軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

涼風の発明は世界を変えた

第38話 涼風の発明は世界を変えた

暑さが肌にまとわりつく日だった。

外回りを終えたヤマタニは、重い足取りで事務所に戻る。

「はぁ……やっと戻ったか……。」

「レイナ、冷たい飲み物をくれ。」

秘書見習いのレイナが差し出した冷たいお茶を一気に飲み干し、ヤマタニは椅子に沈み込んだ。

そして、背後に置かれた小さな機械に身体を向ける。

ブゥン――と軽やかな回転音。

次の瞬間、ひんやりとした風が首筋を撫でた。

「……生き返るな。」

思わず本音が漏れる。

「あの……社長さん。」

「その機械は何ですか?」

レイナが不思議そうに覗き込む。

「ああ、これは――ファンだ。風を起こすだけの単純な機械だよ。」

「すごい……涼しいです……!」

レイナは目を輝かせた。

その反応に、ヤマタニの思考が一瞬止まる。

(……待てよろ、)

これまで“自分用”としてしか見ていなかった。

だが――

(これは、売れる。)

「レイナ。」

「すぐに試作品をいくつか用意する。工場と売り場に設置しろ。」

「えっ、販売するんですか?」

「まずは様子見だ」

だがその目は、すでに商人のそれだった。

数日後――。

「社長! 報告です!」

「どうした。」

「売り場に置いたファンですが……。」

レイナは興奮を抑えきれない様子で言った。

「“これを売ってくれ”と問い合わせが殺到しています!」

ヤマタニは静かに立ち上がる。

「……やはりな。」

販売開始初日。

店の前には、これまでにない人だかりができていた。

「本当に涼しいのか!?」

「試させてくれ!」

「うおっ……なんだこの風は!?」

ざわめきが歓声に変わる。

「くれ! いくらだ!」

「俺もだ! 二台買う!」

用意した在庫は――

わずか半日で消えた。

「社長! 在庫がありません!」

「追加生産が追いつきません!」

工場は一気に戦場と化した。

「全ラインをファン生産に回せ。」

「部品の確保を最優先だ。」

ヤマタニの指示が飛ぶ。

その目は、すでに“次”を見ていた。

(家庭用、携帯用……そして――。)

(貴族向けの高級モデルもいけるな。)

その噂は、瞬く間に広がった。

「風を生み出す魔道具があるらしい。」

「暑さを忘れるほどの涼しさだと?」

商人たちがざわめき、

やがて――貴族の耳にも届く。

「その発明、我が屋敷で独占したい。」

「製法ごと買い取る。いくらだ?」

使者が次々と訪れた。

だが。

ヤマタニは、静かに笑った。

「――売らないな。」

「これは“流通させてこそ”意味がある。」

その一言で、場の空気が変わる。

そして、その裏で――

「……面白いものを作ったな。」

薄暗い部屋。

一人の男が報告書を閉じた。

「設計を奪え。職人でもいい。」

「できれば――社長ごと、な。」

静かに下された命令。

影が、動き出す。

ヤマタニはまだ知らない。

この“涼風の発明”が、

巨万の富と――

新たな戦いを呼び込むことを。