作品タイトル不明
ユ:あの子の船旅の果てに。
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バレンタインイベントが終わった……という事は、そろそろ2月の終わり。
エフォ(EFO) は春……4月から正式サービスが始まったから、一周年記念のイベントはもう少し先になると思われる。
……となると、間の虚無期間を埋める突発イベントが来てもおかしくない。
そんな公式の動き待ちのようなある日の事。
唐突に公式サイトに動画とお知らせが追加された。
「なんだろなんだろ、アニバーサリー関係かな?」
「どうかな?」
まずは夕飯を食べながら動画を確認。
動画は……夏の港の帆船の上。
バンダナを巻いた配信者のメン子が乗組員達を相手に音頭を取っているシーンから始まった。
『よぉーし、行くよ皆! 『パスタ・オン・ザ・オーシャン号』、出港ー!!』
『オォー!!』
サウスサーペント港から旅立った船。
動画はその旅路をダイジェストで追いかける。
船旅は思ったよりもモンスターが頻繁にエンカウントするのか、小さな魚の大群から船より大きな魚の突撃まで、次から次へと襲いかかる脅威を、乗組員達は時にゴリ押し、あるいは機転を利かせ、メン子に悲鳴を上げさせながら乗り越えていく。
「あ、クラーケンだ」
「デカいイカだなぁ」
「ベビーは普通のイカサイズだったよね、こんなに大きくなるんだぁ〜」
途中で流れ着いた孤島の開拓地で歓迎され。
うっかり大河を海と間違えて遡上しかけて巨大カニと喧嘩になり。
視聴者だったのか人魚のプレイヤーから魔道具の地図を貰って進路を相談して。
あちこちで立ち寄った島の植物サンプルを見比べながら。
秋を越えて。
冬になり。
そして辿り着いた大陸の海岸沿いを進む帆船に、背にヒトを乗せた大きな猛禽が並走した。
「あ、忍者だ!」
「おお、ラリストの景品の鳥かな」
猛禽に乗った忍者が指す方向へ、メン子達は船を走らせる。
期待に満ちた顔で舵を切り、突出した岬を抜けると……
開けた視界に映ったのは広い湾。
そして、そこに港を構えた……大きく立派な、日本風の街。
『わ、ぁ……あ…………やったぁーーー!!』
喜びに満ちて跳びはねたメン子。
笑顔で歓声や雄叫びを上げ、あるいは感極まって泣く乗組員達。
視点は街の側へと移り、海の向こうからやってきた西洋風の船を驚きをもって見る着物姿の住民NPC。
そして一足先に忍者が、鳥に乗ったまま城の天守閣へと飛んでひらりと着地した。
『ついに到着されたでござるよ』
『うむ、見えておる』
『ついに来たねー!』
天守閣で過ごしていたらしき和風な姿の人々が、立ち上がって手摺の方へと向かった。
夏に金魚鉢を買った店の、妖艶な狐の獣人の女性。
雉のようなお面と装束を身に纏った男。
侍のような老人は、スイカを切った有名どころの 翁(おきな) 。
タヌキに乗っている小人。
弓を背負った巫女のような女性。
『ようこそ、『 日ノ出桜(ひのでざくら) の都』へ』
『さぁ各々方、歓迎の宴の準備といたしましょう』
『うむ』
『酒も肴も御用意して待ってましたよ!』
港へ降り立ったメン子達が、住民NPC達に歓迎される様子を映しながら、映像はフェードアウト。
最後に エフォ(EFO) のロゴを表示して、動画は終わりだ。
「わー、メン子ちゃん本当に和風の所に着いたんだねぇ!」
「だな」
「タケノコ見つかったかな?」
「竹は映ってたから、あったんじゃないか?」
まぁ、本人もタケノコはどうでもよくなっていそうだけどな。
そして公式のお知らせは……航路で繋がった街、『 日ノ出桜(ひのでざくら) の都』について。
かなり遠方の街であり、和風文化の街として完成度が極めて高い事から、開拓者のプレイヤーとその仲間のクランメンバーも含めて交渉し、『 日ノ出桜(ひのでざくら) の都』はピリオノートと同じ運営管理の都となった。
開拓者のプレイヤーとその仲間のクランメンバーには『 日ノ出桜(ひのでざくら) の都特別貢献勲章』と記念碑に名前が刻まれる。さらに増築予定の都のプレイヤー街に専用の建物を、そしてもう一ヵ所別に拠点を作れる『新天地開拓権限チケット』がご褒美として渡されたらしい。
「おおー、すごい。自分達で作った街が公式になったんだね」
「……記念のスクショは満足そうな顔してるし、納得してるなら良かったな」
そして、これ以降は戦闘勢のゲーム開始地点と開拓勢の初期転移先が『ピリオノート』と『日ノ出桜の都』のどちらかを選べるようになる。
それに伴い、今日から春のアニバーサリーイベント終了までの期間限定で、ピリオノートから日ノ出桜の都へ直接転移が可能になるらしい。
和風の街で暮らしたい戦闘勢は、期間中なら拠点の移動も無料で可能との事だ。
「へぇー、確かに和風な格好の人ちょいちょいいたね」
「和風な街を拠点にしたいなら丁度いいな」
期間が終わったら、新規はピリオか桜の都かを選んで、もう片方は船旅をして辿り着かないと登録出来ないわけだ。
航路が繋がったから定期船は出るし、寄り道しないからメン子の旅よりは短い旅程だろうが、それでも少し大変だな。近くの拠点の襲撃防衛でオーブ登録させてもらった方がたぶん楽だろう。
これもある意味、古参優遇措置か。
「ログインしたら行ってみようか、和風の街」
「だな、オーブ登録すれば今後はいつでも行けるし」
拠点にチビっ子達がいるから、あんまり長旅したく無かったしな。
転移させてもらえるのはありがたい。