軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

270話

俺たちはエルフの里・北部の港にある交易船に魔物の肉を積み込んでいた。

港近くの里は、地下から湧いたムカデの魔物の被害を受け、家として使っていた大樹が倒壊。地上に家を建てるところから始めるらしい。

エルフの里には余分な食料も物資もない状況だったが、地中から出てきた巨大な虫の魔物の死体だけはあった。

宗教上の理由でエルフたちは食べないという。食料難なのに大丈夫か。この世界の人たちは信心深い。

タンパク質やミネラルも多いはずなのでとりあえず、俺たちが虫の魔物とわからないように加工して船にできるだけ積み込んでいるところだ。

船がいっぱいになれば交易船も出発できるはず。

「ポーラー族も虫の魔物の肉って食べないですかね?」

前の世界では豚肉を食べない宗教などがあったため、一応聞いておいた。味見すると結構美味しいので、イケると思うのだが、アイルは眉を寄せている。

「どうだろうな。彼らはあまり信心深くないから、その辺はお前たち次第なんじゃないか。そんなことより本当に行くのか?」

海賊のような格好をした海上の里のエルフが聞いてきた。彼らはハイエルフの指示を受けて、数年に一度、他の里に隠れて北極大陸のポーラー族たちと交易をしていたらしい。北極大陸への航路を知っている唯一のエルフたちだ。

「なにか問題ありますか? 案内がなくてもどうせ俺たちは行きますよ」

船は彼らのものなので、ダメだったら空飛ぶ箒で行くしかない。

「いや、北極大陸の近くは風も強く波も高い。我々が行かねば、漂流することになるだろう。仮にも里を救ってくれた恩人を見捨てたとなれば、他の里からなにを言われるか……」

相変わらず、エルフの社会は大変だ。ハイエルフに協力していたので負い目があるのかもしれない。俺たちと一緒に北極大陸に向かう船長と船員はわざわざ腕のいいエルフたちを選んでくれた。

出港は、嵐が収まり暖かい風が吹く日になった。海上の里のエルフによると日がいいのだという。独自の潮見表のようなものがあるらしい。

警備隊の隊長やカミーラのほか、レヴンさんとブロウもウェイストランドから来てくれた。マルケスさんやシオセさんたちも「行こうか?」と言っていたが、どうせ通信袋で連絡がとれるので、断っておいた。

「また、会おう!」

別れはあっさり。互いに無事を祈るだけ。言葉はそんなにいらない。

海に出ると、さっそく大型のサメの魔物が船を襲ってきた。

音爆弾で撃退。セスが引き上げて甲板で解体し始める。

一連の無駄のない動きを、海上の里のエルフたちは銛を手に持ったまましばらく見ていた。

「魔物が出たら、俺たちが駆除するんで言ってください」

「ああ、我々は風と波に集中するよ」

エルフの船長はそう言って、船員たちに「ぼさっとするな! 仕事しろ!」と指示を出していた。

エルフの里があるヴァージニア大陸から北極大陸までの航路は、確かに風も強く波も高い。空飛ぶ箒で行っても風に煽られていたことだろう。

あまりに波が高いので、航路上の小さな島で2日間停泊。波が穏やかになり、エルフたちの風魔法で北上すること、丸3日。ついに北極大陸へと到着した。

今まで青い大海原が広がっていた眼前には白い海氷が地平線まで続いている。雪のように白い鳥の魔物が海氷の上を飛んでいる。

北極大陸には桟橋がないため、分厚い氷に接岸するのだが、通常は見極めが難しいらしい。今回は俺がいたので、探知スキルで海中の様子を伝えて、接岸する氷を選び、砕氷もうちの社員たちがやった。

荷降ろしも簡易的なクレーンでやるらしいが、うちの社員たちがやれば、荷物に潰されるようなこともない。

俺たちが作業している間に、船長は『速射の杖』のような杖を空に向け、光の玉を放った。まるで救難信号だ。

「誰かに位置を教えてるんですか?」

「ああ、北極大陸にいるエルフさ。ポーラー族とともに生きてるやつもいるんだ。風の噂で交易船が来ていることは聞いているだろうが、正確な場所まではわからないだろ?」

俺の質問に船長が答えた。

光の玉は打ち上がり、放物線を描きながら消えてしまった。

「うちの社員で光魔法を使える者がいるので、ずっと光の玉を浮かせておきますか?」

「ああ、いや、北極大陸には他にも国があってな。あんまり目立つとそいつらが来てしまう。無用な争いごとは避けたい。まぁ、待っていれば来るはずだ」

船長が説明してくれた。郷に入っては郷に従えというし、俺もそれ以上はなにも言わなかった。連れてきてもらった身だしね。

「エルフたちもいるんですか?」

「ああ、漂流して北極大陸までたどり着いた運がいい奴らは獣人のポーラー族たちが保護してくれることがあるんだよ」

そういえば、リドルさんの父親も漂流したと聞いたな。忘れていたが、リドルさんの腹違いの兄弟も北極大陸にいるかも知れない。

数時間後、魔物の毛皮を着込んだエルフと3人の小さな獣人が現れた。

エルフの背は2メートルくらいあり、獣人は俺の胸くらいの高さしかない。4人とも顔を覆うマスクをして、大きな橇を引いてきた。

「こんにちは~」

「おっ、おおっ、だ、誰だ? 漂流者か?」

4人は、初対面の俺たちを見て驚いている。

「エルフの里の危機は風の噂で聞き及んでいるか? 救ってくれたのはこの方たちだ」

船長が北極大陸の4人に説明していた。

「へぇ、その方々が世界の果てのこんな場所までなにをしに来たの?」

獣人の1人がマスクを外しながら聞いてきた。マスクの下からゴマフアザラシのようなつぶらな瞳と黒い鼻が印象的な顔が現れた。他の獣人たちもマスクを外すと、セイウチのように牙が生えていたり、アシカのような長い髭が生えている。海獣の獣人たちだったようだ。

