軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:こちらの世界だからこそ出来る事

クエスト『理の女神の物語』を無事にクリアした俺達は、その足でピリオノートの図書館に戻ってきた。

「やぁ、お疲れ様。どうだったね?」

エルフの研究者、エリンデルリンさんに経緯を報告。

エリンデルリンさんは、満足そうに頷いた。

「よろしい。魔法とは何か、そして君達の求める『無詠唱』の記述を担っていた魔法が如何にして失われたのか。しっかりと理解出来たようだね」

指先に巻き付けていた髪をパラリと解いて、積み上げた本の山から何かを探しつつ、エリンデルリンさんは講義の続きを開始した。

「では、いよいよロストテクノロジーの研究者らしい話をするとしようか。……そもそも、失われた魔法を取り戻すことは可能なのか?」

うん、大神殿でキーナがしきりに首を傾げていた事だな。

神様に謝ってもダメだったなら、そもそも取り戻すなんて無理なんじゃないかって。

「結論から言おう。全く同じモノを取り戻せた例は、今のところ無い。……だが、それはあちらの世界での話だ」

そしてエリンデルリンさんは、ようやく見つけたらしい目当ての本を俺達に見せた。

その本は……『戦場の踊り手〜華麗なるステップは無限の力となる〜』

「あれ? ダンサースキルの本だよね?」

「……だと思う」

「ほう、知っていたか。流石だな」

まぁ、俺達がここの裏側で拾ってきた本のひとつだしなぁ。

そんな事とは露知らず、エリンデルリンさんはとても嬉しそうな顔でその本の表紙を撫でる。

「この本は、我々の世界のモノではない。そして開拓地であるこの世界のモノであるわけもない。……つまりは、未知の世界の技術なのだ。……にも関わらず、この本に記された技術を我々は扱う事が出来る」

『それは何故か』と言いながら、エリンデルリンさんが取り出したのは……生誕の神のレリーフだった。

「それは、こちらの世界の主神たる生誕の神の寛容さ故の事。我らヒト族を受け入れた神は、同様に他の世界の技術も躊躇いなく受け入れる」

だからこそ、本国の世界と同じ魔法が使えるし、まったく別の世界のダンサースキルも扱えるわけだ。

「そしてもうひとつ……冒険者達はこちらの世界で、得意な魔法に名前を付けて登録しているだろう?」

「あ、はい」

「……してますね」

「どうやら忘れているようなので教えておこう。あれは本国では不可能な事象なのだ」

「「え」」

「あれはつまり、過去に理の女神の聖女と技術神の聖人が倒れる寸前まで忙殺されかけた仕事の内容と同じ事だぞ? 魔法で引き起こす事象に名前を付けて、ルールとする。個別か全体かの違いこそあれど、やっている事は変わらない」

ああー……そう言われれば確かにそうだな。

「結局はそれも、この世界の主神がとても力の強い生誕の神である事によって可能となった法則だ。新たな魔法が、新たな法則が生まれる事さえいとも容易く行われる。そして理の女神は、言葉を繕わずに言えば、主神よりも下位だ。その誕生を止める事はしない」

なるほど……それなら『無詠唱』の技術っていうのは……

「さて、ここまでくればそろそろ察しが付くだろう? 失われた『無詠唱』の技術。それを求めるのならば……異世界からそういう技術が来るのを待つか……あるいは、こちらの世界で生誕の神の力を借りて、君達が新たに作るしかない、と」

マジかぁ。

そこまで自由度が高いのか エフォ(EFO) の魔法は。

いやでもそうだな、魔道具の開発なんかはもうそういう領域に突入しているんだろうな。

つまりプレイヤーが『無詠唱』で魔法を使いたいとなったら、取れる選択肢はいくつかあるわけだ。

既存のダンサースキルを使うか。

そういう魔道具を作って使うか。

前に砂漠で召喚したダンジョンも異世界の代物だから、ああいうダンジョンで入手出来るアイテムに可能性を見出すか。

もしくは、自分でアイデアを考えて作るか。

「……えっと、新しく作るとして……それを理の女神様は怒らないんですか?」

恐る恐る挙手したキーナが問うと、エリンデルリンさんは「もっともだ」とばかりに力強く頷いた。

「正しくその疑問こそが、私が君達に事前知識をつける事を要求した理由なのだよ」

エリンデルリンさんは、満足そうに頬杖をついて微笑む。

「失われ、死んでしまった魔法を取り戻すのは、ほぼ絶望的だと私は考えている」

『何故ならそれは罰であり、そして後世への警句だからだ』と彼女は言う。

「しかし理の女神は、我らヒト族の謝罪を受け入れてくださった。……ならば、我らに出来る事など、もう決まっている」

目を閉じて、力強い言葉が発せられる。

「二度と同じ過ちを繰り返さない事。そして、その過ちを忘れないよう胸に刻みながら、さらなる高みを目指す事だ」

だって女神は、新たな法則を作るなとは、決して言わなかったのだから。それこそが、理の女神が技術神との絆を深める事に繋がるのだから……と、エリンデルリンさんは結んだ。

「この結論に到達した私は……こちらの世界へやってきて、理の女神に祈ったよ。今言ったような思いの丈を、ありったけ」

そう言いながら、エリンデルリンさんは右手の指先でそっと宙を指し……その指先から、 詠(・) 唱(・) 無(・) し(・) で(・) 花を咲かせて見せた。

「わぁ……」

「……無詠唱の【草魔法】?」

「そうとも……女神は認め、応えて下さったよ。取り戻せないのならば、代替品を新しく作ること。だが、私のやり方を君達に教える事はしない」

『君達も、自分のやり方で、古代に失われ死んでしまった魔法に挑んでもらいたい』と、研究者は言う。

「神に祈るも良し、魔道具を作るもよし、踊る他に意思を伝える術を何か考えてもいいだろう。……良いかい? 魔法とは、己の意思を世界に伝える事で発動する奇跡だ。そして女神の意思によって世界に認められる法則なのだ。感謝を忘れては、いけないよ」

「了解です」

「……わかりました」

エリンデルリンさんの言葉に、俺達は頷いた。

(……きっと昔のヒト達もさ、『もういらない』じゃなくて『今までありがとう』って言っていればよかったんだよね)

(だな)

長く愛用した道具への感謝と同じだ。

それを忘れてしまったから罰が当たった……昔話らしい話だったな。

──ロングチェーンクエスト『失われし刻印』をクリアしました。

クエストも完了。

……ただ、やけに隣のキーナがそわそわしているのが気になるんだよな。