軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

規模拡大

第18話 規模拡大

人は、増えていた。

浮浪者として出会い、食事と引き換えに働き始めた者たち。 その数は、いつの間にか八名にまで増えていた。

店舗に立つ者、警備に回る者、料理を担当する者、そして工場で働く者――。 役割はそれぞれ違うが、確実に「組織」として形になり始めている。

ヤマタニは工場の一角に立ち、忙しく動く彼らの姿を眺めた。

(最初は、ただ生き延びるためだったが……。)

今は違う。

これはもう「商売」だ。 そして、小さいながらも「経営」だった。

―――――

敷地内では、炊き出しを行っている。

大きな鍋で煮込まれたスープの香りが漂い、空腹を抱えた浮浪者たちが自然と集まってくる。

「並べ、順番だ。」

従業員の一人が声を張る。

食事は無償ではない。 その代わり、簡単な仕事を手伝ってもらう。

清掃、荷運び、廃材の分別――。 どれも大した技術はいらないが、確実に必要な仕事だった。

鉄屑の処理や運搬も重要な役割の一つだ。 これまで放置されていたような資源も、今では貴重な材料となる。

「ちゃんとやれば、ちゃんと食わせる。」

ヤマタニの方針は単純だった。

そして、それは確実に機能していた。

十分な食事を与えられれば、彼らは驚くほど真面目に働く。 むしろ、必死だった。

(生きるため、か……。)

その姿を見て、ヤマタニはかつての自分を思い出す。

会社を失い、何もかもが崩れたあの日。 あのときの焦燥と絶望は、今でも消えてはいない。

だからこそ、分かる。

人は、追い詰められたときほど、必死に動く。

―――――

特に目を引くのは、子供たちだった。

やせ細り、力もない。 それでも、生きようとしている。

ヤマタニは彼らを優先した。

「子供から食わせろ。」

大人たちの不満が出ないわけではない。 だが、食事の量をしっかり確保することで、大きな混乱にはならなかった。

子供たちには無理をさせない。

軽い作業だけを任せ、徐々に体力を戻させる。 焦る必要はない。

「使い潰す気はない。」

そう言い切れるだけの余裕が、今のヤマタニにはあった。

―――――

しかし、問題もあった。

人が増えたことで、管理の手間が一気に増したのだ。

毎回、街に出て浮浪者の子供たちを探し、声をかけ、連れてくる――。 このやり方は、あまりにも非効率だった。

(集める仕組みが必要だな。)

そう考えたヤマタニは、すぐに行動に移す。

目を付けたのは、工場近くの空き地だった。

「ここに建てるか……。」

簡素でいい。 雨風をしのげて、寝られる場所があれば十分だ。

そうして決まったのが――孤児院の建設だった。

―――――

木材を集め、最低限の資材で建物を組み上げていく。

立派な施設ではない。 だが、路上で眠るよりははるかにマシだ。

完成した建物に、子供たちを住まわせる。

最初は警戒していた彼らも、温かい食事と寝床を与えられるうちに、徐々に表情を緩めていった。

「ここが、お前たちの家だ。」

ヤマタニの言葉に、何人かの子供が小さく頷く。

――それだけで、十分だった。

―――――

孤児院では、ただ保護するだけではない。

〈働くこと〉を教える場でもあった。

畑を耕し、作物を育てる。 鶏の世話をし、卵を回収する。 掃除や雑用も含め、生活の一部として仕事を組み込む。

「食うだけじゃ、生きてはいけない。」

厳しい言葉だが、それが現実だった。

だが同時に、ヤマタニは知っている。

「働けば、生きられる。」

それもまた事実だ。

だからこそ、教える。

生きる術を。

―――――

もちろん、順風満帆というわけではない。

人が増えれば、食費も増える。 資材も必要になる。 建物の維持にも金がかかる。

資金繰りは、常に綱渡りだった。

帳簿を見れば、余裕などほとんどない。 一歩間違えれば、すぐに赤字へ転落する。

それでも――

ヤマタニは動じなかった。

「また稼げばいい。」

それだけだった。

根拠があるわけではない。 だが、これまで何度も乗り越えてきた。

売れる商品を作り、売る。 利益を出し、回す。

やることは変わらない。

ならば、進むだけだ。

―――――

工場では、今日もロウソクが作られている。

石鹸の香りが漂い、作業の音が響く。

孤児院では、子供たちが畑に水をやり、鶏を追いかけている。

敷地のあちこちに、人の営みがあった。

それは、ほんの少し前まで存在しなかった光景だ。

(広がってきたな……。)

ヤマタニは静かに目を細める。

規模はまだ小さい。 だが、確実に拡大している。

人が増え、仕事が増え、場所が増える。

それは同時に――責任が増えるということでもある。

背負うものは、確実に重くなっていた。

だが、不思議と嫌ではなかった。

むしろ――

「面白くなってきた。」

ぽつりと呟く。

その目は、すでに次を見ていた。

どこまで広げられるか。 どこまで登れるか。

答えはまだ分からない。

だが一つだけ、確かなことがある。

この場所は、もうただの生存の場ではない。

〈成り上がり〉の拠点になりつつあった。