軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

256話

ノッキングヒルから北上。森の国境線を通りダークエルフの国であるウェイストランドに入った。国境線を進むと街道脇に砦があり、そこで入国審査や出国審査があるようだ。

砦の衛兵に特使の証である黒革の手帳を見せ、うちの社員たちとマルケスさん、シオセさん合わせて7人全員が特使として入国した。

砦から再び北上し、森を抜けると草原が広がっていた。背の高い木々は見当たらず、硬そうな岩が点在している。相変わらず街道には馬車が多く、それを辿って行けば自然と大きな町が見えてきた。

ウェイストランド南部の町、ネヴァープロスパー。

「あの町は栄えることがないと言われていたんだが、今はこの通りよ」

街道を歩く行商人が言うように、町には人が溢れている。

ルージニア連合国との交易を始め、この町が交易の要になっているらしく、ウェイストランド各地から人や特産品が集まるようになったという。わざわざ町まで来て奴隷になる輩も多く、窃盗や強盗が後をたたないのだとか。勝手に喋って情報をくれるので、素直に聞いておく。

「犯罪者の数に衛兵が足りてねぇんだ。冒険者を集めちゃいるが、盗賊まがいの冒険者もいるしな。人が多いとこうなるもんかね」

7人で歩いていると、近づいてくる行商人は多い。自衛のためだろう。俺たちが盗賊だとは考えなかったのか?

「武器を持っている者が少なかったからな。戦えるのは、そのビキニーアーマーのネエちゃんと弓のおっさんくらいだろ? 盗賊は武器を見せて商人を脅すもんさ」

「大丈夫さ。いざとなったら俺たちもナイフくらいは持ってる」

行商人たちからは、アイルとシオセさんしか戦えないと思われているらしい。

それを聞いて、うちの社員は全員、肩を震わせて笑っている。

不思議な顔をした行商人たちと一緒に、ネヴァープロスパーの町に入った。

街に入ったら、まず拠点となる宿を探すのが商人としての鉄則と教えられた。安宿より、少し高めの宿を取ったほうがいいらしく、街に入るなり行商人たちは散っていった。いい宿は争奪戦になっているのかもしれない。

「僕は野宿でもかまわないよ」

「俺も島では木の上で過ごすことが多かった。美味いものが食べられればそれでいい」

マルケスさんとシオセさんがそう言うので、俺たちも今夜は町の外で野宿することを決め、情報収集に向かう。適当に散って、夕方、町の入り口で落ち合うことに。俺とアイルで冒険者ギルドと商人ギルドは回ることと、何かあれば通信袋で連絡することは決めておいた。マルケスさんとシオセさんの通信袋は昨晩、メルモが夜なべをして縫ってくれている。夜なべと言ってもものの数分だったが。

「社長の魔法陣の見本があれば、どうってことないですよ」

と、本人は言っていた。

さて、まずは冒険者ギルドから。だいたいガラの悪そうな兄ちゃん達についていくと、冒険者ギルドを見つけられる。この町の冒険者ギルドも同じだ。

「なんで俺たちが依頼を受けられないんだよぉ!」

「いや、ですから商人の方々から被害届が出されて……こちらのギルドでパーティ登録されてましたよね?」

カウンターでは、商人を襲い仲間が助けて金をせしめるというマッチポンプバカたちが、女性職員を取り囲んでいる。

「ナオキ……」

「ん」

アイルに言われ、しぶしぶ俺はバカたちの頭部を魔力の壁で覆い、空気を抜いた。

突然倒れたバカたちに周囲が驚くなか、俺たちは掲示板を見る。

「埋めたはずの死体が墓から出てきて人を襲っているらしいな」

「ゾンビ化してるのか。こっちは遺体の焼却を依頼しているよ」

アイルの指差した依頼には火魔法を使える魔法使い募集と書かれていた。事態は思っていた以上に悪い。

「どちらも東部だな」

「ウェイストランドは東西に長いと聞いたよ」

「地図を見せてもらおう」

俺たちは、慌てている職員に地図を見せてもらうことに。倒れたバカたちはしっかり衛兵に連れて行かれていた。

「黒いバレイモは東から始まったの?」

地図を見せてくれた女性職員に聞いた。

「そう……です。私たちは呪われているから、神の試練なんです」

女性職員はダークエルフだった。周囲にいる者たちはほぼダークエルフ。俺たち人族のほうが少数派だ。

「ああ、えーっと、神はそういう面倒なことはしない。バレイモの病気だよ。俺みたいな人族もダークエルフも風邪くらいかかるだろ? 同じさ」

俺は女性職員に言った。

「でも、エルフのように長命ではないし、知識も知恵も劣っています。肌だって色が違うし……」

「俺も肌の色は違うよ。知識も知恵も人それぞれさ。死ねないって悩んでいる人と友達だし、長生きじゃないからって別に呪われてるってわけじゃない。呪いって言うと理由付けとして都合がいいのかもしれないけど、回復薬も祈祷も効かないんだろ? 見方次第じゃないの?」

「ナオキ、あんまり言い過ぎるなよ」

アイルから注意を受けた。

「あ、ごめん」

卑屈になっていても状況は好転しないってことを伝えたいだけなんだけど、女性職員の目には涙が溜まっていた。

「ゾンビの依頼を受けよう」

アイルが依頼書を提出し、ゾンビ駆除の依頼を引き受けることに。

「当事者たちのほうが混乱してるんだ。皆が卑屈になることで安心することもあるさ」

夕方、ネヴァープロスパーの入り口で、冒険者ギルドであったことを報告したら、マルケスさんが言った。メルモもダークエルフの冒険者に絡まれたというし、セスは商店街で食料品を見ている時に財布袋を盗まれそうになったという。

