を手伝ってもらっていた。

バルザックの方も、カミーラにゴースト系の魔物駆除のための回復薬を頼んでいた。

二人は朝から、墓地の近くの森で、薬草を採り続けている。

「うおっ、腰が……」

立ち上がったバルザックが、腰を叩いた。

「そろそろ帰ろうか」

カミーラが藪から顔を出し、バルザックに声をかける。リュックの中は薬草でパンパンだ。

森を抜けると、以前よりも遥かに明るい墓地に出た。

バルザックが墓地近くの木の枝払いをしたのだ。

ナオキの元奴隷で犬の獣人である老人の仕事ぶりは、今のところ、あまりクーベニアの町では知られていない。前任者が亡くなり、新しい墓守が来たらしいくらいだ。墓が町外れにあるので、人目にも付き難い。それでも、墓にお参りに来た人には挨拶をして、箒や手ぬぐいを貸し出しており、徐々に、愛想の良い墓守として認知され始めている。

墓地の側の小屋の中に入ると、カミーラはパンパンにふくらんだリュックを足元に置いた。

「バルザックは鼻が利くから、薬草探しも上手いね」

「探すのは良いんですけど、なかなか身体が動きませんよ。お茶飲みますか?」

「いいね。私、パン持ってきたんだ。ハチミツ入りの」

「良いですねぇ! ナオキさんもよくハチミツを塗ったパン食べてましたね」

二人でお茶とハチミツ入りのパンを食べながら、談笑。

「今頃、どこにいるのやら」

「特に心配はしていませんが」

「ナオキのことだ。珍道中になってるだろうな」

などと、ほとんどがナオキの話だった。

「さて、そろそろ、回復薬でも作るか。バルザック、台所の鍋借りるよ」

「はい、どうぞ。頼みます」

カミーラは台所の方に薬草の入ったリュックを持って行った。

「そのゴースト系の魔物って、手強いのか?」

竈に魔法で火を付け、鍋の中に薬草を入れながらカミーラが聞いた。

「いやいや、墓に供えた花を荒らしたり、井戸でお参りしに来た人を脅かすようないたずらくらいで、そんなに被害はないんです。あんまりひどい時はギルドに依頼を出そうかと」

「どんな魔物なの?」

「それが姿は見たことないんですよ。だからゴースト系だと思ってるんですけど」

「ふ~ん。正体は見てないのか」

カミーラは木の棒で薬草を潰しながら、水を加え、かき混ぜる。

「回復薬を井戸の水に混ぜようかと思っているんですよ。そうすれば、お参りに来た人たちが自然と墓の周りを浄化させていけるんじゃないかと」

「ナオキみたいなことをするんだなぁ」

「ええ、私もナオキさんには随分と考え方を変えられましたから」

鍋から回復薬の臭いが漂い始め、小屋中に広まった。

「悪いね、もうちょっとで出来る」

窓を開けるバルザックにカミーラが謝った。

コンコン

ドアをノックする音が聞こえた。

「ああ、もうそんな時間か」

バルザックが立ち上がって、ドアを開けると、花束が入った籠を持った少年が立っていた。

「やぁ、今日はどんな花を売ってくれるんだい?」

「この青い花の花束と黄色い花の花束です」

声変わりのしていない少年はか細い声で言った。

「ありがとう。はい、銅貨一枚」

少年はバルザックから銅貨一枚を受け取って、ペコリと頭を下げて走って去っていった。

バルザックは青い花と黄色い花の花束を花瓶に入れて窓際に飾った。

「あの少年は?」

カミーラが瓶に回復薬を入れながら聞いた。

「時々来て、花を売ってくれるんですよ。前の墓守の方のお孫さんなんだそうです」

バルザックがカミーラに説明した。

「ひゃぁあ~!」

突然、外から少年の声がした。

慌ててバルザックが外に飛び出し、カミーラも続いた。

少年は腰を抜かせて、地面に座って空中を指差していた。

少年が指差した方向には半透明な白い球体が墓の上に浮かんでいた。

「あれはシンメモリーズ!」

カミーラが叫んだ。

まだ蓋をしていない回復薬の瓶を両手に持ったままだ。

カミーラは半透明な白い球体に向かって回復薬をかけた。半透明な白い球体は回復薬の液体がかかる前にスッと消えてしまった。

「ちぇ、外したか」

カミーラは悔しそうに空の瓶を見た。

「大丈夫かい?」

バルザックが少年の手を取って立ち上がらせながら言った。

「坊や、お墓で悪いことしなかった? いたずらとか」

カミーラが少年に聞いた。

「しないよ! そんなことしたら父さんに殴られる!」

少年は必死に首を横に振って否定した。

「あの白い球はいったいなんです?」

「魔物のタマゴみたいな物だよ。人の後悔の念や罪の意識が魔力と混ざって半具現化したのがシンメモリーズ。もっと強い思いや魔力に触れたりするとゴーストテイラーになるんだ。ゴーストテイラーになってしまえば、駆除もし易いんだけど……半分実体じゃないから逆に駆除し難いなぁ。まぁ、でも犯人がわかっただけ良しとしよう。いたずらの正体はあれだ」

カミーラは目の前の墓地を見ながら、説明した。

「死んだ人には会って話せないから、思いが残ってしまうんですね」

バルザックは自分の仕事の難しさに改めて気付いた。

バルザックは少年に付き添って、家まで送っていくことにした。

少年の家は花屋をやっており、真面目そうな中年の男性が店番をしていた。少年の父親だ。バルザックは以前、廃屋敷で身元確認の際、会っていた。

「あ、新しい墓守さん、うちの息子が何かしましたか?」

「いや、そうじゃなくて」

バルザックはシンメモリーズが現れたことを説明した。

「それは……もしかしたら、俺のシンメモリーズかもしれません」

一通り話し終わると、少年の父親が言った。

「子供の頃、墓守だった親父にかまってもらいたくて、いたずらをしたことがあります。とうとう謝れずじまいでしたが……」

「そうか。じゃあ、『天送り』でもしようか」

小屋に戻って事情を説明したバルザックに、カミーラが言った。

「天送りですか?」

「ああ、エルフの国では年に一度、故人を偲んで、小さい気球を空に飛ばすんだ。天に向けて故人が幸せでありますように、という願いを込めてね。その時、一緒に故人への思いも持って行ってもらうんだ」

気球は小さな布の袋で蜜蝋を塗って作るという。

そういうことになった。

三日後の夜、月明かりの下、少年の父親は布で出来た気球の燃料に火を灯した。

気球はオレンジ色の光を放ちながら天高く舞い上がっていった。

その夜から、いたずらはなくなった。