軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

※普通じゃいられない

「なー、すず。らしくねえじゃん。あんなのに手こずるなんて」

隣に座ったルリリスが顔を覗き込む。

今はこの、生意気なのを相手したくないのだけど。

「ちょっとミスっただけですけど」

「魔法はどうした、お得意の氷のやつ。さっき使ってなかったよな?」

「……使えないんですよ」

氷結城。蒼灯すずの十八番でもある、氷属性の大魔法だ。

その場に氷を生成するというシンプルな性能ながら、地形を作ったり、壁を作ったり、相手を凍らせて固めたりと、非常に柔軟な使い方ができる魔法だ。

攻めにも守りにも使える氷結城を軸にして、攻守の隙を埋めながら戦うというのが蒼灯すずのスタイルだった。

しかし今、蒼灯が頼れるのは剣だけだ。この状況で氷結城は使えない。

「シリンダーの同時制御は難易度が高いんです。特に氷結城は、扱いが難しい魔法ですから」

「ふーん? 見してみ?」

ルリリスに氷結城のシリンダーを渡す。彼女はそれをしげしげと観察しはじめた。

氷結城は柔軟な魔法だが、その分制御には精密なコントロールが求められる。

蒼灯はすでに氷霜降を展開している。それと並行して使うとなると、今の蒼灯では技量が追いつかない。

「お前な。それくらい、戦う前からわかるだろう」

ルリリスの反対に井口が座る。

「わかってますよ。だから剣だけで頑張ってたんじゃないですか。それで失敗しました、私が悪かったです。これでいいですか」

「違う。そんな状態で無理したら、ミスが起きるのは当然だ。ハンデがあるなら無理せず下がれ」

「…………」

:ド正論パンチ入った

:いくらあおひーでも、氷結城なしじゃさすがになぁ

:まだ四層探索者になったばかりだし……

蒼灯すずには不得手なものがある。純粋な戦闘力だ。

戦闘力で四層まで上がってきた探索者と比べれば、蒼灯は戦闘面で遅れを取る。

ましてや今は主力魔法が使えない。遅れを取るのも、当然と言えば当然だ。

「お前にはお前の仕事があるだろう。戦闘はこっちに任せればいい。戦うことで張り合ってどうするんだ」

「……張り合わなきゃ、いけないじゃないですか」

普通に考えればそうするのが正解だ。

そんなことは、蒼灯だってわかっているけれど。

「そうでもしなきゃ、あの人には一生追いつけない」

「蒼灯、お前……」

井口の言葉を遮って、インカムから通信が入る。

「わかるよ。無茶したくなる時だってあるよね」

「七瀬さん……?」

七瀬は言う。

「そう簡単には引き下がれない。お利口さんの理屈じゃ納得できない。その衝動は、私にも覚えがあるから」

「七瀬さん、あなた……」

「でも、理想を掲げたら何やってもいいってわけじゃない」

「……結構、毒舌ですね」

「ごめん、こっちが素。猫かぶってた」

七瀬は悪びれることなく続ける。

「一度ついた火って消えないんだ。焼き尽くすか、燃え尽きるか、結末はその二つに一つ。だから、井口さん」

「わかってるさ。元よりそのつもりだ」

井口は蒼灯の肩を叩く。

「好きにやれ。ただし死ぬなよ」

「いいんですか?」

「いい。死にさえしなければ、後のことはなんとかしてやる」

つくづく、ずるい人だ。普段は頼りにならないくせに、こういう時だけはどうしてこうも心強いのだろう。

その一方で、七瀬は独り言のように話していた。

「山田、あれ準備しといて。――うん、たぶん必要になる。――わかってる、今回は中毒にならないようにするから。――お前なあ、ちょっとは信じろよ」

こちらに声をかけている様子ではない。テントで誰かと話しているのだろうか。

「七瀬さん……?」

