軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お嬢じゃないです。ねこです。

#25 ねこです

「にゃー」

:お嬢久しぶり……え、なにこれ?

:なんだそのきぐるみ

:一ヶ月ぶりに配信つけたと思ったらどんな状況よこれ

:またお嬢が変なことしてる……

:いや元気そうで何より……元気? 元気なのか?

「……にゃー」

:にゃー、ではないが

:なんかよくわからんが不満そうな鳴き声はした

:なんだ、何がしたいんだお嬢

:お嬢学会ー! 出番だぞー!

:無茶ぶりにもほどがある

「にゃにゃ、にゃ」

:お、おう

:なんだこの……なんだこれ……

:俺らは一体どうすればいいんだ

:猫なんだな? つまり、猫ってことでいいんだな?

「にゃ」

:いいらしい

:気持ち満足そうな鳴き声がした

:ほな猫ってことにしとくかぁ……

:何一つわからんが、とりあえず猫ってことらしい

:きぐるみの顔手抜きすぎない?

:(・w・)←再現してみた

:ふふ

よし。うちのリスナーならわかってくれると思ってた。

私がこんな格好をしているのには、それなりに深い理由がある。

一ヶ月前の呪禍との死闘で、私は一時昏睡状態に陥るほどのダメージを負った。

今では怪我も大体治ったけれど、退院許可はまだ降りていない。当然、迷宮に潜るなんて言語道断だ。

しかしながら、飽きてしまったのだ。ずっとベッドで寝ていることに。

そんなわけで、大変そうな救助要請も来ていたことだし、お散歩がてらひょっこり抜け出してきたのだ。

そのための変装が、ねこのきぐるみ。

素性を完全に覆い隠す、我ながら完璧なアイディアである。

:もしかしてこれ変装か?

:さすがにそんなわけなくない?

:声がお嬢だし、立ち振る舞いもお嬢だし

:そもそもお嬢の配信枠だし

:どこからどう見てもお嬢じゃん

:お嬢かどうかなんて、顔見なくても足音聞けばわかるよなぁ

:それはお前だけかも

:足音判断師兄貴、どうかその力を世のため人のために使ってくれ

「にゃー!」

:あ、怒った

:お嬢って呼んじゃダメなのか?

:(・w・)ねこってよべ

:(・w・)←これやめて?

:何度見ても手抜きな顔だなぁ……

もういい。そんなことより、ジャイアントデスワームだ。

四層の全域に生息するこの魔物は、砂漠の暴君とも呼ばれる強大な魔物だ。

おっちょこちょいな性質からアイドルなんて呼ばれたりもするけれど、正面から戦うとなるとかなりの難敵となる。

このクラスの魔物となると、さすがの私も油断はできない。剣を抜いて、いざ尋常に――。

け、剣が……!

きぐるみのせいで、剣が抜けない……!

:あの、ねこさん?

:剣抜けてませんけども

:まさかふわふわきぐるみハンドがこんな形で裏目に出るなんて……

:裏目にはあらゆる意味で出てるだろ

:素性は隠せてないし戦闘にも向かないし、なんで着てるんだ状態ではある

:(・w・)・・・。

:(・w・)うるさいだまれ

:勝手にアテレコするのやめて?

ま、まあ、剣が抜けなくたって問題はない。

私の武器は剣だけじゃない。剣が使えないなら、魔法で倒せばいいのだ。

長年培ってきた探索者としての経験から最適解を導き出した私は、華麗にポーチからシリンダーを引き抜いて――。

し、シリンダーも……!

シリンダーも、抜けない……!

:あの、ねこさん……?

:なんでポーチをさわさわしてるんですかねこさん

:察するに、シリンダーを抜こうとして失敗してるんじゃないですかね

:さっきの今で同じ失敗を二回もやることある???

