作品タイトル不明
ユ:怪しいヒトに木材を見せびらかしてみるテスト
さて、無事にゲコリン村に到着して俺達のオーブ登録も済ませたから、そろそろ目的を遂行する流れだ。
この村にはパピルスさんが出店している店の舟がある。
店員は村の住民NPCを雇っていて、商品の搬入と買取品の回収は主にパピルスさんの部下のNPCが、時々パピルスさん自身が様子見を兼ねて来ているらしい。
「ここの木材は水に強いので需要があるんですよ。木彫りやアケビも他所だと珍しい物ですし」
店の舟は前庭……というか甲板が広めになっていてカフェのようなテーブルと椅子も置かれている。村人や外の客が休憩しつつ会話を楽しんでいる様子が見られた。
「休憩所と買取りもやってる田舎のコンビニのような店舗です」
「小麦や香辛料はどうしても他所から買わないといけませんからね、助かっていますよ」
そんな店のバックヤードで、俺達は打ち合わせをした。
「先程来る時に村を訪れてる方々を見ましたが……錬金術士かもしれない出で立ちのヒトはチラホラいました」
「この店の甲板に 微睡(まどろみ) の森の木を積んでちょっと立ち話すればいいですかね」
「この村は裏路地などという物はありませんので、NPCさんの顔色はよく見えると思いますよ」
「……ああ、確かに裏路地どころか道が無いですね」
開拓主の承諾は得られているから、俺達は軽く打ち合わせを済ませたらそれぞれ配置についた。
パピルスさんとキーナは適当な紙と下敷きの板を持って、店の舟の甲板へ。
節奏レンジュさんは再びタライに乗って沼の上へ。
俺は光学迷彩マントのスイッチをオンにして、店の屋根の上へ。
【感知】にはまだ何も引っかからない。
「この辺に出せばいいですか?」
「はい、お願いします」
椅子とテーブルを少し避けて、パピルスさんが敷いた布の上に木材を舟が傾かない程度に積み上げた。
そしてそのまま、キーナとパピルスさんは商談のような世間話のような当たり障りのない立ち話を始める。
「形もさることながら、独特な色味の木ですよね」
「ですねー、白なんですけど薄く青緑がかってて綺麗なんです」
「ベッドに加工する時は、もちろんそのままの色も好まれますが、地の色が薄いという事はお客様の好みの色に染めるのも簡単で助かっておりまして……」
村の住民NPCは沼の木とは明らかに違う木材に一瞬目を引かれるが、基本的にはすぐに興味を失って目を逸らした。興味津々で近寄って眺めるのは子供くらいだ。
外から来ているお客も基本的には興味を示さない……が。
1人。
明らかに目の色を変えて木材を凝視しているローブ姿の女性がいた。
少し離れた舟の上。
一人旅なのか連れは見当たらない。
……どっちだ? プレイヤーか、NPCか。 エフォ(EFO) はよほど珍妙な装備でもない限り見た目で判断はつけられない。
パピルスさんが言うには、NPCの錬金術士は服装こそ様々だが、大体はベルトに小瓶を吊るしている事が多いらしい。
ただ、プレイヤーの錬金術士も作業の関係で装備に小瓶を着けている事がままあるらしいから決定打にはならない。
念話でキーナにガン見している女性の存在を伝えると、キーナがそれをこっそり紙に書いてパピルスさんに見せる。確認したパピルスさんは頷いた。共有はOK。節奏レンジュさんも見守っている側だから気付いているだろう。
……と、そこでガン見している女性が動いた。
舟を寄せて、店の甲板に上がり、木材の前で話し込む2人に声をかける。
「すみません……私、しがない錬金術士なのですが、珍しい素材を集めて旅をしていまして……」
一歩下がるキーナと、逆に一歩前へ出て商人らしい挨拶を始めるパピルスさん。
慣れた様子で名刺を渡し、握手を交わした。
……接触許可に引っかからない。NPCだ。
さりげなく聞き出していた名前は『ジギタリス』
「こちらの木材、買い取らせていただく事は出来ませんか?」
「申し訳ありません。こちらは既に買い手の決まっている品物でして……ご連絡先を教えていただければ、次回入荷時に手紙にてご案内いたしますが」
さらりと住所を聞き出そうとしている……トークスキル高いなぁ……
ジギタリスは連絡先を教えるのは渋った。
まぁ本当に敵対組織の一員だったら教えたくないよな。……逆に言えば、そこで渋るあたりが怪しいって事か。後ろめたい事の無い研究者NPCなら、教えるのに何の問題も無いはずだ。
最終的に……ジギタリスは連絡先を教えず、キーナに直接買取りを持ちかけたが「パピルスさんにお任せしているので」と断られ、悔しそうに引き下がった。
少し離れた所を、パピルスさんと節奏レンジュさんがそっとスクショに収める。俺もそれにならって撮影しておいた。
スクショはゲーム内のNPCに見せる事は出来ないから城に提出したりは出来ないが、掲示板に貼って注意喚起する事は出来る。……その辺は、パピルスさんが上手いことやってくれる予定だ。
そうして俺達が、手がかりの、最初の一歩のような情報を得た所で……【感知】に、村の外から接近してくる複数の敵対反応が引っかかった。
と、同時に、村中に響く、鐘を打ち鳴らす甲高い音。
「皆様、襲撃のようです」
落ち着き払った節奏レンジュさんの声がいっそ場違いだった。