軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:駄犬による犬好きの観察

急変した事態の中で、次から次へと爆弾を投下されて混乱する参加メンバー達を、プレイヤー『番犬ジョン』は実に楽しく眺めていた。

番犬ジョンは、プレイヤー『カトリーヌお嬢様』のリアル親戚だ。

そもそも エフォ(EFO) を始めたのは、カトリーヌお嬢様の両親から『ゲーム内でついていてやってほしい』と頼まれたのがきっかけである。

今時どんな過保護だガキじゃあるまいしと少し呆れたが、本家筋の 再従姉妹(はとこ) は良くも悪くも箱入りの純粋培養なのでその気持ちは分からなくもない。いくら気心の知れた女学院の友人達と遊ぶとはいっても、世の中に馬鹿は多いから友人達もまるっと含めてお目付役は多くて困りはしないだろう。

とはいえ番犬ジョン自身すっかり エフォ(EFO) にハマってしまったので、日々面白おかしく 癖(へき) に正直に楽しんでいるのだが。

そんな番犬ジョンの視線の先で、今日も愉快な事が起きている。

具体的には、森夫婦の情報の爆弾で検証勢が発狂している。

「おい、ポメベロスって、おい!」

「ケルベロスゥー!? 告死獣じゃないですかぁーっ!!」

「後輩呼びされてますけど、どういった御関係で!?」

ウケる。

盛大に指をさして笑っていたら、お目付役その2な従姉妹の『マリアンヌ』にどつかれた。真面目に戦えって? ハイハイ、わーってますよ。犬使いが荒いぜ。

今回のメインは森夫婦だが、あの夫婦は特に協力クランへ指示出しをするつもりは無いらしい。

つまりは、いつも通り得意な戦闘をして構わないということだ。

ヘイトを稼ぐ遠吠えで、気分も一緒に切り替える。

思考加速。

踏み込んで、一気にトップスピード。

最前線を追い越して、単身、敵の群れのど真ん中へと飛びかかる。

番犬ジョンの戦闘スタイルは『遊撃』と『囮』。

高い俊敏を活かして敵を内側から引っ掻き回す。

「ハッハァーッ!!」

蹴散らし、跳んで、ヒットアンドアウェイ。

合間にチラリと視線を向けるが、森男の姿は既に見えなくなっていた。

残念。

どんな戦い方をするのか、今日こそじっくり見てやろうと思ったのに。

森男も俊敏特化のようだが、意図して目立ちに行く番犬ジョンとは戦い方が真逆らしい。

死角に回り、急所を狙う。光学迷彩マントを愛用した、暗殺者のようなスタイルだそうだ。

真逆すぎて気になるし、何か参考に出来ればと思うのだが、番犬ジョンの【感知】では森男を見つける事は出来なかった。

まぁそれでも、さっきポメベロスが言っていた『後輩』という言葉の意味は理解した。

着地、からの突進。

爪を構えて切り裂きに向かうのは、『狙え』と言わんばかりのマークが付与された敵。

告死獣が使う、告死紋という物らしい。

被ダメ増加の効果を持つそれが、戦場に四つ。

麗嬢騎士団もモロキュウ冒険団も、率先して告死紋付きを狙い的確に敵を処理していく。

三つ首の犬が頭ひとつにつき告死紋ひとつとして、ならば多いひとつが森男の仕業なのだろう。

つまりアイツは告死獣なのか。

ポメベロスの後輩と言うからには、もしかしたら森男も犬なのかもしれない。

すなわち……アイツも被虐趣味があるのかもしれない!

番犬ジョンはそんな飛躍も甚だしい仮説を頭に置きながら、目は敵に向けつつ、耳で周囲の情報を拾う。

剣戟の音。

二連の打撃音。……これはモロキュウのナムサンだ。

盛大な一喝。

爆発音。

あちこちで石が転がって飛び散る音。

発狂してる検証勢の声。ウケる。

踏み込む音。

叫び声。

そして弓の連射音、これが森男だ。

ヒットアンドアウェイ、下がったついでに目で森男を探す。

……やっぱり見えない。

光学迷彩に加えて、見えにくくなる何かを使っているのかもしれないとクランメンバーは言っていた。

だが射出された矢は見える。

……その矢が、どう見ても骨のドラゴンの胸部から飛んでいるようにしか見えない。

アイツ、スケルトンドラゴンの肋骨の中から射撃してやがる!?

確かに安置ではあるだろうが、ドラゴン、お前はそれでいいのか。

ヘイトが森男に向かえば、それは必然ドラゴンへと向かうのと同じ事。

スケルトンドラゴンは、待ってましたとばかりに身体全体で周囲の結晶ごと敵の群れを薙ぎ払う。

「「アーーーーッ!!」」

パピルスと幻獣の絶叫。

ギャグ漫画みたいなそれに、思わず番犬ジョンは吹き出した。

敵の群れが圧されて後退。

その瞬間、ドラゴンの肋骨の中で羊皮紙が1枚散る。

同時に、敵の群れを爆発が襲った。

魔道具か、それとも無詠唱か。

やっぱり森男のヤツ、普通に無詠唱使ってるよなー?

番犬ジョンは魔法のイメージが極端になりがちであまり上手くない。少し羨ましい。

的確に自分の手札を使い分ける森男は、なんだかんだデキる男だ。姿は見えないけど。きっとそんな格好良さで森女を射止めたに違いない。爆発しろ。

観戦してたら「戦え駄犬ー!!」と罵声が飛んできた。

ありがとうございます。

注入してもらった気合いで再び敵の中へと突進する。

雄叫び、からの斬撃。

衝撃波混じりのそれで派手に敵の塊を蹴散らしてやれば、ヘイトは面白いくらいこちらへ向く。

そのまま敵を引っ張り、奥へと跳躍。

味方の前衛とぶつかる敵の数を一時的に減らす。

さぁて、お次は……と、思った時、響いたのは犬笛の音。

さっきとは違う音がなった直後、番犬ジョンの背後に向かって魔法が猟犬の姿をとってなだれ込んだ。

振り向く。

魔法を喰らって、一部が欠けている大型の結晶の敵。

あっぶね!

スタコラと味方の後ろへ戻る。

誰が助けてくれた? なんて考えなくてもわかる。

鳴り響いたのは犬笛だ、森男だろ。

アイツ、さては相当の犬好きだな?

……つまり!

番犬ジョンは、下がった所にちょうどいた男。森女がドッタンバッタンしている魔法陣の守りについていた、お目付役のその3『セバスチャンZ』に声をかけた。

「なぁセバス」

「いかがなされましたか?」

「俺、森男に気に入られてるかもしれねぇ」

『だって犬だから』という重要な部分が抜け落ちている番犬ジョンの戯言を、慣れきっているセバスチャンZは、微笑みを維持したまま過不足なくそれはそれは的確に理解し返答した。

「……恐れながら、ジョン殿は犬ではなく、豚と認識されていると思われますのでそれは無いかと」

「なんでだよぉー!?」

なんでも何も、日頃の行いである。