:(・w・)どうしよう、こまった

:(・w・)にゃーん

:にゃーんではないが

「あのー……。白石さん?」

「にゃ」

ばたばたと一人芝居をしていると、近くにいた探索者が心配そうに声をかけてきた。

「え、えっと、大丈夫ですか? その、色々と」

「にゃー……」

「にゃーではなくて」

だ、大丈夫。大丈夫だから。

武器もシリンダーもなくたって、なんとかなるさ。

それに、全部のシリンダーが使えないってわけじゃない。レッグホルスターに納めた風走り――旋風をまとって加速する、移動用の風魔法――なら普通に使える。これでなんとかすればいいだけの話だ。

この寸劇を不思議そうに見ていたジャイアントデスワームが、おもむろに動き出す。大口を開けて、こちらめがけて首を伸ばしてきた。

「にゃー!」

風走りを起動して、軽く跳躍。風をまとって側頭部を蹴り飛ばすと、ワームの巨体はもんどり打って地面に倒れた。

:(・w・)ふん

:(・w・)ぬるいわ、こわっぱ

:(・w・)このねこにかてるつもりか?

:ねこさんってそういうキャラなんだ

:お嬢が絶対言わないセリフシリーズじゃん

:お嬢強キャラ概念には一定の需要がある

:本来ちゃんと強キャラのはずでは……?

倒れたワームの頭に、回転しながらかかと落としを叩き込む。ズドンといい音がして、ジャイアントデスワームは甲高い声で悲鳴を上げた。

武器もシリンダーもなくたって、私にはこの肉体がある。そうだ、最初からこうすればよかったんだ。

そんなわけで。私はワームに馬乗りになり、ねこさんハンドの拳を固めた。

:あ

:おいまさか

:やるのか!? 久々にやるのか!?

あとは風研ぎの魔法を拳にまとって、ひたすら殴りまくれば――。

いや、だから……。

風走り以外のシリンダーは使えないんだって……。

なんだかもう、一から十までぐだぐだだ。なんか面倒くさくなってきたし、もう使っちゃうか、あれ。

実戦で使うのはあの時以来だけど、なんとかなるでしょ。たぶん。

必要なステップは三つ。構築と、演算と、発現だ。

頭で構築した術式を、体内の魔力核に演算させ、魔力を通す。その三ステップで魔法は成る。

一瞬の集中。内側からエネルギーが溢れるような奇妙な感覚の後、私の両腕に魔法の風が巻き付いた。

発現したのはいつもの風研ぎ。違いがあるとすれば、シリンダーを使わずに発動したという点だけだ。

よし。

じゃ、殴るか。

:撲殺だあああああああああああああ

:もはや伝統芸能

:ねこぱんち! ねこぱんち! ねこぱんち!

:殴る蹴るなどの暴行!

:相変わらずひっでえ絵面だ……

:きぐるみで中和しきれないほどの生々しい暴力映像

:(・w・)もんくある?

:(・w・)いいたいことがあるならいえよ

:ひえっ

:なんでも……ないです……

:あれ、今の風研ぎどうやって発動した?

風をまとった拳を連続で叩き込むと、そのたびにジャイアントデスワームの巨体がぶるんぶるんともだえる。

マウントポジションを取って、反撃を許さない勢いでぼこぼこにしていたら、やつは身を捩らせて強引に砂の中へと潜っていった。

そのまま、ワームの気配が遠ざかっていく。

ちょっとやり返されると尻尾巻いて逃げ出す臆病な性格も、この魔物がアイドルと呼ばれるゆえんってやつだった。

戦闘終了。追撃の必要はないだろう。あとは救助すればおしまいだ。

後ろで見ていた探索者たちに手を差し出す。もう大丈夫だよ、という意図を込めて。

「にゃ」

:(・w・)つぎはおまえだ

:(・w・)おまえたちも、ぼこぼこにしてやる

:(・w・)にげられるとおもうなよ

:絶対違うんだけどそうにしか見えない

:あの、ねこさん、返り血まみれの手を向けるのは脅迫かもしれないっす

彼らは引きつった顔で私を見ていた。

……え、なんで?