軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257話

翌朝、宿代わりの廃屋から出ると、残っていた村の住民たちから注目を集めてしまった。もちろん全員ダークエルフ。ただ、子どもはいないようだ。俺たちに警戒しているのか。

「あ、どうも。おはようございます」

俺がそう言うと、住民たちは頭を下げた。

「通りすがりの清掃・駆除業者です。この辺りに出るというゾンビを駆除しに来ました。ついでに黒いバレイモの調査も……」

本当は逆だ。黒いバレイモの調査がメインで、ゾンビはついでだ。

住民はあまりしゃべらないらしく、ずっとこちらを見ているだけ。

「ゾンビってどこにいます?」

住民たちはそれぞれ違う方向を指差した。東西南北、どこにでもいるようだ。

朝飯前に俺たちは四方に散らばり、ゾンビ駆除へ向かう。

「ゾンビって二毛作なんだよね」

ペアを組んだマルケスさんが朝からぶっ飛んだことを言い始めた。

「どういうことですか?」

「人の死体にゾンビの菌を撒いて魔力が集まると勝手にゾンビになってくれるわけ。それで冒険者とかが倒して焼かずに放置すると、肉と皮が分解され、また魔力が集まるとガイコツ剣士になる。便利なんだけど、島のダンジョンには滅多に人来ないんだよねぇ」

それを二毛作と呼んでいるらしい。ダンジョンマスターは視点が違う。

「じゃあ、焼くのが一番なんですね?」

「焼かれるとねぇ。灰しか残らないから肥料にしかならないよね。あ、石鹸にもなるんだね?」

「そんな石鹸使いたくないですよ」

「そう?」

「あ、ゾンビです」

「はいはい」

そんな会話をしつつ、俺たちはゾンビを駆除していく。回復薬を散布して倒し、まとめて焼いた。ゾンビは人がいた廃村や街道沿いの草むらなどにいて、見つけやすかった。

廃村の側には黒いバレイモが山のように積まれていた。臭いはヒドい。比較的、黒くないものを選び、ナイフで切って中を見ると、茶色く変色している。ベルサに連絡して来てもらい、顕微スキルで確認すると、呪いなどではなくやはり病原菌だった。

「病原菌は駆除しないとね」

「駆除屋の出番ですか」

ベルサとマルケスさんに言われ、駆除業者の仕事が広がってしまった。

とりあえず、クリーナップをかけると表面の病原菌は死滅した。探知スキルとベルサの顕微スキルで見てもいなくなっている。

「すべての畑にクリーナップをかけ続けるっていう苦行はやらないよ。無理だしね」

「菌は採取して、実験に使おう」

ベルサは瓶に病原菌の付いたバレイモの破片を入れて、密閉。俺が瓶の外側にクリーナップをかけておいた。

山になった黒いバレイモは焼いてしまった。廃村はここだけではないのだ。

朝飯を食べに戻ると、昨夜の中年ダークエルフとセスが口論をしていた。

「ダークエルフに飯なんか食わせたってなんの得もないんだぞ!」

「別にいいじゃないですか。腹減ってそうだったから、スープを出しただけですよ」

「こんなうまそうなもの食べたら、味を覚えちまってなにも食わなくなるんだよ! この先もこいつらを食わせていく保証があるのか?」

「それは、ないですけど……」

セスが押され気味。

その横で、村の住民たちはセスが出したスープを一心不乱にかきこんでいる。

「おはようございます。昨日はどうも。うちの者がすみませんね」

俺が声をかけると中年ダークエルフは振り返った。眉間には深くシワが刻まれ、猫背だからか他のダークエルフより少し小さく見える。手には袋を抱えていた。

「あんたがリーダーか。早く帰れと言ったはずだぞ?」

「まだ周辺にゾンビがいたんでね。駆除して焼かないと、またゾンビが生まれてしまう。昨日倒したゾンビは焼きましたか? 焼いてないと骸骨剣士になるかもしれないので気をつけてください」

矢継ぎ早にまくし立てる。

「何者だ? どこからやってきた?」

中年ダークエルフは俺を上から下まで見ながら聞いてきた。ツナギを見たことがないのかもしれない。

「清掃・駆除の業者です。ルージニア連合国からやってきました」

そう言って俺は特使の黒革の手帳を見せた。中年ダークエルフは手帳をじっくり見て、「ふん」と鼻を鳴らした。

「こいつらの息子や娘はあんたらの国に売られて行っちまったんだ。もう、関わらないでやってくれ」

「俺たちはそれを止めるためにウェイストランドに来たんです。ダークエルフの奴隷の価格は暴落している。タダ同然で売られているのに、輸入量は止まらない。ルージニア連合国も受け入れられる難民の数に限りがあるんです。これ以上売られても困るんです!」

