作品タイトル不明
ヤマタニ、蛮族を討つ
第36話 ヤマタニ、蛮族を討つ
アルバートは、何とか監禁部屋から脱出しようともがいていた。
だが、扉の外には見張り。
力ずくでは突破できない。
焦燥が胸を焼く。
――このままでは終われない。
その時だった。
天井板がわずかに軋み、屋根裏から人影が現れる。
「アルバート様、ここから脱出できます。」
部下だった。
差し出された手を、アルバートは迷わず掴む。
机と椅子を積み上げ、必死によじ登る。
指先に力を込め、天井裏へと身を滑り込ませた。
そして――脱出。
外気を吸い込んだ瞬間、胸の奥に溜まっていたものが一気に解放される。
「……行くぞ。」
短く、それだけ言った。
アルバートは兵を集めると、すぐさま動いた。
狙うは――敵後方補給部隊。
戦の流れを断つ、最も重要な一手だ。
◆
「ヤマタニだと?」
リチャードは報告に眉をひそめた。
「トラックやバスを作った、あの成り上がり貴族か。」
だが、続く報告に目の色が変わる。
「鉄の馬車で、難攻不落の砦を落としたとの噂も。」
沈黙。
そして、口元がわずかに歪む。
「……面白い。」
リチャードは馬首を巡らせた。
「その男と組む。砦を奪還するぞ。」
辺境伯軍は進軍を開始した。
◆
数時間後。
ヤマタニ率いる部隊は、南西の砦手前に到着していた。
装甲車のバッテリーを交換し、増援を待つ。
だが――
「待っている間に、砦を見に行くか。」
ヤマタニが言った。
「危険です。増援を待つべきです。」
カミルが即座に制止する。
「様子を見るだけだ。危なくなれば逃げる。」
軽い調子だった。
だがその目は、すでに戦場を測っている。
結局、一行は同行することになる。
数キロ先。
砦は静かに佇んでいた。
「……あれか。」
ヤマタニは目を細める。
「規模は小さいな。」
「ですが、ここが落ちたことでブエナまで被害が……。」
カミルの言葉を、ヤマタニは途中で切った。
「なら、終わらせる。」
一言だった。
余計な感情はない。
ただ――効率。
彼の頭の中には、戦後の仕事が山積みになっていた。
ブエナ、サンブレロ、鉱山、工場――
「時間がもったいない。」
その一言で、すべてが決まった。
「片付けるぞ。」
ヤマタニは装甲車へ乗り込む。
カミルは一瞬ためらい――すぐに続いた。
◆
「司令官!敵の馬車が三台!」
「三台?」
蛮族司令官は鼻で笑った。
「放っておけ。」
――その判断が、すべてを終わらせた。
次の瞬間。
「シュルルルルルル――!」
異音が空を裂いた。
「何だ!?」
空から降ってきたのは――火。
ロケット弾だった。
「ドカァァァン!!」
砦が揺れる。
建屋が吹き飛び、兵が宙を舞う。
続けざまに、第二射、第三射。
「櫓が――!」
「詰所がやられた!」
爆炎と衝撃が、砦を蹂躙する。
逃げ惑う兵たちに、容赦はなかった。
「逃げろォォォ!!」
だが――遅い。
「ドッカァァァン!!」
炎が広がり、油に引火する。
黒煙が空を覆った。
砦は、もはや戦場ではない。
ただの――燃える瓦礫だった。
◆
「終わったな。」
ヤマタニは淡々と言った。
まるで作業を終えたかのように。
「……砦を破壊してしまいましたが。」
カミルが言う。
「問題ない。」
即答だった。
「味方の損害はゼロだ。それが最善だ。」
合理。
それがヤマタニの戦だった。
◆
その頃。
リチャードは、遠くに立ち上る黒煙を見ていた。
「……もう始まっているのか!」
馬を蹴り、全速で駆ける。
だが――
視界に入った光景は、予想と違っていた。
砦から逃げ出す敵兵。
そして――
静かに佇む三台の“鉄の馬車”。
「……まさか。」
リチャードは呟いた。
合流。
ヤマタニは警戒の目を向ける。
「辺境伯軍か?」
「そうだ。リチャードだ。」
馬を降り、名乗る。
「援軍は?」
リチャードは問う。
その数の少なさが信じられなかった。
「遅いから、先に終わらせた。」
あまりにも、あっさりと。
「……この数で?」
「まあな。」
言葉が出ない。
リチャードは装甲車を見つめた。
これが――噂の。
「鉄の馬車……。」
その時。
ようやく、二千の援軍が到着する。
だが――
戦いは、すでに終わっていた。
◆
一方。
アルバートは荒野を駆けていた。
補給部隊を探して。
だが、見つからない。
苛立ちを押し殺し、偵察を放つ。
そして――
「発見しました!護衛は約二百!」
その報告に、アルバートの目が鋭く光る。
「好機だ。」
迷いはなかった。
「突撃!」
「おおおおっ!!」
アルバート隊が突っ込む。
敵は応戦する。
だが――数が違う。
押し潰すように、敵は倒れていく。
護衛が崩れた瞬間、勝負は決した。
補給部隊は潰走。
アルバートは、初勝利を掴んだ。
だが――
「……軽いな。」
実感がなかった。
相手は補給部隊。
戦場の中心ではない。
その時。
一つの木箱が目に入る。
刻まれていたのは――帝国の紋章。
「……帝国?」
空気が変わる。
ただの蛮族討伐ではない。
戦の裏に、別の意志がある。
アルバートの頬を汗が伝った。
「全て運べ。本城へ。」
声が低くなる。
そして――
「まだいるはずだ。探せ。」
彼は止まらない。
勝利の先を、見据え始めていた。
◆
だがその頃。
蛮族本隊は――
山脈登山口にて、静かに布陣していた。
嵐の前の静寂のままに……。