軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

170話

砂砂漠の生活は過酷だ。

昼は灼熱、夜は極寒。

脱水症状になることを考え、昼は砂山を掘って影の中で寝る。夕方頃起きて、食事をしてから南東へ向け走る。アイルがかなり上空まで駆け上がり、周囲を確認したところ南東に岩石地帯があるらしい。

移動する場合も柔らかい砂に足を取られ、走りにくい。もちろん、夜はスライムも飛び出してくるので、駆除しながら走ることになる。

真っ暗ななか、砂丘を幾つも上ったり下ったりしながら走るのは精神的にやられる。ボウの笑顔にも覇気がない。

移動して3日目の明け方、俺の探知スキルでも岩石地帯が見えた。大きな岩が建造物のように転がっている。さらに俺はアイルが確認できなかったものまで見えてしまった。

「人がいる」

「……本当か?」

俺の言葉にアイルが聞いてきた。7人しかいない状況で、あまりにも寂しくなって俺が嘘をついている可能性がある。俺も幻覚を見ている可能性を拭い去れない。ただ、何度探知スキルで確認しても青い光が、この先の岩石地帯に幾つも見えるのだ。

「探知スキルが壊れてなければ、いるね」

期待半分、警戒半分で近づく。南半球で生き残ることに長けており、邪神とスライムの脅威にも耐えうる人たちだ。

どんな厳つい人たちなんだろう、と想像していたが、岩石の向こうから聞こえてきたのは気の抜けた歌だった。

「「み、み、み、み、緑のう◯こ。う◯こは緑。み、み、み、み、緑のう◯こ。略してみんこ」」

あまりのバカバカしい歌詞に、砂砂漠での疲れも緊張感も笑いとともに抜けてしまった。

「ハハハ。こんちは」

岩から顔を出して、両手を上げながら挨拶してみた。

赤毛の髪に赤い肌の背が低い少年たちはこちらを見て口を開けたまま固まってしまった。薄茶色の服は麻だろうか。少年たちは何かの作業をしていたようで、白い棒を大きな池に突っ込んでいる。

岩石地帯に池があるということはオアシスなのだろうと予測できる。金属製のバケツが池の側に置いてあるので水汲みをしていたのかもしれない。

「いい歌だね」

岩から全身を出し、正体を晒しながら近づいた。

「誰だ~~!?」

「あああああああああっ!」

少年たちが叫んだ。

「大丈夫だ。危害は加えないし怪しいものじゃないよ」

慌てて落ち着かせた。

「な~んだ、怪しい人じゃないのか」

「早く言ってくれよ。オレはまた邪神の使いの者かと思ったよ」

「まぁ、邪神から依頼は受けてるんだけどね」

「なんだ~~!?」

「あああああああああっ!」

少年たちは白い棒を放り投げて、逃げて行ってしまった。探知スキルで見える範囲なので、ちょっと落ち着くまで待とう。

「第一印象は最悪だったんじゃないか?」

「まったく、これだからナオキは」

アイルとベルサも隠れていた岩陰から出てきた。

後の四人も出てきて池の側で休憩。池の水には緑色の藻のようなものが繁殖しているので、とてもではないが飲めなかった。一応、口をつけたアイルいわく、塩辛いらしい。オアシスじゃないのか?

少年たちが大人に報告してくれたのか、徐々にこちらの様子を窺いながら近づいてくる集団がいる。

「こんにちは~。危害は加えませんよ~」

岩陰に隠れている集団に向かって声をかける。

「じゃ、じゃ、邪神の使いというのは本当か!?」

「ああ……えーと、邪神からスライム駆除の依頼を受けているだけです。スライム以外を傷つけるつもりはありません。むしろ、どうやって生きてきたのか教えてほしいくらいです」

