作品タイトル不明
冒険者アル、失業する②
第16話 冒険者アル、失業する②
ネズミ魔物の討伐依頼が終わり、穀物庫の見張りの仕事もなくなった。
ようやく次の依頼を見つけたと思えば、ヤマタニの紹介状で回されたのは、街の汚水場に棲みつくワーム魔物の討伐だった。
だが、それも順調にはいかなかった。
汚水の中に潜む魔物は姿が見えず、浄化用のスライムを餌にして釣り上げようとしても、とんでもない力で引きずり込まれ、何度も逃げられてしまったのだ。
途方に暮れたアルとコネリーは、再びヤマタニの事務所を訪れていた。
「なぁ、ヤマタニのおっちゃんよ。」
アルが疲れた顔で机に身を乗り出す。
「紹介状で受けた汚水場のワーム魔物、あれが全然うまくいかねぇんだ。」
ヤマタニは椅子にもたれ、ふむ、と顎に手を当てた。
「ほぉ~。汚水場か。そんな変な魔物がいるんだな。」
「そうなんだよ。浄化役のスライムを餌にして釣ってみたんだけど、すげぇ力で引っ張られて、全部バラしちまった。」
「なるほどな。」
ヤマタニは少し考えてから頷いた。
「水の中じゃ、相手のほうが有利だ。水中ではワームに一日の長があるな。」
「だよなぁ……。」
肩を落とすアルに、ヤマタニはにやりと笑った。
「だったら、水面まで引きずり出して倒せばいい。」
そう言って机の引き出しを開け、一丁の見慣れない武器を取り出した。
細長い銃身に、先端には鋭い銛のような矢が装填されている。
「水中銃だ。」
ヤマタニはそれをアルに差し出した。
「汚水場は街のみんなのために必要不可欠な施設だ。ここが止まれば大騒ぎになる。だからこれを貸してやる。しっかり頼むぞ!」
アルは目を輝かせながら受け取った。
「ありがとう、おっちゃん!」
「頑張れよ!」
二人は深く頭を下げ、事務所を後にした。
帰り道。
夕暮れの街道を歩きながら、コネリーが口を開く。
「とは言ってもよ、アル。今度はどうやる?」
「うーん……。」
アルは水中銃を見つめながら唸った。
「水の中は汚すぎて何も見えねぇ。これを使うにも、相手を水面まで上げなきゃ意味がない。」
コネリーは少し考え、ぽんと手を打った。
「お得意の罠はどうだ?」
「罠か……。」
アルの目が少し鋭くなる。
「釣りじゃ力負けする。なら、最初から水中に戻れないように吊り上げちまえばいい。」
「空中に餌をぶら下げるってことか?」
「そうだ。食いついた瞬間に持ち上げる。俺たちはその間に攻撃する。」
コネリーはにやりと笑った。
「それはいいな。」
こうして二人は準備に取りかかった。
製材所で不要になった材木を譲ってもらい、大工のショーンから番線を借りる。
漁師からは丈夫な網を譲ってもらい、工場からは太いロープを借りた。
だが、材料を運ぶだけでも一苦労だった。
特に丸太は重く、二人で持ち上げてもほとんど進まない。
「ぐっ……重てぇ……!」
「お、おいアル! 落とすなよ!」
結局、工場から荷車まで借りてきて、ようやく汚水場まで運び込むことができた。
その時点で二人はすでに汗だくだった。
「まだ戦ってもいねぇのに、もうヘトヘトだ……。」
アルが肩で息をする。
「失業中の冒険者ってのも、楽じゃねぇな……。」
コネリーも苦笑した。
二人は丸太を組み上げ、簡易的な櫓を作った。
番線でしっかり固定し、網の中に餌用のスライムを入れる。
さらに巨大な釣り針をつけ、太いロープで櫓の上から吊るした。
「俺は弓に慣れてる。アル、お前は水中銃を使え。」
「分かった。」
こうして、ワーム攻略の準備は整った。
二人は息を潜め、水面を見つめる。
だが――
なかなか食いつかない。
時間だけが過ぎていく。
「餌の位置、もう少し下にしたらどうだ?」
アルが囁く。
「そうだな。」
コネリーがロープを少し緩め、餌を水面近くまで下げた。
その直後だった。
ぼこり、と水面が大きく盛り上がる。
次の瞬間――
バシャアアアッ!!
激しい水しぶきとともに、巨大なワームが飛び出した。
ぬめった長い胴体が餌に食らいつく。
「今だ!!」
コネリーの矢が唸りを上げて飛ぶ。
ズブリ、とワームの胴に突き刺さった。
続いてアルが引き金を引く。
水中銃の銛が一直線に飛び、深々と食い込む。
ギャアアアアッ!!
ワームはのたうち回り、汚水と体液を辺り一面に撒き散らした。
当然、アルとコネリーも頭から全身まで浴びる。
「くせえぇぇっ!!」
アルが悲鳴を上げる。
「うおっ、最悪だ!!」
コネリーも顔をしかめながら、再び矢をつがえた。
二本目、三本目と矢が突き刺さる。
最後にアルの銃撃がワームの頭部を貫いた。
巨体が大きく痙攣し――やがて、ぴたりと動きを止めた。
静寂。
「……やったか?」
アルが息を切らしながら呟く。
コネリーが慎重に近づき、頷いた。
「やったようだな。」
アルの顔に笑みが広がる。
「これでやっと報酬もらって帰れるぞ!」
「俺はもう早く水浴びしてぇ……!」
二人は意気揚々と管理室へ向かった。
討伐したワームの死体を見せると、管理人は目を丸くした。
「おおっ……こんな奴が中にいたのか。」
「よくやってくれた!」
アルとコネリーは胸を張る。
だが、次の一言で二人の表情は凍りついた。
「まだ沢山いるから、その調子で頼んだよ!」
「……え?」
「……は?」
二人の顔から血の気が引く。
先ほどまでの達成感は一瞬で吹き飛んだ。
しかも全身から漂う汚水の悪臭は凄まじく、しばらくの間、何を食べても匂いが鼻に残り続けたという――。