作品タイトル不明
キ:囚われきれない自由人
パチもん転移オーブを抜けると……そこは敵対錬金術士のアジトでした。
なんだよー、君達かよー
石壁に囲まれた密室に連れてこられた僕は、あれよあれよと言う間に見知らぬNPCに両脇を固められて、部屋の角を鉄格子で区切っただけの檻に放り込まれた。
「ちょっと! こいつ冒険者じゃない! 使えないわよ!」
「え、マジで!?」
そして今、装備に小瓶がたくさんついているNPC達が、筒とかルーペとかを鉄格子の中にいる僕に向けながら、ギャイギャイ怒鳴りあっている。
あの筒とルーペ見覚えあるなぁ……前に潜入した時に見かけた、確か禁制品の劣化コピーじゃなかったっけ? なんか……相手のステータスとか見えるようなやつ。プレイヤーには効果無いとかなんとか。
「やっぱり先に確認してから連れてくるべきだったのよ!」
「そんな事言っても、白夢草は体を動かすだけで魔道具使ったりは出来ないんだから仕方ないだろ」
情報ボロボロこぼしてるけどいいのかい? 僕、眠らされたりもしてないから、バッチリ聞いてるぞー?
とか思っていたら、ギャイギャイ騒いでいた錬金術士二人組の女性の方が、僕に目を向けて鼻で嗤った。
「そんな澄ました顔してられるのも今のうちよ。その檻は魔法や外とのやりとり、そして【収納】の力も封じるわ。アンタはそこから出られない。二度と日の下へ出られると思わない事ね」
はーい、脱出チャレンジの説明ありがとうございまーす。
二人組は、僕の扱いをどうするか相談しなきゃーみたいな事をぶちぶち言いながら部屋を出ていった。
後に残ったのは僕と……僕をここに連れてきた、目に光が無い黒髪の男性。
この男性は、僕を連れてきてからはひと言も喋らなかった。今も棒立ちのまま、ピクリとも動かない。
……さっきの話から推測すると、操られてる系のヒトなのかなぁ……?
なんて考えていたら、男性は無言のまま動いて、パチもん転移オーブを使いどこかへ消えた。
これで部屋には僕ひとり……じゃないね、攻撃されたら嫌だから被ってる三角帽子の中に隠れてたシロちゃんも一緒。とはいえ、シロちゃんには戦闘力は無い。
「もうしばらく隠れててね」
「ジュリッ」
小声で言えば、シロちゃんは大人しく再び僕の頭の上に戻る。うん、いい子。
さて、今回の僕は別に縛られたりしてないからね。とりあえず鉄格子の扉の鍵チャレンジをしましょうか。
「ネモ」
小声で呼びかけて、僕の手の中に黒い鍵の形で出てきてもらう。
敵対組織に捕まってからの脱出は、前に相棒がムービーに使われてたからね。もしも同じようになった場合に備えて、一応ネモがネモだって分かりにくい方がいいかなって。
だったら変装しようかとも思ったけど……敵対組織に変装前と変装後を結びつけられるのは、さすがに避けた方がいい気がする。普通のNPCと違って黙っててくれる気がしない。
鉄格子の隙間から腕を伸ばして、手に持った鍵の形のネモを手探りで鍵穴に差し込んだ。
ネモがクルリと回り、カシャンと軽い音を立てて解錠。
はい、オッケー。これで檻からは出たから、念話もメッセージもインベントリも使用可能。
……で、だ。
さっきから気になっていた、部屋の半分くらいのスペースに並べられているモノに、僕は目をやる。
そこにはものすごくリアルな石像が4体並べられていた。
どれもこれも、まるで生きてるみたいに精巧で……そしてどれもこれも白詰草っぽい花が載っていた。
特に頭。多分花冠みたいにグルッと花が頭を囲んでいる。そこから花が左右と後ろへ伸びて垂れ下がり、まるでヴェールみたいだった。
ここ、敵対錬金術士のアジトっぽいから……多分これ白夢草なんだろうなぁ……
そしてその石像の中のひとつに、僕は見覚えがあった。
と言っても人肌と石は材質が違いすぎるから雰囲気が変わって見えて、あんまり自信無いんだけど……多分これ、ピリオ東のパン屋の娘さんじゃないかなぁ?
