作品タイトル不明
新しい領地と最初の違和感
第28話 新しい領地と最初の違和感
子爵となったヤマタニに、新たな領地が与えられた。
西の街道を進んだ先にある――ブエナの街。
サンブレロからおよそ二十から三十キロ。
徒歩なら一日。だが今回は違う。
「時間が惜しい。装甲車で行く。」
ヤマタニの一声で、視察隊は即座に編成された。
装甲車にはヤマタニ、トミー、ハチ、ヒラリー、ケイト。
後続にはトラック三台――兵士と物資を満載している。
エンジンが唸り、鉄の塊が街道を走り出した。
本来なら危険な西街道。
魔物と盗賊が頻発するこの道は、ヤマタニの悩みの種だった。
――だが。
「来たぞ、オーガだ!」
二体の巨躯が道を塞ぐ。
しかし次の瞬間。
ドドドドドッ!!
機関砲が火を吹き、オーガは肉片となって地に沈んだ。
「……やはり、力は正義だな。」
誰かが呟いた。
徒歩なら命がけの道も、今はただの通過点に過ぎない。
道中、すれ違う商人や旅人たちは、鉄の車列を見て言葉を失っていた。
「まだ珍しい存在なんでしょうね。」
ヒラリーが小さく笑う。
「バスでも走らせたら儲かるかもしれんな……。」
ヤマタニはすでに次の金の匂いを嗅いでいた。
やがて視界が開ける。
黄金色に揺れる小麦畑――
その先に、ブエナの街が見えてきた。
「ソンナ村とは大違いですわね。」
「ですが、この車……景色が見づらいです。」
ケイトが不満げに覗き窓を叩く。
「安全第一だ。すぐ着く。」
ヤマタニは意に介さない。
外壁に到着すると、既に兵が配置されていた。
「増員兵を連れてきた。隊長に伝えろ。」
「了解であります!」
敬礼とともに門が開かれる。
ヤマタニは車を降り、街へと足を踏み入れた。
――第一印象。
「……普通、だな。」
悪くもない。良くもない。
だが、妙に“整いすぎている”。
違和感が、ほんのわずかに胸に引っかかった。
「町長の家はこちらです。」
ヒラリーの案内で、一行は街の中心へ向かう。
やがて一等地に構えられた屋敷。
騒ぎを聞きつけた町長が飛び出してきた。
「これはこれはヤマタニ子爵様! ご機嫌麗しゅう――。」
過剰な笑顔。過剰な所作。
「……その態度、やめろ。普通に話せ。」
空気が一瞬で冷える。
「は、はい……失礼しました。」
「帳簿を見せろ。穀物のだ。」
「すぐに。」
町長――ハイタは慌てて家へ戻り、帳簿を持ってきた。
ヤマタニはそれを受け取り、ページをめくる。
そして――止まった。
「……合っていないな。」
数字の辻褄が、微妙にズレている。
問い詰めると、ハイタは答えた。
「魔物や虫の被害で……廃棄が多く……。」
ヤマタニは何も言わず、ケイトに帳簿を渡す。
「……廃棄、多すぎますね。」
静かな指摘。
「ネズミ魔物が増えておりまして……。」
「なら、ちょうどいい。」
ヤマタニは口元を歪めた。
「優秀な退治人を知っている。」
ヒラリーに視線を送る。
「冒険者アルに依頼を出せ。ネズミ狩りだ。」
「承知しました。」
一つ目の問題は、即処理する。
だが――
「他には?」
ヤマタニの問いに、ハイタは少しだけ言葉を濁した。
「……蛮族が、時折。」
「蛮族?」
「穀物、家畜……商人も襲われます。」
「ほう……。」
ヤマタニの目が細くなる。
街道も危険。
街も安全ではない。
そして帳簿の不審。
(偶然にしては、出来すぎだな。)
「ミランド。」
「はい。」
「この街の防衛、任せる。兵は足りんが、回せ。」
「了解です。」
矢継ぎ早に指示を出す。
だがヤマタニの思考は、別の一点に向いていた。
――帳簿のズレ。
――過剰な廃棄。
――妙に従順な町長。
「……なぁハイタ。」
「は、はい?」
「そのネズミ、本当に“ネズミ”だけか?」
一瞬。
町長の顔が、ほんのわずかに強張った。
ヤマタニは見逃さなかった。
(当たりか。)
この街は――
ただの豊かな農業都市ではない。
何かが、隠れている。