軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

彼女と彼女の後日談

#24-EX 【入院中】さすがに今は話しかけられなくたっていいだろ【七瀬杏】

致し方ない事情があった。

本来ならば配信をしているような状況ではないことはわかっている。だがしかし、私には如何ともしがたい事情があった。

私としても苦渋の決断だ。他に選択肢があれば、こんなことは絶対にしない。

しかし、やむにやまれぬ事情に押され、こうして配信をつけるに至ったのだ。

:七瀬お前マジか

:なんで配信つけた?

:おとなしくしとけよお前

:え、ここどこ? 病院?

:病院配信とかはじめて見たわ

「暇なんだよ」

暇なのだ。

溶けるほどに暇だった。これ以上なく退屈を持て余していた。

私は昨日までキャンプ場にいて、不特定多数の人たちと一緒に賑やかな日々を過ごしていたはずなのに、今はこうして一人で病室に寝かされている。

この動から静への急激な転換は、私の心になんとも言えない郷愁を呼び起こした。

人はそれを、キャンプロスと呼ぶ。

:いやお前、暇だからって病院で配信つけるやついるかぁ?

:怪我人なんだから大人しく寝てろ

:防衛戦終わったと思ったら急にぶっ倒れやがってよぉ

:あの時七瀬ってなんで倒れたの?

:魔力中毒だよ

:山田から魔力もらいすぎて、キャパオーバーしたの

:アホだ……

「ほっとけ」

あの時。山田が持つ魔力のほとんどを受け取ったせいで、魔力中毒になってしまったのだ。

回復魔法を維持するにはああするしかなかったのだけど、今思えばかなりの無茶をした。その代償にしっかり中毒になって、こうして入院させられている。

今でこそ落ち着いたけど、倒れる寸前は気持ち悪くて死にそうだった。あんな無茶、二度とするか。

:まあお前はよく頑張ったよ七瀬

:なんだかんだ防衛戦のMVPだもんな

:表彰されてたよ七瀬、おめでとう

「え、なにそれ。何の話?」

:撤収した後、防衛戦の打ち上げしてたんよ

:MVPなのに不在だったの、最高に七瀬って感じだ

:集合写真の右上に七瀬の顔入れてもらってたよ

:卒業写真の欠席者みたいになってた

「すっげえ嫌だ……」

めちゃくちゃ悪目立ちするじゃん……。

しかも私、キャンプ場では浮いてた方だし。あんまり関係値のない人たちに気を使われるなんて、私みたいな日陰者にとってはほとんど罰ゲームだ。

:でも、七瀬だけが欠席者じゃないし

:白石さんも右上枠だったからね

:よかったな七瀬、白石さんの隣やぞ

「あ、そうなの? 白石さんもいなかったんだ」

:あの人も即入院コースだったからなぁ……

:呪禍戦、相当の激闘だったらしいよ

:それでもきっちり勝って帰ってきたあたりはさすがだけど

:たぶん今ごろ七瀬と同じ病院にいるんじゃない?

「へー、あの人がここに……」

不謹慎だけど、ちょっと嬉しかった。

少しだけあの人に近づけたような、そんな気がして。

:七瀬こいつ……

:なに喜んでんねん

:憧れのあの人と一緒に入院して喜ぶの、ファンとしては相当気持ち悪いぞ

:お前それでいいんか?

「ほっとけ!」

ちょっと油断したら、しっかり見透かされた。

あまりにも暇すぎて配信をつけたが、こいつらの相手をするのは疲れる。もし他に一つでも暇つぶしがあれば、絶対にこんなことはしなかった。

まあ……。前ほど嫌ってわけじゃ、ないかもしれないけど。

「ま、そんな感じか……。あの後は無事に終わったの? 特に事件とかなかった?」

:何事もなかったよ

:蒼灯さんが撤収命令出して、みんなでお片付けしておしまい

:怪我人はちょいちょい出てたけど、死者はゼロだってさ

:結果的には無事に終われてよかったねって感じ

「そっか……」

ベッドのリクライニングに背中を預ける。

大変だったけど、誰も死んでいないらしい。そのことに、頑張ってよかったと思える私がいた。

人を助けるために頑張った。だから、人を助けられて嬉しく思った。

そんな当たり前のことに、なんだか妙な手応えがあって。

:つか七瀬、なんで配信つけたん?

