作品タイトル不明
ユ:脱出と邂逅
救助対象のシンドラルを確保、後は速やかに脱出するだけだな。
光学迷彩マフラーのスイッチを入れ直して、そとの気配を確認。【感知】に反応は無し。
そっと鍵を開けて部屋を出て、もう一度施錠しておいた。
廊下に人影は無し、ネビュラと同化して駆け抜ける。
さっき降りてきた階段を通過。
見取り図に書かれていた出口の方向へ向かった。
曲がり角で立ち止まって、先を確認する。
出口らしき大きな両開きの扉。
その前に見張りが2人。
……声を上げられると上に行った奴らが戻って来るかもしれないんだよな……それは面倒だ。
「【ダークネスクリエイト】」
小声で詠唱した魔法。消音の壁を曲がり角に置いておく。
「【ウィンドクリエイト】」
次に失神させる粉末を取り出しながら、【風魔法】でそよ風を起こして、粉末をその風にのせる。
粉塵まみれの風が顔の周りをそよぐイメージの魔法は、薬物をスムーズに運んでいく。
「……ぶぁっくしょん!」
「どうした、風邪?」
「いや、なんか埃っぽくて……」
「あ? あー……ケホッ、確かになんか……う?」
「……あ、まず……て、敵襲だー! ……く……」
残念、聞こえない。
ドサリと崩れ落ちる見張り二名。
注意しながらそっと近付き、念入りに追加の粉を顔にかけておく。
さて、見取り図通りならここが出口なわけだが……
目の前の扉には張り紙がひとつ。
近付いて読んでみる。
──『トラップ無効の護符を忘れない事!』
……なるほど、トラップ付きの通路なのか。
忘れて通って自爆した奴がいたんだな……おかげで張り紙が張られたわけだ、助かる。
ハンナは特に何も言っていなかったな……忘れていたか、それとも俺の構成なら突破出来ると判断されたか。あるいは……
俺は念の為、気絶させた見張りの持ち物を調べた。
ポケットを漁ると……お、これか?
【ブラッドレッドの護符】
小さな金属板にブラッドレッド・カルトの紋章が刻まれた護符。
手に持っていると、ブラッドレッド・カルトのアジト入口トラップを無効化する。
当たりだ。見張りは侵入者を迎撃もするだろうから、そりゃ持ってるよな。
ありがたく拝借して、扉を開けた。
出口は薄暗く細長い直線通路だ。
……見取り図でも思ったけど、長すぎないか? 反対側の端が見えないんだが?
まぁ、さっさと走り抜けるしかないか……
扉を潜って通路へ踏み出す……と、壁や床がキラリと数ヶ所、光ったようなエフェクトが見えた。
なんだ?
近付いて確認すると……魔道具っぽい輝石が埋め込まれている。
……【罠】か【感知】のレベルが足りてると見えるとか、そういう感じか?
敵対NPCがこうやってアジトを作ってるなら、こういうパターンも増えるのかもな。
今回は無効の護符を持っているから関係ない。
扉を閉め直して、通路を駆け抜ける。
落とし穴の類だけ心配だったが、特に無かった。……まぁ乗っただけで落ちるような物があったら、大きな物とか重い物を運び込めなくなるもんな。
ただただ長い通路を走って……ようやく反対側に着いた。
こっちも両開きの扉付き。
向こう側に見張りは……当然いるか。さっきと同じく数は2。扉の両側にいる。
……そうだな、もうここまで来たら音が出てもいいだろ。
扉の脇の壁に張り付いて、魔法を詠唱。
「【フレイムクリエイト】」
長い通路の少し奥の方で、派手に爆音を立てた。崩落しても困るから、音と煙がメインで威力は小さめに。
「なんだ!?」
「誰かいるのか!!」
見張りが扉を開けて通路に飛び込んでくる。
奥の方で煙を上げている爆発現場に驚いて、槍を構えて突進して行った。
お疲れ様です。
俺はそれを見送って……そっと開けっ放しの扉を潜った。
よし、先へ進もう。
……と思った瞬間、頭上から【感知】に複数の気配。
まだ地下のはずだから……上階か?