威圧感が出ないよう座ったまま、丁寧に説明すると、赤い顔の髭面のおじさんが岩陰から顔を出した。

「ドワーフか!?」

髭面のおじさんを見た瞬間、アイルが叫んだ。

ファンタジー小説などではエルフと並ぶ有名な種族だが、そういえば、この世界では関わったことがないなぁ。

ドワーフのおじさんはアイルの声に一瞬怯んだが、俺がアイテム袋の中に隠し持っていた酒をコップに入れ差し出すと、匂いにつられたのか、全身を見せてくれた。

背は小人族と同じくらいか、ちょっと高いくらい。一番の特徴は長い髭。肌が赤いことも特徴的だが、毛も赤い。体型はイメージしていた通り、ずんぐりむっくりとしている。

「酒か?」

「ええ、チョクロという植物の酒です」

トウモロコシに似たチョクロのどぶろくで、モラレスで休暇を取っていた時に買っていたものだ。

「毒でも入っているんじゃないか?」

警戒したドワーフのおじさんが聞いてきた。

「それをいうなら酒はみな毒です。飲みすぎれば身体を壊し、飲まなければややこしい人間関係に患うこともない。ただ、百薬の長とも言います。血行が良くなり、砂漠の生活で溜まったストレスも解消できる。酒は清濁併せ呑める大人の飲み物です」

俺はどぶろくを一口飲んで注ぎ足し、コップを地面に置いた。

ドワーフのおじさんは太い腕を組んで思案するように目をつぶり、そのままコップの前にあぐらをかいて座った。

「お前たちがどこから来たのか知らんが、先に言っておくぞ。我らは神々に見捨てられた種族の子孫と伝え聞いている。関わると碌なことにならないらしい。それでもこの酒を飲んでもいいのか?」

「私たちが住んでいた北半球では、ドワーフは鍛冶職人として非常に重宝される種族だ。数が少なく保護する対象となっている地域も多い」

横にいたアイルが説明した。

「私たち獣人でドワーフを嫌いな人はいませんよ」

ヘリングフィッシュの干物を用意しているメルモが言った。加熱の魔法陣を描け、と手で指示されたので、サラサラと地面に描いてやった。ヘリングフィッシュの干物はとても美味しいので、大事な時に食べようと言っていたものだ。

「獣人はドワーフと仲がいいのか?」

こっそりセスに聞いたみた。

「獣人が差別されていた時代にドワーフが助けてくれたらしいんです。だからドワーフや亜人たちとも仲良くしようって。獣人の子は、だいたい枕元で親から聞く話なんじゃないですかね」

セスが俺に説明していると、ドワーフのおじさんは目に涙を浮かべ始めた。

「北半球と南半球が分かれて千と有余年。北半球でも我らの種族は生き続けていたのか」

ドワーフのおじさんはコップを掴むとそのままグイッと飲み干した。

「んまいっ!」

そう言って笑ったドワーフのおじさんはそのまま後ろに倒れた。

「ヴァルト!」

「ヴァルトおじさん!」

「あんなに一気に飲むから!」

岩陰から続々とドワーフたちが出てきて、おじさんを介抱した。

「すみません、無理に飲ませちゃったみたいで。大丈夫ですか?」

「いいんだよ。いつものことだからぁ」

ずんぐりとした体型のドワーフのおばさんが言った。倒れたドワーフのおじさんは意識があるようでヘラヘラ笑ってる。

「そらぁ! 皆、千年ぶりの客人だよ!」

ドワーフのおばさんが周りに声をかけると、ドワーフたちが「こっちこっち」と俺たちの手を引く。あまり饗すという文化がないのか、割りと強引に連れて行かれた。

連れて行かれた先には洞窟があり、コウモリの洞窟と同じように崩れた天井から陽の光が入ってきていた。日光が当たる場所では植物も生え、ニワトリっぽい魔物も飼育されていた。『動物』ではなく魔物だった。使役スキルが効く分、飼育しやすいのかもしれない。

洞窟は下に向かって伸びており、壁際には魔石灯も並んでいる。以前はめったに魔石を採掘することはできなかったが、ここ数ヶ月は砂漠にスライムが現れるようになり洞窟内も明るくなったとドワーフの少年が自慢していた。

進んでいくと大きな広場に出た。広場はシャンデリアのような魔石灯が天井からぶら下がっていて非常に明るい。壁に幾つもの穴が空いていて、家族ごとに住んでいるのだという。