俺が中年ダークエルフに強く言うと、住民たちはようやく口論していることに気がついたようだ。

「この緊急事態を収束させたい。うちの社員は朝飯を提供することで、住民の方々から現状について教えてもらって、調査協力をお願いしてるんです。それだけです。問題ありますか?」

「あんたらが呪いを解いてくれるっていうのか?」

中年ダークエルフが聞いてきた。

「呪いじゃない! 病原菌です。俺たちが病気にかかるように、死体がゾンビになるように、バレイモも病気になったんです」

そう言うと中年ダークエルフは袋を置いて、地べたに座り込んでしまった。

「……そんなことは自分たちだってわかってるさ。でも、どうしていいかわからないんだ」

「考えて、試していくしかないですよ。人数が多いほうがアイディアが出るかもしれません。手伝わせてくださいよ。そのために特使の証を受け取ったんです。さ、朝飯食べましょう」

俺は中年ダークエルフを朝飯に誘った。献立はクリームスープと砂漠で獲ったデザートイーグルの燻製。中年ダークエルフはダークエルフたちと一緒に平らげた。

「あんた、名前は?」

食べ終わった後に中年ダークエルフから聞かれた。

「清掃・駆除会社コムロカンパニー社長、ナオキ・コムロです」

「変な会社やってるんだな。種苗屋のレヴンだ」

種苗屋? 初めて会ったな。

「頼みがある。ちょっと、俺の家まで来てくれるか?」

「いいですよ」

俺はマルケスさんとベルサを連れて、レヴンさんについていった。

他の社員たちは住民への聞き込みと、引き続き周辺のゾンビ駆除。アイルとシオセさんは遠くまで行ってみるという。シオセさんはアイルの地図作りに協力させられているようだ。

レヴンさんの家は歩いて30分ほどのところにあった。

家の周りには畑が広がっている。いろんな作物を育てているようで、畝によって地面から生えている葉の種類が違う。また、屋根がある東屋のような場所では小さなコップくらいの植木鉢が幾つもあり、その中で苗を育てていたり、大きな棺桶くらいのサイズのプランターに等間隔で苗を育てていたりする。

「種苗屋って種から苗を育てる仕事ですか?」

「よそでよく育った野菜のタネとここで育った野菜のタネを交雑したりして、作物をたくさん採れるようにしたりしている。害虫や病気に強い品種なんかも育ててる。だから、呪いじゃないっていうのはよくわかる」

専門家に説教してしまったようだ。恥ずかしいったらない。

「見てくれ。うちのバレイモだ」

棺桶サイズのプランターが2つあり、バレイモの葉が伸びていた。葉の形は南半球で見ていたものと、さほど変わりはないが。

「あ、葉が黒くなっているね。こっちは枯れちゃってる」

ベルサが言った。

「全滅だ。エルフの農薬も魔物除けの薬もダメ」

レヴンさんは肩を落とした。

「エルフは農薬まで作ってるのか!?」

マルケスさんは驚いていた。

「エルフってのは長寿だろ? その分、病気や傷の治りが遅いんだ。だから回復魔法や薬学が発達している。そうしないと生き残れなかったからな。魔物除けの薬はルージニア連合国から取り寄せたんだが、ダメだったか」