「……あ、気にしないで。こっちも奥の手あるから、好きにやってもらって大丈夫」

「何をするつもりか知りませんが、本当に大丈夫ですか?」

「多分。これやると、真堂さんが苦い顔すること以外は」

「怒られたら、私も謝りに行きますよ」

「ありがとう……。あの人、怒らせるとほんとに怖いから」

奥の手というのは、山田林檎の誓約魔法だ。

以前使った時は、魔力の過剰供給により魔力中毒に陥ってしまった。切り札となりうる反面、扱いを間違えれば身を削る一手である。

「お前らがなんのこと話してんのか、よくわかんねーけど」

インカムの会話を聞いていないルリリスは、人ごとのように作業を続ける。

彼女の手にあるのは、氷結城のシリンダー。いつの間にか手にしていた羽ペンで、その表面にカリカリとなにかを刻んでいた。

「がんばるだけが答えじゃないだろ。技術でなんとかなるってのも、よくある話さ」

最後に一筆刻み込んで、ルリリスはシリンダーを蒼灯に投げ渡す。

手元に戻ってきたシリンダーには、見たことのない紋様が刻まれていた。

「これ……。改良したんですか?」

「ああ、よく使うパターンを記憶する回路をつけてやった。これなら同時使用も楽になんだろ」

「ありがとう、ございます……?」

「そんなんじゃねえって。非効率な術式見てっとイラっとすんだよ」

:相変わらずツンデレしてんなこの魔物……

:普段はあんなにツンツンしてんのにさぁ

:こういう時ばっかり仕事するんだから

:#ルリリス配信しろ

突っ返されたシリンダーは、ルリリスなりの気遣いだ。それを大事にポーチにしまって、蒼灯は呟く。

「……まったく。どいつもこいつも」

情けない姿を見せてしまった。

この遺跡に来てから、蒼灯はずっと焦っている。白石さんに追いつくために、らしくないこともしたし、無茶もした。

だけど、たぶん、それでいい。

失敗したっていいんだ。蒼灯には、なんとかしてくれる仲間がいるから。

「井口。ルリリス。七瀬さん」

「うむ」

「あ?」

「はい」

「今さらなこと言います。ぶっちゃけ、白石さん、助けとかいりません」

:あ

:えっ

:ちょっとあの蒼灯さん?

:誰もが思いつつ言わなかったことを

:実際どうなんですか二窓の民

:いやまあ、難しいところですよね

:半分デートだよね、向こう

白石楓の詳しい状況を蒼灯は知らない。七瀬を通じて、時折断片的な情報が流れてくるだけだ。

それでも、こんな遺跡に負けるような人ではないことはよく知っている。

「あの人はたぶん、助けなんて求めてもいないでしょう。だけど私は、あの人を一人にさせたくない」

白石楓に、誰かに助けてもらうなんて考えはない。

人の助けを必要としないくらい、あの人は隔絶してしまっている。きっと、誰かに助けられた経験なんてないのだろう。

「だから無茶します。そのためだけに無茶します。ので、私のエゴに付き合ってください」

だから今日が、その最初の一つ目だ。

たとえそれがエゴだとしても、配信者ってのは、自分がやりたいことをやるものだから。

「面白けりゃいーよ」

「好きにしろ。お前の行くところに私も行く」

ルリリスと井口はそれぞれに答え、七瀬もそれに続く。

「最初からそのつもり。……だけど、一つ共有したいことがある」

七瀬は蒼灯のドローンを介して、空間に地図を投影する。

映し出されたそれは、白石楓が発見した遺跡の地図を統合したものだ。この遺跡の全景から内部構造まで詳細に記された、最新の地図になる。

「あの人は今、遺跡の中心部に向かってる。きっと道のりも険しくなると思う。その覚悟はしておいて」

「上等です。中心だろうとなんだろうと――」

「あ? なんだこりゃ」

投影された地図を眺めながら、ルリリスが首を傾げた。

「この遺跡、でけえ太陽炉じゃねえか」