「光の勇者の仲間だったエルフに会いに行け、と頼まれましてね。あと、ブラックス家に縁のある人を探しに来ました」

まさか勇者を駆除しに来たとは言えない。

「なぁ~なるほど~、遠いところ、すみません」

セイウチ顔のお兄さんが言った。

「いえいえ、こちらこそ突然来てしまい、すみません。あ、どうぞこちら交易の品です」

俺は氷の上に積まれている大きな虫の魔物の加工肉を指さした。

「ええっ!? 巨大虫の加工品なんて珍しいわね?」

ゴマフアザラシ顔のお姉さんが聞いてきた。

「中身がわかるんですか?」

「ええ、鑑定スキルを持ってるの。ポーラー族では珍しいのよ」

お姉さんはにっこり微笑んだ。

「鑑定スキルは他の種族でも珍しいですよ。宗教上の理由で食べられなかったら申し訳ないのですが……」

「なぁ~、いんや、我らは神々に見捨てられた種族。食べられるものは頂くさ」

セイウチ兄さんが笑いながら橇の紐を解いた。橇には野菜の名前が書いている袋が大量に積んであった。

「野菜の種だ。食料難と聞いて持ってきた」

背の高いエルフが船長に言った。北極大陸なのに野菜の種が大量にあるなんて、どういう技術だ? 普通は育たないだろう?

交易品の交渉はエルフたちがやっているので、俺たちは獣人たちを観察。毛皮を着込んでいることやフードの縫い目がしっかりしていることくらいしか見て取れない。

獣人たちの方は鑑定スキルで俺たちのレベルを見て興奮したりしている。

「あとはコムロカンパニーの滞在費として受け取ってくれ」

「わかった。ポーラー族はハイエルフとだけ交易がしたいわけではない。今後とも宜しく頼む」

船長と背の高いエルフとの交渉はうまくいったようだ。

交易品の積み込みは俺たちが手分けしてやったので、すぐに終わり、船長たちはエルフの里へと帰るという。

「ここまで送ってくれてありがとうございます!」

「いや、こちらこそいろいろと助かった。秋頃に再び来ることになると思う。その時にまた」

船長と再会を約束して船を見送った。

「さて行くか」

背の高いエルフことポールが橇を引こうとしたが、荷物の重みで歩くスピードが遅い。

「あの……俺たちで引きましょうか?」

「む? う、お、おお」

俺の提案にポールが戸惑っている間に、アイルが橇の紐をひったくって引き始めた。

「どっち?」

アイルが獣人たちに聞くと指さして教えてくれた。南西に向かうらしい。

「あなた方は寒くないの?」

ゴマフアザラシ顔のお姉さんが歩きながら聞いてきた。

俺たちは海氷が見え出した頃に魔力の壁で自分を覆っていたので、特に寒くはない。格好だけ見るととても寒そうに見えるだろう。皆、ツナギ姿だ。

「なにか身体が温まるようなものを食べたの?」

「いや、魔力の操作で身体の周りだけ温度を上げてるんです」

俺が説明すると、「なぁ~! 魔力の技術か」とセイウチ顔のお兄さんが驚いていた。アシカ顔の青年は俺の魔力の壁に触れて目を丸くしていた。

「俺たちも質問していいですか?」

「なに?」

北極大陸の4人は俺たちに合わせてくれているのかマスクをしていない。日差しが強く氷の照り返しもあるので、日に焼けてしまうだろうに。

「どうして神々に見捨てられた、と?」

「ん~、神々の加護よりも我らは生命を崇めているからなぁ~」

セイウチ顔のお兄さんが言った。どういうことかはわからない。

「神々を崇めてないんですか?」

「いんや、そんなこともない。ただ正体を知ってしまっているのでなぁ~」

神々の正体?

「まぁ、今説明してもわからないと思うわ。ただね、私たちが知っている者の中で最も神々に愛されているのはあなたよ。歴史上も含めてね」

ゴマフアザラシ顔のお姉さんが俺を指さした。

「俺ですか?」

「ええ、オタリーが予知したとおり! あ、その青年、予知スキルを持っているの。だから私たちはブリザードにも遭わずに輸送できるのよ」

お姉さんに言われ、アシカ顔の青年は頬を膨らませて髭をピクピクと動かしている。恥ずかしいようだ。予知スキルを持ってる奴なんて南半球で会った悪魔くらいしか知らない。

「ポーラー族の方たちは皆、珍しいスキルを持ってるんですか?」

「なぁ~ははは、そんなことはない。むしろワシャ、なんのスキルも持ってないぞ」

セイウチ顔のお兄さんが答えた。

「ええっ!?」

「レベルすらない」

驚く俺に向かって、セイウチ顔のお兄さんは畳み掛けるように言った。

レベルがない? そんな人がこの世界にいるのか?

「混乱も無理はない。基地に行ってゆっくり話そう。あの氷山を越えれば、もうすぐだ」

セイウチ顔のお兄さんに連れられて、俺たちは氷山を越えた。ここからは俺たちが橇の荷物を背負った。

氷山を越えると、一面に小さな花々が咲き乱れていた。白い小さな花や薄紫色の花、濡れたコケや地衣類が反射してキラキラと輝いている。

大きな木々はなくとも、ここには豊かな自然が息づいているようだ。

「ようこそ、世界の果てへ」

ゴマフアザラシ顔のお姉さんが手を広げて笑った。

返す言葉もない。

柔らかな初夏の風が草と土の匂いを運び、頬をかすめていった。