族長と呼ばれるドワーフの爺さんを紹介された。

「ほうっ! 伝え聞いていたとおりじゃわい!」

ドワーフの族長はしきりに俺たちの身体を触りだした。アイルの胸を触ろうとして、手を拗じられていて、一瞬焦ったが、ドワーフのおばさんたちが笑っていたので貞操観念も俺たちと変わらないようだ。ちなみに俺は誰であろうと触らせ放題。

ボウを魔族だと紹介した時は、さすがに皆驚いていたようだが、ボウが笑うと受け入れてくれたようだ。笑顔の練習の成果とも言える。

俺たちに危険がないことをわかってくれたのかドワーフの家族が続々と集まってきた。4、50人はいるだろう。

先ほどと同じように酒を差し出すと、饗す方法はわからなくとも自然とその場で宴会が始まってしまった。お互いに質問することは多い。

「お前たちが北半球からやってきたということは、南半球と北半球は繋がったということか?」

「ええ、北西にある大陸で、現在土の悪魔がダンジョンを作ってますから、そこから通れるようになるはずです」

「「「「ダンジョン!?」」」」

俺の言葉にドワーフたちがざわついた。

「ここは遥か昔、黒竜が住むダンジョンと呼ばれておった。今はダンジョンコアもなく我らが隠れ住む洞窟になっておるがな」

「へ~黒竜さんの! 知り合いです。確かに南半球で生まれたって言ってたけど、ここだったんですね!」

「「「「なんと知り合い!!」」」」

さらにドワーフたちはざわついた。

「それよりも、どうやって生き残ってきたんですか?」

「どうって、そりゃあ、絶滅の危機には何度もあった。特に水不足だな」

しみじみとドワーフの族長は答えた。

「邪神が暴れまわったり、スライムが大発生したよりも水不足が大変でしたか?」

「ああ、邪神は、ほらぁ怠惰でしょ? 逃げ続けていればそのうちめんどくさくなって違うところにいくのよ。まぁ、いつでも私たちなんか殺せると思っているんだわぁ」

「スライムは夜しか出ないし、弱いからね」

ドワーフのおばさんたちが会話に加わってきた。あとでスライムの倒し方を教えてもらう約束をしておいた。

「たとえどんなに水が不足しようとも我らにはある『まじない』が伝えられていたんだ」

ドワーフの族長はくの字に折られた針金を2本取り出した。

「ああっ! ダウジングですか?」

「知っとるのか!? これは我らの種族の秘伝かと思っていたが」

族長が床に酒の入ったコップを置いて、ダウジングを実演していた。こちらの世界ではダウジングがかなり有効なようだ。

セスが子どもたちにカム実を絞ったジュースを出していると、緑のパウダー状の何かがかかったバレイモの煮っころがしをドワーフのおばさんたちが出してくれた。

いつの頃からかうちの会社では、得体が知れないものが出てきた際は俺が最初に食べることになっているので、思い切りガブッと食べてみた。

ちょっと苦味はあるが美味い。

「美味いです!」

「ハハハ! あんまり食べ過ぎると緑のう◯こが出るぞ!」

口の周りについた緑の粉を舐めていると、子どもたちに笑われた。

「こら! 人が飯食ってる時にそういうこと言うんじゃない!」

おばさんが怒っていた。

「これはねぇ、スピリリナというもんさぁ。栄養が豊富なんだよ」

「洞窟の前の池で育ててるんだけどねぇ。あの子たちはこの間、隠れて食べすぎてお腹壊してたのさぁ」

おばさんたちは俺に優しく教えてくれる。もしかしたら俺はドワーフのおばさんにはモテるのかもしれない。

女性陣はおじさんたちから畑の場所を聞いて、連れて行ってもらうようだ。しっかりしている。

すっかり気を良くして、飲んでいたら急激に睡魔が襲ってきた。出された料理になにか入っていたわけではない。セスは特に眠たくないそうだ。

ではなぜこんなにも眠いのか? 考えてみれば当たり前だった。俺たちは夜通し砂漠を走ってきたのだ。眠くないほうがおかしいくらいだ。

俺は族長に断って、広場の隅っこで眠らせてもらうことにした。途中、何度か子どもたちが上に乗っかってきた気がしたが、俺は自分の瞼に従い眠り続けた。