作品タイトル不明
ユ:アヤカシとプレイヤー
お近付きの印に大量購入していた団子をいくつか渡すと、アヤカシ達は歓声を上げて喜んだ。
「やったぁ甘味だぁ!」
「たまに表でくすねるけれど、堂々と食べられるのは久しぶり」
「ありがとうございまーす」
たまにくすねてるのかぁ。
青白い桜の下で即席の花見のようになった所には、団子につられたのか賑やかなのが気になったのか、チラホラと初見のアヤカシ達も集まり始めた。
ゆるキャラのようなアヤカシ達に囲まれながら、会話は続く。
「ああ、そうそう。あなた方ならこっちの街へいつ来ていただいても構わないのですけれど……こっちの街のお城へは、用事が無い限り近付かない方がよろしいですよ」
「ああ、確かに」
「お城には、我らがアヤカシの大親分がいらっしゃるので」
「虫の居所が悪いとね、プチッとされますから。プチッと」
「悪くなくても用事が無いならポイッとされますから。ポイッと」
なるほど、城には気難しいアヤカシの元締めがいると。
「大親分はどんなアヤカシなの?」
「おおっと! それを我らの口から言うわけにはまいりませぬ!」
「ですともですとも」
「なりませぬぞぉ!」
「大親分ほどの大アヤカシともなれば、いくらでも表の街で話を聞くことが出来ますのでね」
「ええ、ええ、是非とも噂や怪談としてお耳に入れて差し上げてくださいまし」
「こんな下っ端アヤカシの口から聞いたなんて知られた日にゃあ、お仕置きされちまいますのでね!」
そうか、噂されるほど強くなるんだもんな。
大親分ともなれば当然ヒトの間でも有名なのか。
それをアヤカシから聞くまで知らなかったとなると、大親分の沽券に関わるのかもしれない。
するとアヤカシの1体が、「ああ、でも」と思い付いたように言葉を続けた。
「お二人がどちらかでも『半妖』になられたなら、お教えするのはもちろん、新入りという事で、すぐに挨拶へ赴く事は出来ますよ」
「うむうむ、それは確かに」
「あなた方なら知名度も高いからアヤカシとしてもやっていけるだろうし」
「ですなですな」
半妖。
ようするにアヤカシ系の特殊種族か。
簡単に説明して貰った分には、知名度によって能力にバフがかかる他、アヤカシから仲間認定されて好感度が高くなったり、アヤカシからのクエストが月夜桜の都で受けられるようになったりするらしい。
後は混ざるアヤカシはそれなりに強いアヤカシから選ぶ事になるが、その種類によって追加される能力が違うとかなんとか。
「いかがです?」
「んー、僕はやめとく」
「……俺も今の種族の方があってるんで」
「おや残念」
「っしゃあ! ワシの勝ちじゃあ! よこせよこせーい!」
「ちぇー、外したかぁー」
「あーあ、お小遣いがパァ」
……どうやらアヤカシ達は、最初に月夜桜の都を訪れた冒険者が半妖になるかどうかで賭けをしていたらしい。おいコラ。
苦笑いしていると、小さなイタチのようなアヤカシが1体、揉み手をしながらにじり寄ってきた。
「ま、それはそれとしましてね。お二人のように高名な冒険者でしたら、我らアヤカシ、使って頂くのはやぶさかではございませんぜ?」
「名のある御方のお供となれば、それはもう便乗して名が売れること間違いなし!」
「まぁこんな下っ端じゃあイタズラが関の山ですけどねぇ」
「馬鹿言え、力が強くなりゃあ話は変わるってもんよ!」
「そうだそうだー! こちとら伸び代の塊だぞぅ!」
ああ、やけに好感度が高そうな感じで集まってくるなと思ったが、完全に下心ありきの歓迎なんだな。
ようは注目度が高いプレイヤーにくっついて、名声のおこぼれが欲しいわけだ。
「有名になるために歌って踊ったりとかはしないの?」
アイドルかな?
キーナの問いかけに、アヤカシ達は一斉に首を横に振った。
「それで有名になったらあっしらとしての自我がなくなっちまう」
「歌って踊るアヤカシが生まれて取って代わられるだけだぁ」
「文字通り、魂を売り渡す行為」
「しないしない、できない」
アヤカシ達は「怖い怖い」と遠い目をしている。
語り継がれている性質以外の事で売名行為をしても、意味が無いって事なのか。
「だったら、得意な事で人助けすればいいんじゃない?」
キョトンとするアヤカシ達に、キーナが続ける。
「助けて貰ったら『良いアヤカシ』として噂になるから、そうしたら冒険者も『そんな良いアヤカシがいるなら、ちょっと力を貸して貰いたいな』ってなるかもしれないよ?」
「……そうだな。今ちょうど誘拐事件が多発して困ってるから、それを防いだりすれば知名度が上がるかもしれない」
アヤカシ達は、「ほほーう!」と沸き立った。
「それは良いかもしれない」
「ヒトの子を助けて、名声を得て、口伝えてくれるヒトの子も助かる」
「一石二鳥」
「悪くない、悪くないぞ!」
やんややんやと盛り上がるアヤカシに、キーナは少し不思議そうな顔で問いかけた。
「……アヤカシって、ヒトを食べたりするのはいない感じ?」
「あー、いなくはないですよ?」
「そういうのはね、生まれてひとりふたり食べたら、あっという間に強いヒトの子が退治にやってくるから」
「そもそも我々を語って生み出すヒトの子を食べて数を減らしてどうするのってなもんよ」
「たまーに湧いたら、あんまり被害が出る前に退治しちゃってくだせぇまし」
ここのアヤカシは、そういう害のあるアヤカシを退治するのは気にしないって事か。
「団子の方がよっぽど美味い!」
「ちげぇねぇ」
「酒もあれば完璧だった」
「お酒ないです?」
「お酒! お酒!」
「ないですか?」
「お酒は無いなぁ」
「「「ああ〜ん、残念」」」
とりあえず、月夜桜の都の下っ端アヤカシ達は、やけにノリがいい事はよくわかった。