作品タイトル不明
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アランの姿がブランに重なる。
テリウスの元から強引に連れ晒されたときの恐怖で身体が強ばり、逃げなければならないとわか
っているのに足がすくむ。
「っ……いやっ!」
思わず両手を突き出せば、ちょうど伸びていたアランの手を振り払う形になってしまった。
「な……」
アランは拒まれたことに驚いたのか、一瞬目を丸くするも、すぐにその表情を険しくさせる。
鋭い眼光にただでさえ萎縮している身体にますます力が入った。
(今、アラン様がブランお兄様に見えた。どういうこと? もしかしてアラン様はブランお兄様
の生まれ変わり——?)
そんなことがあるわけがないと否定したい気持ちと、もしそうならばアランが執拗にネロを疎ん
でいたことにも説明がつく。
だが、もしそうだとしたらネロは何故気がつかなかったのだろうかという疑問も同時に生じた。
もしアランの前世がブランだとわかっていたのなら、ビアンカを王城に招こうなどとは考えない
はずだ。
ビアンカとネロは出会った瞬間にお互いの前世に気がついたが、アランは違うのだろうか。
(わからない。プルメリア様と同じで、ただ似ているだけ?)
アランの顔立ちや声はブランにはまったく似ていない。
だがビアンカに向けられる執着めいた姿はブランを彷彿とさせた。
「王子である僕を拒むというのか?」
「こ、拒むも何も……先ほども申し上げましたが私はネロ様の婚約者です。いくらネロ様のお兄
様とはいえ、触れられたくはありません」
はっきりと宣言すれば、アランが大きく目を見開いた。
血色の悪い唇を引き結びわなわなと身体を震わせる、かんしゃくを起こした子どものようにそ
の場で何度も地団駄を踏むと、低い声で唸りはじめた。
「ネロネロネロ……ああ腹立たしい!!」
「ひっ!」
大声を上げたアランにビアンカは短い悲鳴を上げる。
「あいつが生まれたせいで俺はずっと2番手だ。どうしてだ。俺とあいつのに何が違う!」
「まあまあアラン様。おかわいそうに」
荒い呼吸を繰り返し方を上下させるアランに、それまで静観していたプルメリアがそっと近づく
その背中を慈しむように撫でた。
「私はあなたの味方ですわ。だから落ち着いてください」
「ああプルメリア……君だけだ。君だけが私をわかってくれる」
アランはまるで人が変わったように弱々しい声を上げてプルメリアにすがりついた。
プルメリアはそんなアランを優しく抱き締め、愛しげに頭を撫でてやっている。
その異様な光景に、ビアンカは息を呑む。
(どうしてプルメリア様はあんな様子のアラン様と婚約を……?)
どう考えても何かがおかしい。
(もしかして……!)
不意に頭に浮かんだ考えに、ビアンカは総毛立つような恐怖を感じた。
(彼女もアルルのように、薬で操られている?)
これまでプルメリアとアランの間には婚約話などなかったとネロは言っていた。
だがここに来て急に二人の婚約がまとまったことを不審がっていたし、ビアンカも同じ気持ちだ
った。
そして今日、プルメリアはアランの行動を咎めるどころか彼に従っている。
どう考えても彼の行動はおかしいし、止めるべきなのに。
アルルがされたように何らかの精神操作をされていると考えた方が納得できる。
もし本当にアランがブランとしての記憶を持っているのなら、アルルを操ったあのおぞましい薬
の作り方を知っていてもおかしくはない。
ネロはこの時代にはあの薬はないと言っていたが、ブランが自分で製造するなら話は別だ。
もし予想が当たっているのだとしたら、ビアンカも同じ目にあってしまうかもしれない。
(とにかく逃げなくちゃ……!)
真実がなんであれ、この状況から抜け出さなければいけない。
アランは話が通じないし、プルメリアが助けてくれるとは思えない。
誰かが助けてくれるかもしれないが、この騒ぎが表沙汰になれば醜聞になるだろう。
ひしと抱き合った二人からじりじりと距離を取ると、ビアンカは一気に扉に向かってかけだした
。
「貴様……!」
鍵はかけられていたが、内鍵だったおかげですぐに開けることができた。
力を込めればすぐに扉が開く。
「やった……きゃぁ!」
外に出ようとした瞬間、降ろしたままだった髪をつかまれ後ろに強く引かれた。
扉を掴んでいた手からも力が抜け、後方に倒れ込むように尻餅をついてしまった。
「っう……!」
痛みにうめき視線を後ろに向ければ、顔を真っ赤にしたアランがビアンカの髪を掴んでいた。
「僕から逃げるなど……貴様……貴様!」
怒りに染まった表情に、ビアンカは全身の血が冷たくなるのを感じた。
全身を震わせるアランからは怒りの感情しか伝わってこない。
「離してください……っう……!」
「ネロの元になど行かせない! 僕のものにしてやる!」
「いやっ、やめて……! 誰が、たすけて!」
薄く開いた扉の隙間に向かって手を伸ばす。
見張りの兵士たちはどこにいったのだろうが。
捕まれた髪がぶちりと切れた音がして、涙がにじむ。
(駄目……!)
このままアランに捕らえられたら。
その先に待ち受け取る恐怖に息が止まりそうになる。
(いや。絶対に嫌)
またネロと引き離されてしまうのだろうか。
ビアンカがアランの手に落ちたと知ったらネロはどれほど苦しむだろうか。
前世でアルルを失った傷に苦しみ続けているネロに、再び同じ思いをさせてしまうかもしれない
。
ようやくまた巡り会えたのに。
今度こそ本当に二人で幸せになれると思ったのに。
(悔しい)
何の権利があって、ビアンカとネロの幸せを踏みにじろうとしているのだろうか。
悲しみよりも憤りが心を染める。
「はは……! いい顔だ! お前が傷物になったと知ったら、ネロはどんな顔をするだろか!」
「っ……最低よあなた!」
思い切りにらみ付けてみるが、アランは歪んだ笑みを浮かべるばかりだ。
その横でプルメリアもまた、不気味な笑みを貼り付けている。
自分の婚約者が目の前で他の女性の髪を掴んでいるのに、どうしてそんなに平然としていられる
のだろうか。
「あなたたち、おかしいわよ!」
「何とでも言え。さあ、こっちにこい」