「それって、もしかして深緑色の薬ですか?」

俺がレヴンさんに聞いた。

「そうだ。無理して手に入れたんだがな」

俺たちが開発した薬のようだ。

すでにレヴンさんは実験を繰り返しているのか。

「これじゃあ、花も咲かない。強い品種を作ろうにもどうにもならない。バレイモは種芋で同じ品種を育てるのが普通だから、病気にかかると一気に広がるんだ」

「種芋はあとどれくらいあるの?」

ベルサがレヴンさんに聞いた。

「残り僅かだ。ナオキたちは空を飛べるんだろ? どこかから種芋を手に入れてきてくれないか?」

「それは構いませんが、同じ実験をしても意味がないですよ」

「そうだな。少し落ち着こう」

「いい茶を持ってる」

マルケスさんが笑った。

レヴンさんも釣られて笑って、母屋に案内してくれた。

一階建てのこじんまりとした家だが、一人暮らしなら狭くはないだろう。居間にはテーブルがあり、椅子が四脚ちょうどあった。

「座って待っててくれ」

レヴンさんはそう言ってお湯を沸かしに行き、俺たちは椅子に座って待つ。

壁には本棚と子どもが描いたような絵が飾られていた。あまりジロジロ人の家を見るのは失礼と思ったが見えてしまう。

「お子さんがいらっしゃるんですか?」

台所にいるレヴンさんに声をかけた。

「昔、知り合いの子どもを預かってたんだ。見ての通り今は一人暮らし。嫁については聞くな」

お湯が沸き、マルケスさんが自分の急須を出して、お茶を振る舞ってくれた。ダンジョン産の新茶だ。

「このお茶、美味いな! どこで手に入れた?」

レヴンさんはお茶を飲んだ瞬間、驚いていた。マルケスさんは「秘密の場所」としか言わない。

「ちょっと計画を立てましょう。実験もいつまででもできるわけではないでしょう。バレイモの病気を治す前に、あの村の人たちが餓死しかねませんよ」

一息ついたところで俺が言った。

「だいたいなんでバレイモが失くなったくらいで、あんな村の人達は腹を空かせてるんだい? 小麦はどうした?」

マルケスさんがレヴンさんに聞いた。

「あの村で穫れる小麦は全部エルフが持っていく。そもそもあの土地はエルフの物で、ダークエルフたちは小作人なのさ。小麦畑の脇でバレイモを作ってたんだが、黒いバレイモが発生したからな」

レヴンさんはそう言って大きなため息を吐いた。

「元々、騎馬民族だった俺たちダークエルフに畑を作らせたのもエルフなら、育てた作物を買い取るのもエルフさ。そうやって何百年も生きてきたが、2年前にドラゴンがやってきて、南のルージニア連合国との戦争も終わり、交易が始まった」

お茶を飲みながら、レヴンさんが語り出した。

「織物も奴隷もエルフよりも高く買ってくれるし、これまで見たことない野菜や果物、魔物の肉に毛皮、なんでも売ってくれた。特に保存食が豊富でありがたかった。たった2年だが、もうダークエルフたちはルージニア連合国なしに生きていけない気がする。それでエルフとの関係がないがしろになって、罰が呪いという形でやってきた。そうダークエルフたちは思ってるのさ」

「今回の黒いバレイモの拡大について、エルフは助けてくれなかったの?」

ベルサが聞いた。

「農薬を支援してくれたり、食料をこれまでより安く売ってくれたりはするが、最近はなにも……」

レヴンさんは首を横に振った。

「今までのことは置いといて、これからの話をしよう」

マルケスさんが手を叩いて笑った。

「これからの実験では、今ある薬に頼らない実験をしよう。それだけ本を読んでいるんだし、もしかしたら解決策が見つかるかもしれない」

ベルサが本棚にある本を指差した。

「確かに、もう一度読んでみるか」

レヴンさんが頷いた。

「私たちは違う場所で石灰の粉を土に混ぜたりしてたよね?」

ベルサが俺に聞いてきた。南半球ではそうしてたな。

「やることはまだいろいろありそうだ」

「とりあえず、種芋が残り少ないんですよね。それからあの村の人たちにはレヴンさんが食べ物を持って行ってたんですか?」

「そうだが、圧倒的に穀物が足りない」

「だったら、キャッサバを育てさせてみるかい?」

マルケスさんがレヴンさんに聞いた。

「時間がかかるけど、来年の穀物を作り始めよう。作り方は僕が教える。今年はルージニア連合国に食糧支援をしてもらうのは可能かな?」

マルケスさんが俺に聞いてきた。

「どうですかね。あとでアルフレッドさんに聞いてみます」

「キャッサバとはなんだ?」

レヴンさんの不用意な質問により、そこから3時間ほどマルケスさんによるキャッサバ講座が始まった。

その後、レヴンさんの仕事を手伝った。タネを空いている鉢植えに等間隔で植え、野菜の苗に水をやり日に当てる。楽な職業などない。

さらに東の海岸の近くに防風林として松の苗木を植えに行きたいという。少しでも風が弱くなる方法を考えて毎年時間があるときに、何日もかけて行くそうだが、飛べる俺たちに手伝ってもらったら一気に作業が進むという。実際、作業は思っていたよりも早く進んだ。

作業が終わり、レヴンさんを家に送るとすでに夜。今夜も再びあの空き宿に泊まるしかなさそうだ。

「あそこは秋にエルフたちが泊まるだけだから、勝手に使ってくれ」

レヴンさんから許可をもらった。

宿に戻り、晩飯の野菜スープを温め直していたら、セスがやってきた。

「社長、あのレヴンさんっていう人、風の勇者の父親です」

「はあっ!」

俺のアホみたいな声が家具のない宿に響いた。