階段……あった。
階段脇の壁に張り付いたのと同時に、バタバタと複数人が部屋の中に駆け込んでくる。
「おい、何の音だ!?」
「見張りは……通路か?」
「なんだなんだ」
5、6人の集団は、そのまま部屋を真っ直ぐに横切って通路へ向かった。
……タイミングが良かったな。
注意しながら、急いで階段を駆け上がる。
日の光が階段に差し込んでいる。
1階は、窓のある小屋のような場所だった。
外へ出るドアが開け放たれていて、馬車が止まっているのが見える。そこに気配が3人。
まぁ外ならさっさと逃げればいいか……そう思って通過しようとすると……思いがけないモノが目に入った。
武器を持った敵対NPCが2人、手足を縛られて転がっている人物の前で周囲を警戒している。
……しかも捕まってる被害者、見覚えがあるぞ?
変装していない時に石板NPCの所で会った、ロードオブザピッグだ。
おいマジか、どうする……?
一瞬悩むと、ロードオブザピッグが敵対NPCに見えない角度でパチリと目を開いた、そして明らかに俺の方に視線を向ける。【隠蔽】使ってる俺がわかるなら、高レベルの【感知】持ちか。
ニヤッと笑うロードオブザピッグ。そして口パクで俺に向かって何か言っている。
……口パクを読むような技術は無いんだがな。
まぁこの状況なら『助けて』一択だとは思う、多分。
「【ダークネスクリエイト】」
消音を馬車の周りに展開。
突然現れた闇に敵対NPCが驚いている隙に、急接近からの打撃を叩き込む。
「グッ!?」
「うわぁっ!?」
ダウンした所へ、ダメ押しで顔に粉末をかけておいた。
これでよし。
後は【火魔法】で拘束しているロープを焼き切った。
「いやー、ありがと。誰だか分かんないけど」
……うん、光学迷彩オンのままだからな。
解除すると、ロードオブザピッグは目玉が落ちそうなくらい目を見開いて驚いた。
「うえっ!? ……とっとっと、あっぶな……思いっきり叫ぶ所だったわ」
「……別に、【闇魔法】で音が外に漏れないようにしてるんで、叫んでもいいですけど」
「あ、そう? ……うっそだろぉおおおお!? 適当にヘルプ要請した通りすがりが森男かよぉおおおおおお!? そんな偶然あるぅうううううう!?」
腹の底から叫んだロードオブザピッグは、「ふー」と満足そうに額の汗をぬぐってから俺に向き直った。
「で、こんなとこで何してんの?」
「……拉致された先で救助クエストが沸いたんで、今脱出してきた所です」
そう言いながら、俺はポケットからヴァンパイア化しているシンドラルを出して見せた。
「どうも……」
「わーお。え、ちっさ、小人?」
「いえ……諸事情あって一時的に縮んでるだけです」
「あー、はいはい……俺も持ってるから深くは聞かないでおくわ」
ヒラヒラと両手を振ったロードオブザピッグは、喋りながら魔法の地図を取り出して使い、出来上がった地図に印を書き込んだ。
「やれやれ……あんな所に拠点作ってるとはね。見落としてたよ」
あんな所?
肩を竦めるロードオブザピッグさんの視線の先を見ると……そこは海だった。
海岸に建てられた小屋、その先の海。
そして……あの地下通路が繋がっていると思われる方向には、海のド真ん中に大きな岩山がある。
ヴァンパイアのカルトは、あの岩山の内側をくり抜くようにしてアジトにしてるのか。
魔法の地図は真上からの視点で描かれるから、内側のアジトが見えたんだろう。
「よし、じゃあ最寄りの入れる開拓地に行く感じでいい? ここらは俺の行動圏内だから、案内出来るよ」
「……助かります」
「ほい、決まり。……あ、俺は『ロードオブザピッグ』って言います。今後ともよろしく」
「……森男です」
「あ、もうそれで名乗ってるんだ」
ネビュラを呼び出して、あまり俊敏が高くないロードオブザピッグさんに乗ってもらう。シンドラルはロードオブザピッグさんにもってもらった。俺は一緒に走る。
……と、そこでキーナから念話が届いた。
(たぶんボス戦入りまーす)
(ん、了解。行けたら行くわ)
開拓地に着いたら……シンドラルをロードオブザピッグさんに頼めるか確認するか。