軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『件の割に合わない仕事内容』アイル

「アイルって洗濯どうしてんの?」

ナオキがオスローの冒険者ギルドに向かっている途中で聞いてきた。

「いや、七日に一度はしているぞ」

「そうなのか」

「なんだ? 臭うか?」

私は自分のビキニアーマーの匂いを嗅ぎながら聞いた。

「そんなことないけど。ずっとビキニアーマーだと肩凝らないのかと思って」

「ベッドで寝る時は外しているよ」

「ふーん」

何気ない会話だったが私は引っかかった。

そういえば、クーベニアで冒険者ギルドの教官になってから、あまり衣服に気を遣ってこなかった。いや、そもそも服など破れた時以外は買っていなかったようにも思う。なるべく動きやすく、着られればいいくらいの感覚でいた。過去に冒険者のパーティーを組んだ時、ベテランの戦士が「ビキニアーマーを着ると、どんな男も油断する」と教えてくれた。それからビキニアーマーを着た状態で男に負けたことはなかった。ナオキに会うまでは。

私のビキニアーマーには無数の細かな傷が付いている。この赤いビキニアーマーも替え時だろうか。

その時、一陣の風が吹いて、目の前を歩いている町娘のスカートを翻させた。

スカートならば、敵に膝の動きを悟らせることもないか。

「スカートか。悪くないかもしれない」

オスローの冒険者ギルドに行くと、ナオキはバグローチ(ゴキブリの魔物)の駆除の依頼を受けていた。そんな魔物の駆除を見てもしょうがないので、私は掲示板で違う依頼を探すことにした。

フィネークの討伐という依頼が目に止まった。

「フィネークか。革でスカートを作るのもいいな」

私はフィネークの討伐の依頼を受けることにした。釣り人や木こりなど、すでに被害者が出ているので、十分に気をつけるように、と冒険者ギルドの職員が注意していた。

腐葉土の地面に木漏れ日が揺れている。

北東の森には、人も魔物も多かった。キノコ狩りをしている獣人の親子。小さな魔物を狩る初心者冒険者。藪から藪へ走るフォラビット。樹洞で眠るショブスリ。

薬草を採取していた薬師らしい男に、沼の場所を聞いた。

「悪いことは言わねぇ、行かねぇほうがいいぞ。山賊も出れば、フィネークも出るって話だ」

「そのフィネークを討伐しに行くんだ。沼の場所を教えてくれ」

「あんた、そんなに強いのか?」

Bランクの冒険者カードを見せた。

「ほ、本物か? あ、いや、すまん。沼なら、この先だ。真っすぐ北に行けばぶつかる」

慌てた様子で薬師らしい男が教えてくれた。

「ありがと」

私は北に向かって森を進んだ。

沼が見えてくると同時に人の争う音が聞こえてきた。

沼の岸辺で女武闘家と山賊たちが戦っていた。女武闘家はスカート姿で、向かってくる山賊たちを軽やかに躱しながら、ぬかるんだ地面に叩きつけている。

山賊たちは叫びながら攻撃するも、女武闘家の動きについていけない。女武闘家の武術は見たことのないものであったが、膝が攻撃の起点になっていることは予測できた。女武闘家はスカートで膝を隠しているため、山賊たちは何をされているのかすら、わかっていないようだ。

「面白い武術だな」

私がつぶやいた瞬間、女武闘家にちらりと見られた気がした。こちらの気配に気がついているようだ。

泥だらけになった山賊たちが、悔しそうに立ち上がる。女武闘家の武術は面白いのだが、敵を戦闘不能にしなくては意味が無い。

山賊たちは何度も立ち上がり、女武闘家を攻撃したが最後まで当たることはなかった。

山賊六名が立ち上がれなくなるまで、実に三〇分。

「合理的じゃないね」

三〇分の間に状況が変わらないという保証はない。藪の影には私も隠れているというのに、素早く敵を戦闘不能にしなくては危険だ。何より叫び声に反応する魔物だっているというのに大丈夫か。

「いつまで、隠れているつもりだ!」

女武闘家がこちらに向かって叫んだ。

「やぁ、面白い武術を使うんだな。私は冒険者だ。敵ではない」

私は両手を上げながら藪から出た。

「私の依頼を横取りする気じゃないだろうな?」

「しないよ。そんな雑魚に用はない。用があるのはお前の後ろにいる奴だ」

沼からぬぅっと姿を表したフィネークを指差しながら言った。

顔が女武闘家の背丈と同じくらいの高さがある立派なフィネークだ。

山賊や女武闘家の叫び声を聞きつけて見に来たのだろう。

私にとっては良いタイミングだが、女武闘家は後ろを振り返り声も出せずに固まった。

フィネークが大きな口を開けて、地面で呻いている山賊の一人をペロリと食べてしまった。

「はぁあっ!」

女武闘家が気合を入れるように声を上げた。

バカなのか。声を上げてもフィネークに狙われるだけだ。

案の定、フィネークは女武闘家に向かっていった。フィネークのゆっくりとした動作は王者の風格さえある。捕食者である自分が焦る必要などないと言っているかのようだ。

女武闘家は山賊の時と同じように構えている。

フィネークが首を軽く振った。女武闘家はあっさりふっとばされ、樹の幹に当たり気絶をしていた。

フィネークが女武闘家に構っている間に私は距離を詰め、フィネークの頭上に飛んだ。振り上げた剣を下に向け、フィネークの鼻の間の上顎に突き刺す。自分の体重をかけ、そのまま下顎を貫き、地面に剣先を突き立てた。フィネークは叫び声も上げられず、身体をのたうち回らせてどうにか剣を抜こうとするも、私は許さなかった。剣をねじり、さらに剣を深く突き刺す。

フィネークの胴体が沼の近くの木々にぶつかり、盛大な音を立てた。その音に気を取られていたのか、剣に力を込め続けなければ抜けてしまうという焦りからか、全くその気配に気が付かなかった。

フィネークの頭に自分以外の影があることに気がついた時にはふっとばされていた。樹の幹にぶつかり、何が起こったのか振り返ると、頭を剣で突き刺したフィネークよりも大きなフィネークが口を大きく開け、こちらを威嚇していた。

「油断した」

依頼書には確かにフィネーク一匹の討伐とは書いていなかった。

大きなフィネークはこちらを睨み、こちらを完全にロックオンしている。

逃げ場なんかない。剣もフィネークに突き刺さったままで武器もない。

私は光魔法で自分の姿を隠した。

大きなフィネークは手当たり次第に周囲の地面を攻撃。倒れていた山賊は吹き飛んでいった。私は姿を隠したまま、剣の突き刺さったフィネークに近づき、剣を引き抜いた。

盛大に血が吹き上がり、私の身体を赤く染める。

大きなフィネークは私の姿を見つけ、頭を振り上げた。私は反射的に横に飛び退く。フィネークの頭は私の腕をかすめ、私の数瞬前にいた場所に振り下ろされた。

ぬかるんだ土が飛び散る中、私はフィネークの目を剣で突き刺す。

ズシュッ

動かなくなるフィネーク。私は肩で息をしながら、周囲を見回した。

吹き飛ばされた女武闘家が木の枝に引っかかっていた。スカートが風に吹かれて揺れている。

襲いかかってくる脅威はいないようだ。

「魔物相手に何着てようと関係ないな」

気づけば自分の片腕が折れている。

まったくもって割にあわない依頼だ。

ため息をついて、オスローの町へ戻った。