作品タイトル不明
閑話 驚きの店
閑話 驚きの店
ある日、ヤマタニが仕事で通りかかると、売り場の方から言い合う声が聞こえてきた。
「だから、熱があるならちゃんと寝てなきゃダメでしょ!」
クレナが売り場の少女ウテナを叱っていた。
「でも……今日は人が少ないですし、あたしが抜けると負担が……。」
「大丈夫。ほかの部署から応援を出してもらうからさ。」
クレナは必死に説得しているが、ウテナは首を横に振る。
どうやら頑固な性格らしい。
それを見かねて、ヤマタニは声をかけた。
「ちょっと君たち。何をそんなに言い合ってるんだ?」
「社長さん。ウテナが熱があるのに店に出るって聞かないんですよ。」
ヤマタニはウテナの額に手を当てる。
「……確かに熱があるな。」
そして、静かに言った。
「ドクターに診てもらってから、帰って休みなさい。」
「でも……。」
「いいから休みなさい。」
「今日は人が少ないから……。」
「社長命令だ。休め。」
強めの一言に、ようやくウテナは折れた。
こうして、ウテナは休むことになった。
――とはいえ、今日は人手が足りない。
助手のトミーは使いで外出中。秘書見習いのレイナも外出している。
仕方なく、ヤマタニが店番をすることになった。
「人が少ないとは聞いていたが……本当に誰もいないんだな。」
開店準備を終え、客を待つ。
だが、しばらくは誰も来なかった。
ヤマタニは仕事道具を持ち込み、店番をしながら自分の仕事を進める。
店番など、こんなものだろう――そう思っていた。
やがて、ぽつぽつと客が来店し始めた。
「あらぁ、今日はウテナちゃんいないの?」
振り向きざまにヤマタニは答える。
「はい。本日は休みです。」
すると女性は、そのまま帰っていった。
「ウテナちゃん呼んできて。」
次の客も同じだった。
「申し訳ありません。本日は休みでして。」
「あら、珍しいわね。どうしたの?」
「熱を出しているようで。風邪でしょう。」
説明すると、納得したように帰っていく。
その後も、来る客来る客、皆ウテナ目当てだった。
(なかなか人気があるんだな、ウテナは……。)
そう思った頃、外が騒がしくなってきた。
「見つかったか?」
「いえ、どこにもいません。」
「事務所や工場は?」
「そこも確認しましたが……。」
誰かを探しているらしい。
ヤマタニは少し顔を出しかけたが、呼び止められた二人は別の方向へ走っていった。
「……誰を探してるんだ?」
首をかしげながら、再び仕事に戻る。
次に来たのは子供だった。
「ウテナ姉ちゃん! 石鹸くれ!」
「今日はウテナは休みだからな。ほら、石鹸だ。」
「ちぇっ……いないのかよ。」
渋々と石鹸を受け取り、帰っていく。
(なるほどな……ウテナがいないと、この店は回らないらしい。)
そう思った矢先――
再び外が騒がしくなる。
「いたか?」
「いや、全然見つかりません!」
「一体どこへ行ったんだ……?」
思わず店先に出た、そのとき。
「あっ! 社長いた!」
どうやら、探されていたのは自分だったらしい。
「この図面なんですが、よく分からなくて……。」
ヤマタニは図面を覗き込む。
「この部分は二次元だと分かりにくいが、※1の注意書きにコメントしてある。」
「あ、本当だ……ありました!」
「失礼いたしました!」
それを皮切りに、次々と問い合わせが舞い込んでくる。
店内は、ウテナ目当ての客と、ヤマタニへの相談者でごった返していった。
そこへ、移民してきた男がロウソクを買いにやって来る。
混雑した店内を見回し、感心したように言った。
「こりゃまた……街が人であふれてるとは思ったが、店までとはな。恐れ入ったわい。」
その様子を眺めながら、ヤマタニは小さく呟いた。
「なるほどな……。」
「この店は、“人”で回ってるのか。」