軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:既に手遅れだった。

さて、キーナもひと仕事終えたようだし、俺の方もクエストの救助対象を確保するか。

せっかく敵が上の階に行って減っているんだ、今の内に地下牢まで突破しよう。

すれ違う頻度が激減した廊下と階段を、【闇魔法】で消音しながら走り抜ける。

目的の地下に降りる。

幅がやや広めで長い廊下だ。

ここを右へまっすぐ行くと出口。

もう片方は倉庫や地下牢に続いている。

まずは地下牢。

見取り図に従って、左手側突き当たりから3番目の扉。

守るように立っている見張りを、今までと同じ方法で失神させた。

【感知】……お、扉の向こうにはヒトがいないな?

合鍵を使って、素早く中へ滑り込み、すぐに扉を閉めて鍵をかけ直した。

「だ、誰ですか?」

部屋の中は、中央を鉄格子で区切った牢屋だ。

そこにいた男が、突然入ってきた俺に驚いて声を上げた。

男は金髪に赤い目をしたそこそこのイケメンだった。

少し良い所の坊っちゃんって感じの服を着ているが、その服はあちこちが大きく破れて見る影もない。

不安げな顔をしているが、その口の中には鋭い犬歯が覗いている。

そして逃げるように後退して壁につけた背中には、体で隠しきれないコウモリのような大きな翼が生えていた。

うん、見た目はわかりやすくヴァンパイアっぽいな。

俺は一度ネビュラとの同化を解除、外に声が漏れないように小声で男に返事をした。

「……通りすがりの森男です」

「森……え? ……誰?」

「……ここの奴らに無理矢理ヴァンパイア化させられたヒト、で間違いありませんか?」

男が息を飲む。

怯えたような表情に悲壮感が滲んで、こくりと頷いた。

「……あるヒトに頼まれて、貴方を助けに来ました」

「そ、それを信じるに足る証拠は?」

え、証拠? 証拠かぁ……

あのドワーフ女性のハンナからは特に見取り図と合鍵以外は預かっていないしな……そもそもハンナとこの男性はどういう関係なんだ? そこ確認してなかったな……

……あ、もしかして、このヒトもヤーンボールシープ愛好会のメンバーだったりしたんだろうか? だったら……

俺は、鉄格子に近付いて、こっそりと内緒話のように囁いた。

「……うちには、ヤーンボールシープの進化系がいます」

「!!」

男の顔に希望が浮かんだ。

……マジかよ、当たりか?

「や、ヤーンボールシープ! って事は貴方は、『鋏鍛冶のハンナ』さんのお知り合いなんですか? あ、もしや、ヤーンボールシープ愛好会の会員なんですか!?」

「違います」

俺は違う、違います。

つい食い気味に否定してしまったが、男は少し残念そうな顔をしただけにとどまった。少し興奮しながらも、ギリギリ外に漏れないくらいの声量でまくし立てる。

「そうですか……ああでも、ヤーンボールシープを飼っていらっしゃるという事は良いヒトに違いありません! ……あ、すみません自己紹介もしないで……自分は『シンドラル』と言います。ここを出たら、新生ヤーンボールシープ愛好会のメンバーになる予定なんです!」

「……新生ヤーンボールシープ愛好会?」

「はい! ここでハンナさんからヤーンボールシープという素晴らしい存在を教えていただき、是非入会したいと考えまして!」

そっ……かー…………もう手遅れだったのか、このヒトは……

森男の変装が仮面付きでよかった。今の俺は、それはそれは遠い目をしているに違いない。

「疑ったりして申し訳ありませんでした。ボク、ヴァンパイア化して見た目はこんなですけど、実戦の経験は無くて……貴方についていきますので、よろしくお願いします」

「……あ、はい」

「あ、そういえばハンナさんは? 御一緒ではないんですか?」

「あのヒトは『まだ出来る事がある』と言って残りました」

「そうですか……さすがは『鋏鍛冶のハンナ』さん。きっとヤーンボールシープの御加護があるのでしょう」

俺はツッコミを放棄して、インベントリから小瓶をひとつ取り出した。

【ミニミニ丸薬】…品質★★★

1粒飲むと、体が小人の大きさになる丸薬。

一定時間経過すると元に戻る。

丸薬は残り四粒。

小さな薬をひと粒だけ出して、シンドラルさんへ渡す。

「飲むと体のサイズが小人になります。飲んでください」

「おお、こんな物が。ありがとうございます」

「……周りには広めないでください」

「わかりました」

素直に薬を飲むシンドラルさん。

数秒経つと、その体は小さく縮んでいき、牙や翼はそのままだが小人と同じサイズになった。ゲームだから服ごと縮む。

戦いに慣れていないなら、これで俺が持っていくのが1番楽だ。こういう時、NPCは接触許可に引っかからないから良いな。

小さな体で鉄格子を抜けてきたシンドラルさんを、手のひらに乗せて、そのままポケットに入ってもらった。落ちないように、そして潰れないように、布を引っ張って調整する。

「外に出て街を目指します。良いって言うまで喋らないでください」

「は、はい。よろしくお願いします」

よし、救助対象は確保。

次は出口からの脱出だ。

……ちょっと精神がヤーンボールシープに染まってるが、体がヴァンパイア化してる事に比べれば大した事じゃない……と、思いたい。