:情報収集なら調べりゃいいじゃん

:もしかしてそんなに俺らに会いたかった?

:七瀬お前、本当は俺らのこと好きでしょ

「ちゃうわ。ガチで暇なんだよ」

キャンプロスもあるけれど、本当に暇で暇で仕方ないのだ。

情報社会に生きる現代っ子として、インターネットから断絶されたこの空間の虚無は耐え難い。入院したのは昨日だけど、できることならさっさと退院してしまいたかった。

近くに親族がいれば、何か暇つぶしになるものでも持ってきてもらうんだけど、あいにくそんなあてもなく。

「はー……。せめて私用のスマホがあれば、適当にソシャゲでもするんだけどなぁ」

迷宮ではしょっちゅう物が壊れるから、私用のスマホを持っていったりはしなかった。手元にあるのは、探索者に支給される頑丈な配信用スマートフォンだけだ。

今思えば、迷宮泊するなら持っていくべきだったのかもしれない。

:スマホないんだ

:まあ、迷宮から病院に直行だったしな

:配信用のスマホでやればいいじゃん

:それ社用スマホでゲームするようなもんだぞ

:え、やっちゃダメなの?

:マジかこいつ

:猛者もいます

:七瀬ってなんのゲームすんの?

「音ゲーとか好きだったな。結構上手かったよ」

:へー、いいじゃん

:今度音ゲー配信してよ

:おいバカやめろ

:片手でどうやってやるんだよ

:そうだった……

:ごめん七瀬

「いや私、もともと片手派だし。両手使ったことない」

:鬱キャンセル入ったわ

:こいつ変態プレイしてやがる

:その妙な器用さは一体なんなんだよ

:片手でなんでもできる女

:そういやキャンプでもほとんど不自由してなかったなこいつ

とまあ、そんな感じに雑談していたら。

「ちゃーっす。どもー」

ぴしゃっと、病室の扉が開かれた。

山田だった。

大きめのボストンバッグを担いだ山田が、当たり前みたいな顔をして入ってきた。

「色々もってきましたよー。お着替えセットに、洗面用具と歯ブラシ。ウェットティッシュと、爪切りと、あとスマホと充電器。他に必要なものとかあったら言ってくださいね」

「あ、うん。ありが、とう……?」

小物は新品もあるけれど、服とスマホは私の物だ。中には下着も含まれている。一瞬、配信に映りそうになって急いで隠した。

山田はさも当然みたいな顔をしているけれど、まったく身に覚えがなかった。私物を持ってきてほしいなんて、こいつに頼んだ覚えはない。

「山田お前、これをどこで……?」

「七瀬さんの家まで行って取ってきたんですけど」

「鍵は……?」

「ポーチの中から拝借しました」

「……住所は?」

「事情を説明したら、双葉さんが教えてくれました」

「私の許可は……?」

山田はにっこりと微笑んだ。

「今、もらおうかなって」

「こいつ……」

:こっっっっっっっっっっっわ

:事後承諾で草

:やってることほぼストーカーなんだよなぁ

:この女に住所特定されたのあまりにも怖い

:こっそり合鍵とか作られてそう

山田から返してもらった自宅の鍵を握りしめる。

……退院したら、すぐに家の鍵を変えよう。最優先で。

「そんな顔しないでくださいよ。変なことしてないです」

「まあ……。一応、お礼は、言っておくけど」

「はい、どういたしまして」

これ、善意ってことでいいんだよな……?

なんかこいつ、変に協力的だと気持ち悪いんだよな。悪いやつじゃないとは思うんだけど……。