シオセさんは、「風が読みにくい」と言っていた。

「たぶん、風魔法を使う奴らが多いせいだ。エルフもダークエルフも昔から風魔法が得意だからな」

シオセさんはさらっと重要なことを言った。

「そうなんですか!?」

俺が聞くと、皆が「当たり前だろ」という顔でこちらを見てきた。この世界の常識らしい。もっとエルフとダークエルフについて聞くと、そもそもエルフは長い間、ダークエルフを呪われた種族と呼び、差別してきた歴史があるらしい。他種族にとってはどうでもいい話だが因縁は深いという。古くから、ダークエルフはエルフの里にあるという森には立ち入れない掟があり、ダークエルフは草原でフィーホースに乗って騎馬民族になったのだとか。

アイルとベルサは貴族の娘だからかそういうことには詳しいようだ。

ひとまず、東へと向かう。

日が落ちると真っ暗だ。探知スキルを使いながら、進んでいく。大きな道でも人通りはほぼない。草原のオオカミの魔物であるギャングウルフの鳴き声がそこかしこから聞こえてくる。その上、ゾンビも徘徊しているようだ。そんな道の脇で野宿する者たちなんかいるわけない。

「暗いはずだ」

俺たちは見つけたゾンビに回復薬をかけて溶かし、ギャングウルフの群れを追い立てながら進んだ。

村や町もあったが、廃村になっていたり、ちゃんと人が住んでいても魔石灯の明かりもない。魔物が来ないよう身を潜めて眠っているようだ。

どうせ外には誰もいないのだからと俺たちは空飛ぶ箒で移動。

空から見ると、黒い草原がずっと先まで広がっているのがわかる。春とは言え夜の空は寒いからか、急に身体がブルった。

「ん!? 前方に不自然な風の流れがある」

セスの箒に同乗しているシオセさんが前方を指差した。

「アイル! 照らしてやってくれ! 誰かが魔物に襲われているみたいだ」

「了解」

アイルが前方に光魔法で光る剣を放った。

周囲が一気に明るくなる。

中年のダークエルフが草刈り用の大鎌を片手に風魔法を使いながら、ゾンビに向かって応戦していた。急に明るくなったことでゾンビたちが一瞬、空を見上げた。その隙を見逃さず、中年ダークエルフが大鎌を振るいゾンビたちの頭部を切り落とした。

周囲に回復薬を撒き散らしながら、俺たちは中年ダークエルフの下に降り立った。

「こんばんは~」

「なにしに来た!? ここは危険だ、早々に立ち去れ!」

大鎌を持った中年ダークエルフは挨拶もなしに俺たちを追い返そうとした。

「その危険を調査しに来たんです!」

「空から来たということは、風の勇者の使いの者か? 神の使いか? どちらにせよ、貴様らじゃ足手まといになるだけだ。早いところどこかへ行ってくれ! あの光にゾンビが集まってきちまうじゃねぇか!」

空にはアイルが放った光の剣。探知スキルで見たが、すでに周囲にはゾンビの姿はおろか、魔物の姿もない。

「探知スキルで見ましたが、周囲に魔物はいませんよ」

「そうか。だったらこの地に用はないはずだ。面倒事を起こす前に立ち去ってくれ」

中年ダークエルフはどうしても俺たちを追い返したいようだ。

特にやることもないし、邪魔しちゃ悪いので俺たちは立ち去ることに。

「じゃ、俺たちは行きます! ご無事で!」

俺がそう言ったが、中年ダークエルフは「早く行け」と手を振った。

なんなんだ? と思いながら、空飛ぶ箒を掴んだ瞬間、耳鳴りがした。気圧が変わっているのか。

「飛ぶな! 東から突風がやってくる!」

シオセさんが叫んだ。全員、それに従う。真っ暗だというのに、シオセさんには風の流れが読めているようだ。

ほどなく、空を突風が駆け抜けた。

「帰れ! 帰れ!」

中年ダークエルフが空に向かって叫んでいる。どうやら可哀想な人らしい。

俺たちは中年ダークエルフを気にしつつ、文字通りその場から立ち去った。

突風が吹き去った後も、シオセさんは空を見上げている。俺の耳鳴りはもうしなくなった。

「どうかしたんですか?」

「空になにかいるな。こういう時は家の中でおとなしくしていた方がいいが、ここじゃそういうわけにもいかないか」

俺の問いにシオセさんが答えた。

探知スキルで周辺を探るともう少し東へ行った場所に村がある。僅かに残った人が住んでいるようだ。空き家もあったので、俺たちはその空き家で一泊することに。

村の空き家は元々宿屋だったようだが、中はベッドもテーブルもない。

適当に部屋割りをして、勝手に魔物の毛皮を敷いて眠る。

「さっきシオセさんが言っていた空にいるなにかってなんでしょうね?」

横になりながらセスが聞いてきた。

「さあな」

「やっぱり精霊でしょうか?」

風の精霊か。そういや神様が風の勇者に俺のことがバレてるとか言っていたな。今襲われたらひとたまりもないが、それはないだろう。

「やるなら、もうやっているはずだ。向こうも警戒してるんじゃないか? 俺は精霊殺しだからなぁ」

夜中、風がだんだん強くなっていき、窓がガタガタと音を立てていた。