うーん……娘さんはいつも可愛い笑顔だったけど、石像は怖がってるような驚いてるような顔してるから……余計に雰囲気違ってて分かりにくい……
あ、スクショ撮って相棒に送ってみよう。
撮影、からの……システムメッセージっと……まずは念話で状況説明から。
(なんか転移オーブのパチもんみたいなので別の場所に飛んだっぽい。そんで部屋の檻に入れられたー)
(おやおや……危なくなったら呼んで)
(うん。それでさー、この子ってパン屋の娘さんじゃなかったっけ?)
(……パン屋の娘さんっぽいな)
(だよね?)
あってた。
と、なると問題は……コレが悪趣味なストーカーの手による石材製の芸術作品なのか……それとも、石化している本人なのか。
うう〜ん……見るだけじゃわかんないなぁ……そうだ、インベントリに入れてみよ。
……あ、入らないや。つまり本人っぽい!
(相棒! この石像、インベントリに入らない!)
(うん? ……ああ、なるほど? つまり入らないから、パン屋の娘さん本人だってこと?)
(そう! だってこれでインベントリに入ったら避難とか簡単になっちゃうじゃん!)
(まぁそうだけど、その発想はだいぶ効率厨寄りだな)
そうだよ。だって【鏡魔法】のナーフの時だってそういう話だったじゃんすか。
効率厨なら住民をコカトリスの毒とかで石化させてインベントリにしまって、襲撃が終わってから戻すとか普通にやろうとすると思う。
とか相棒とやりとりしていたら……扉の向こうからまたギャイギャイ言い合ってる声が近付いてきた。
あ、ヤバいヤバい。
でもこれで檻に戻ったら儀式始まってここから遠ざけられちゃうかもしれない。
もうちょっとこの部屋に留まって石像の確認とか相棒に相談とか色々したいよ僕は。
えーっと……えーっと……ネモ! 僕を透明化! 服もちゃんと全部見えなくしてね!
念のため透明になってから霊体化。浮かび上がり、天井の角の方の梁の上に乗って息を潜める。
声の主はさっきの二人組。
バタンと勢いよく扉を開けて入ってくると……檻を見て驚愕した。
「えっ!? ウソでしょ!?」
「はぁあ!? なんでいないんだよ! 鍵かけ忘れたんじゃないのか!?」
「そんなわけないでしょ!」
「でも抉じ開けた痕もないだろ! 忘れたんだって!」
「あーもう、最っ悪! 探すのよ! まだ近くにいるはずだわ!」
乱暴に閉じられた扉。バタバタと遠ざかる足音。
しばらくそのまま息を潜めていると……相棒から念話が飛んできた。
(相棒、今どんな状況?)
(今? 檻から出てネモで透明になって隠れてた)
(ふむ、じゃあしばらく隠れていられそう?)
(たぶん?)
(それなら頑張ってそのまま隠れてて。ちょっと今、パン屋の娘さんのファンがすごいことになってるから)
(んえ??)
相棒がザックリ説明してくれたところによると……パン屋の娘さんが行方不明で、どうも敵対組織に拉致されてる説が濃厚で……パン屋の娘さん大好きプレイヤー達が発狂しているんだって。
(……たぶん僕見つけたね?)
(そう。そして他にも一緒に名前が上がって音信不通のNPCが何人かいるから、相棒が今いるアジトの場所を特定しないとヤバい)
(……その他のNPCって、パン屋の娘さん石像と一緒に並んでる石像の事かなぁ?)
(そこ一緒なのかよ……何体ある?)
(4体)
(……半分か。どの道、インベントリに入らないなら、俺ひとりが妖精女王の指輪でそっちに飛んだ所で全員助けられないし。俺が結婚指輪で相棒のいる方角に向かって位置を探す)
……ああ、結婚指輪ってそんな機能もあったね!
(つまり……今日の僕の役目は、ビーコン!)
(そう、発信機)
(【隠蔽】のある相棒がこっちの方がよかったよね)
(……まぁ今更だ。だから出来るだけ見つからないようにジッとしてて)
(はーい)
まぁ妖精女王の指輪を同時に使えばお互いの位置にすれ違う事も出来るらしいけど……ぶっつけ本番で失敗したらマズいもんね。
了解了解、そういう事なら大人しくしてますよー
僕はのんびりと分かった事を相棒に伝えながら、ふと相棒が疲れて拠点で休んでいた事に思いを馳せた。
(なんかゴメンね。相棒疲れてたのに)
(いいよ、後でサービスしてもらうから)
(ウィッス)
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