軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:大乱闘を駆け抜けて

大量のヒトが逃げ惑う観客席での戦闘は、普段のモンスター狩りと比べると圧倒的に戦いにくい。

範囲攻撃で雑に薙ぎ払う事が出来ないからだ。

絶対に当ててはいけない的が、常に周囲を動き回っている状態だから、どうしたって攻撃は敵単体へ確実に命中させられるものだけになる。

いっそ避難が完了してしまえばもう少し楽になるだろうからジャック達三兄弟は完全にそっちへまわしているが、それでも現在進行系で暴れる敵対NPCがいるからにはその相手をしないと危なくて仕方ない。

「ブモォオオオオ!!」

「フンッ!!」

荒々しく突進する、敵の牛獣人。

それを盾で受け止めるデュー。

周囲ではけたたましい悲鳴が上がり、また避難の流れが乱れる。

この状態だと弓はまともに撃てやしない。

敵の獣人はかなりの数が観客に紛れ込んでいた。

一般NPCに興味がなさそうなのはいいが、それは逆に敵味方の攻撃で何人巻き込んでも気にしないという事でもある。

「邪魔をするなぁああ! 【フレイムクリエイト】!!」

「っ!」

勢いのままに魔法を詠唱した牛獣人。

すかさずキーナが、準備として杖に書き込んであった無詠唱刻印を指で叩き、【鏡魔法】を発動する。

乱戦になるのを想定して登録してあった、敵を魔法反射の箱で囲む魔法だ。反射は内側へ向けてあるから魔法は全部術者へ返るが、いつも通り消費MPが大きくなったので1詠唱分を反射したら壊れる使い捨て。

火球を数個浮かべた牛獣人は、直後に周囲を取り囲んだ半透明の魔法の壁にそれを反射されて、全弾自らの体で受ける。

砕け散る鏡の魔法の残滓。

その向こうの牛獣人は、ダメージこそ受けているものの、まだ戦闘意欲を失っていない。

(僕の反射神経にかかってくるの怖すぎる)

(頑張って)

相棒を励ましてから、ザッと戦場全体に目をやる。

どこの場所も戦いにくそうなのは一緒だ。

ただ例外は、中央フィールドの王様二人。

非戦闘員がいない場所で、あのNPC2名は20人近い敵対獣人を相手に大立ち回りを演じている。

と、その時……宙に浮いていた使徒の結晶が再びバチバチと雷鳴のように光り始めた。

光はフィールドの……俺達のいる位置のすぐ前あたりに収束して……そこに巨大なモンスターをスポーンさせた。

形状はウミウシに似ている。背中に何本もの触手を生やしたナメクジっぽい姿。

色は黒に禍々しい光沢……使徒戦で大量に湧いてくるタイプの敵と同じだ。

そして特徴的なのは……背中の触手の先端や、ぬらりとした体の表面に、いくつもの不気味な目がある事。

目はギョロギョロと周囲を見渡して、それぞれが違う方向をジッと視線で追い始めた。

「……魔眼か」

拡声器が入りっぱなしだったのか、王様の呟きが会場に響く。

王様も視線を受けている1人なんだろう、早さが明らかに落ちていた。

そして混乱の渦の中で、プレイヤー達がざわりと動揺した気配。あっちも数人、思うように動けなくなっているらしい。

……ちょっとまずいか。

((相棒))

(行ってきて!)

(行ってくる)

シンクロする思考。

それなら躊躇う理由は無い。

「モルテム」

ネビュラと同化。

すぐに光学迷彩マントのスイッチをオンにして戦闘を離脱。

ボウガンを構えながら、俺は巨大ウミウシの方へと向き直る。

そして前進しつつ、エレメント・フュージョンの種族特性、半透明化を最大まで上げた。

色々試している時に偶然気付いた。光学迷彩使用時に見える揺らぎは、アバターが半透明化すると一緒に薄くなる。

だから二つを併用する事で、俺はさらに周囲から捕捉されにくくなる。

左目の魔眼を発動。

俺の『目隠しの魔眼』は、そもそも魔眼への対抗策だっていう話だ。それなら状況の打開には丁度いいはず。

……ただし、相手のウミウシには俺が浮き上がって見えるから、どれだけ透明化してても俺の位置が分かるんだけどな。

巨大ウミウシを魔眼で見つめると……ウミウシは戸惑ったようにキョロキョロと目玉を彷徨わせ始める。

このNPCまみれの場所で俺が捕捉されるわけにはいかない。

駆け出して、跳躍。

逃げ惑うNPCの頭上を跳び越えて……空中で、あらかじめボウガンに刻んでおいた無詠唱刻印を指先で叩いた。

発動するのは【風魔法】。

靴底に風圧で一瞬だけ足場を作る魔法を踏んで、さらに跳躍する。

誰の邪魔にもならない、誰も巻き込まない高さに逃れると、フィールドの様子がよく見えた。

イベント的には、俺達のいた席は後ろ側になるんだろう。

だから位置関係は、俺がいて、ウミウシがいて、その向こうに王様だった。

そして高空に上がった俺を、国王陛下がしっかり目で追っているのが見えた。

……いやおかしいだろ、なんで見えてるんだよ。何かそういう装備でも着けてるのか?

俺の疑問を他所に、王様はニヤリと笑って片耳に手をやった。

──(そのまま続けろ!)

なんで一方的に念話が飛んでくるんだ……どんな装備してるんだ王様は。

自分が走るリズムに合わせてテンポよく無詠唱刻印を叩き空中を駆け抜けながら、俺は了承の意を込めて右の魔眼も追加で発動した。

ウミウシの姿に重なるように現れる告死紋。

それを見て、驚いた獣人闘王が声を上げる。

「告死獣!? どこに……っ!?」

「ククク……案ずるなロアよ。うちの冒険者には面白いのがゴロゴロいるのだ!」

「さっきまでの試合にはいなかっただろうが!?」

「そういう奴なだけだ」

はい、そういう奴です。

ボウガンを構えて、刻んでおいたもうひとつの無詠唱刻印に触れる。【追い風撃ち】が無音で起動。

数の多さで俺を捕捉しようとしたウミウシの目を、ボウガンで射抜いて視線を潰した。

『目隠しの魔眼』は使用者である俺の輪郭だけが相手に浮き上がって見えるから、必然魔眼持ちは俺に視線を向ける。

つまりは真っ直ぐに射線が通るように、こっちを向いてくれるわけだ。撃ちやすくてありがたい。

速度減少のデバフが解除された王様が、再び派手に暴れ出す。

俺はその様子を視界の片隅に収めながら、巨大ウミウシの魔眼をひとつずつ地道に潰していった。