軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:追跡、攻撃、そして……

駆け抜ける、背の高い草原の波。

黒く曇った光量の減った空の下、俺は逃げる燕尾服をネビュラに乗って追いかけている。

燕尾服は背の高い細身の男のような体格をしていた。

後ろから追いかけているから、振り返りもしない奴の顔は当然わからない。きっちりセットされている焦げ茶色の髪が、どれだけ走ってもビクともしない事だけわかる。

「今度は逃さないわよ……っ!」

先導して追跡をしているやる気に燃えるベロニカに、何度目かの魔法が飛ぶのを【風魔法】で防御する。

「……クソが」

思わず口から悪態が出た。

キーナだのベロニカだの、よくもまぁバカスカ撃ってくれるもんだ。いい加減ここらで引導を渡したい。取っ捕まえれば手がかりにもなるはずだ。

「……【ダークネスクリエイト】」

闇の触手が相手を絡め取るイメージ。

放った魔法は、しかし機敏な動きで躱される。

……ってか、あの燕尾服、自分の足で走ってるんだよな。素の走りでネビュラが追いつけないってどういう事だ。

「森男さーん! そろそろ北の渓谷に着きますー!」

後ろからかけられる声。

使徒の結晶の現場から、一緒に燕尾服を追跡しているヤギ獣人のプレイヤーだ。

ダチョウみたいな従魔に乗っている少年っぽいヤギ獣人は、「気を付けてくださーい!」と俺に警告を発してくれた。ありがたい。

背の高い草地を駆け抜けて、唐突に現れる大渓谷。

道から外れたところを走っているから、当然橋なんて物は無い。

そして俺達から逃げ続ける燕尾服は……おいマジかよ。

速度を落とさず突入して、そのまま対岸まで跳躍したぞ?

「……【ウィンドクリエイト】」

【風魔法】で俺達と後続のヒトの背中を後ろから押す。

追い風を受けながら、ネビュラも跳躍。

……それでも届かない分は足場を作るか。

「……【ロッククリエイト】」

対岸からせり出すように伸ばした石の柱に着地。

……一応背後を確認すると、ダチョウっぽい従魔は翼を広げて滑空し、問題なく俺が作った足場に着地していた。

追跡は継続。

埒が明かないな……魔法を避けられるなら足を撃つか。

そう考えて弓を構えた所で、背後から数回瞬くような閃光が走った。

振り返る。

一緒に追跡していたヤギ獣人が、カメラの魔道具を燕尾服に向けて構えていた。

「顔撮りたかったなー……」

そんな事を呟きながら、慣れた手付きでスクリーンショットも撮っている。

……ああ、そうだ。どこかで見たような気がしていたが、ラリーストライクの予選直後に会った新聞社だ。

まぁ画像の記録を残してくれたならありがたい。

俺もそろそろ次の手を打とう。

「……【ダークネスクリエイト】」

捕まえられないなら、デバフをかけよう。

速度を奪う【闇魔法】

僅かに減速した燕尾服と俺達の距離がじわりじわりと近付き始めた。

矢じりに睡眠毒を塗った矢を選び、つがえる。

弓を引き絞り、狙いを定めた。

無詠唱、【追い風撃ち】

準備を整えて、先に一手。

「ベロニカ!」

「アタシのかたきぃいいい!」

合図と同時にベロニカが突撃。

急降下から、頭を狙ってくちばしで突く。

斥候の専門家であるベロニカの攻撃は大したダメージにはならない。だが、狙いは気を逸らすだけだからそれでいい。

一矢。

足を狙って撃った矢は、今度は回避されずに直撃する。

もつれるように転倒し……かなりの速度が出ていた燕尾服は、勢いそのままに地面を何度かバウンドして……

──突然、その服が溶け消えた。

「は」

「えっ!?」

あの色の落ち方は見覚えがある。

擬態していたミミックの卵が、その擬態が解けた時と同じような変化の仕方だ。

燕尾服という擬態が解けた相手は頭髪すらも消え失せて……ぐるり、振り返った頭部には顔が無かった。

「……人形?」

顔面に魔法陣が描かれたそれは。

力を失いバウンドする手足がおかしな方向にカクカクと曲がる、球体関節人形で。

──その顔面の魔法陣が カッ! と真っ赤に輝いた!

「っ!?」

「ぬぅっ!」

「うわっ!?」

──閃光、そして爆発。

派手な轟音と衝撃波。

爆風に正面から突っ込んだ形になる俺達は、咄嗟に目を閉じたまま翻弄されて天地の区別がつかなくなる。

浮遊感、直後に体が叩き付けられる衝撃。地面を滑る感触。

痛みを感じないゲームで助かった。

ダメージ、甚大。

ネビュラの分も貰ったから、HPを通り越してMPまで一気にほぼ空の状態まで持っていかれている。

っぶねぇ……エレメント・フュージョンじゃなかったら死んでたぞ。

「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」

矢の命中と同時に離脱していたベロニカが慌てて飛んできた。

俺は頭を軽く振って地面に手を着き起き上がる。

すぐ近くでネビュラもグルルと不機嫌そうに唸りながら体の土埃を振り払った。

「……ギリ生きてる」

「おのれ……自爆とは忌々しい」

「まったくだわ! なんなのよアイツ!」

カァカァと吠えるベロニカに苦笑いしながら、俺はポーションを取り出して飲みつつ周囲を確認した。

爆発の中心は……うわ、それなりの範囲が黒焦げだな。

周りには……ダチョウもヤギ獣人も姿が見えない。死に戻ったっぽいな。

回復してから軽く周囲を確認したが、人形の破片っぽい炭になった木片が数個見つかったくらいで……これといって手がかりになりそうな物は見つからなかった。

「もぉー! 追い詰めてやったと思ったのにぃー!」

「追い詰めてはいたであろう。でなければ自爆などするまい」

「うん、倒しはしたよ」

勝利は出来なかったけどな。

それでも、ひとつ分かった事がある。

ベロニカを撃墜した、敵対勢力と関わりのある燕尾服の男……

あれの正体は、人形だ。