軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「おめでとう、君は合格だ」

#?? ゆめ

夢を見ていた。

きっとこれは、夢を見ていた。

真っ白な空間に私はいた。上下の別はなく、ただ白いだけの空間がどこまでも広がっていた。

そこに、純黒の石があった。

石がどくりと脈動すると、白い空間に黒が滲む。その度に、心臓のあたりがずきずきと痛んだ。

あれは、ルリリスの――。

違う。

私の、魔力核だ。

どれほど抑えようとしても石は脈動をやめない。そのたびに黒は溶け出して、白い空間を侵食する。

私という生き物が作り変わる。幼虫からサナギへ。サナギから蝶へと羽化するように。

それは、とてつもない苦痛をともなっていて。

とめどない激痛が体を焼く。私はそれを、うずくまって耐えていた。

「やあ、こんにちは」

気づけばそこに、少年がいた。

不思議な少年だった。髪は白く、目が赤い。それくらいしかわからない。

ピントがボケたように、彼の姿はうっすらとしか認識できなかった。

「力を求めるのは人の性だ。それなら、身に余る力を求めるのは人の業だね」

少年は言う。

穏やかに、微笑みながら。しかしその赤い瞳の奥底には、底しれぬ深淵を感じさせた。

「それでも君は力を求めた。そういった渇望は、僕たちにとって最も慣れ親しんだものだ」

曖昧な夢の中、少年の言葉だけが明瞭に響く。

苦痛に身を焼かれながらも、彼の言葉は不思議なくらいに頭にすっと入ってきた。

「僕たちは誰だって、譲れない何かのために、身を滅ぼすほどの力に手を伸ばさずにはいられなかった。そしてどうやら、君はそんな僕らの同類らしい」

悪友を慰めるような、同情混じりの言葉。

口調は優しい。その言葉が意味するところとは反対に。

「この先君が、何を望み、何を求め、何を得るかは君の自由だ。だけどもし、君がさらなる力を求めるのなら、その時は微力ながら手を貸そう。こんな風にね」

少年は手をかざし、すっと、空を掴むような仕草をする。

その瞬間、力の奔流が収束する。空間に滲み出した黒が、逆再生のように魔力核へと戻っていく。

魔力核は脈動をやめる。苦痛が消え、荒い息を吐きながら、私はゆっくり立ち上がった。

彼は……。この少年は、一体、誰なのだろう。

「君のファンだよ」

口にした覚えはない。しかし彼は、思考を読んだように答えた。

「と言っても、それじゃ不足か……。そうだね。なら、こうしよう」

少年は楽しげに、口元を緩ませる。

「それじゃあ、見せてもらおうか。君には期待しているよ」

どこかで。

どこかで、その言葉を、聞いた覚えがあるような気がした。

「名称としては不足だね。僕なら“迷宮喰らい”と名付けるかな」

「呪い禍つ外なる獣。あれは迷宮の天敵だ」

「僕もおすすめしないかな。今の君が挑んだって、勝つのは難しいだろう」

「焦ることはない。君たちが魔力に出会って、まだほんの十五年しか経っていないんだから」

「その力は特異なものだ。君が思っている以上にね」

どこで聞いたのかはわからない。

だけどその声は、ずっと聞こえていた。

「話せることを話そうか。少しでも後悔しないために」

「考えたところで結果は変わらない。遅かれ早かれ、君は決断を下すだろう」

「爪牙は念入りに研ぐといいよ。すぐに必要になるからね」

「眩むこともある。踊ることもある。大事なのは、そこにどんな意味を見出すかじゃないかな」

リスナーたちのコメントか。あるいはキャンプ場の雑踏か。

どことも知れない場所で、私はその言葉を無意識の内に聞いていた。

「人の営みは愛おしい。中には理解に苦しむものもあるけれど」

「時が満ちれば幕は上がる。後悔があろうと、なかろうと」

「わかっていただろう。賽はとっくに投げられたんだ」

「君が選んだのは茨の道だ。僕としてもおすすめしない。歓迎はするけどね」

楽しそうに。

「おめでとう、君は合格だ」

彼は言う。

「君は資格を示した。迷宮の果てまで来るといい。もしも君が望むなら、僕らは君を迎えよう」

気づけばここに、たくさんの人がいた。

男がいた。女がいた。老人がいて、子どもがいた。

そのほとんどは少年と同じように、姿形がよくわからなかったけれど、誰もが恐ろしいほどの力を持っていた。

「僕たちは“英雄”。願いのために身を焼いた、大馬鹿者の集まりさ」

英雄という言葉には、特別な意味がある。

それは華やかで、きらびやかで、燦然と輝いていて。そして、固く封じられた禁忌でもあって。

「白石楓。君は、英雄になるだろう」

少年は告げる。

祝福か、あるいは呪いか。

その言葉が意味するものを、私はまだ知らなかった。