軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:真夜中のピリオノートで

後ろ暗い輩がターゲットを襲撃しやすいのは……やっぱり夜なんじゃないだろうか。

……というわけで、俺は今回、普段とは違う時間にログインした。

リアルは平日の昼間、ゲーム内で深夜になる時間帯を狙ってのイン。

……当然拠点も真っ暗だ。

必要な準備は昨日の内に済ませておいたから、変装して、軽食だけ済ませて出発する。

今回は、死霊魔法使いの逆恨みから来るストーカー……まぁ、たぶん刺客なんだろう。夜中に1人で歩く事でそいつをおびき出す予定だ。

真紀奈の許可は取った。

1人で相手をする事になるから、『ゲームだから大丈夫だとは思うけど……気を付けてね?』と言われた。

俺もゲームじゃないとこんな危ない橋は渡らない。

ピリオノートへ転移。

糸のような細い大月が浮かぶ星空。

灯りがほとんど落ちている街並み。

いつもはプレイヤーで賑わう転移広場も、この時間帯はヒトが少な目だ。リアルで昼食の準備をするようなタイミングでゲーム内が夜になるから、大体はそこで区切ってログアウトするからな。

NPCが寝静まった街を、とりあえず東側へと進む。

南はバレンタインイベント会場が近い、北は初心者が通う農場がある。西と東ならどっちでもいいから、適当に東だ。

……早いな。

もう【感知】に敵対存在の気配が引っかかった。

光学迷彩のスイッチを入れて、水面の揺らぎのような残滓を残す状態に移行。

NPCが暮らす場所で事を起こすつもりはないから、まずはプレイヤー居住区まで移動する。

俺の姿は見えにくくなったが、【隠密】は使っていない。

だから気配と揺らぎを追っているんだろう、一瞬周囲を探すように気配が動いたが、再び俺を追いかけ始めた。

早足で、内側の門を抜ける。

プレイヤー居住区は、プレイヤーが少ない時間帯なら完全無人とまではいかなくてもほとんどもぬけの殻だ。

さらに奥まった薄暗い路地へと移動してから、俺は光学迷彩を解除した。

この状況で釣り野伏せのような事は流石に厳しい。

さて、どう来るか……っ!?

──ヒュッ

ナイフが飛んできたのを咄嗟に避ける。

鋭い刃が二の腕を掠めた。

速い。

俊敏の高い相手だ。

そしてグワンと一瞬揺れる視界。

ステータス異常に『酩酊(軽)』。

掠ってこれなら、まともに食らったら昏睡していたはずだ。

……なるほど、いけ好かない相手を自分達の拠点に拉致する予定だったのか?

手早く薬で解除すると、さらに続けて飛んでくる細身の短剣が2本。

思考加速。

こっちも短剣を抜いて叩き落とすと、埒が明かないと思ったか物陰から刺客が飛び出してきた。

……子供?

黒服を着込んだ刺客は、小柄な体躯で跳ねるように斬りかかってきた。

避けて、追撃を避けて、弾き、距離を取る。

……これ普通に強いな?

俊敏特化の俺と遜色ない速さ。

子供サイズの身体で繰り出される攻撃はやたら重い。筋力も相当高いぞ。

……まぁファンタジーだからな、子供に見えるってだけで実際の年齢は違うのかもしれない。見た目で判断してはいけない。

黒服の刺客は、ターバンのようにグルグルと巻いた頭の布の隙間から、猫耳と、ギラリ殺意の籠もった金色の瞳。

「……ネビュラ、【モルテム】」

小声で唱える呼び出しと魔法。

同化して加算されるステータス。

俊敏でアドバンテージを取り、がむしゃらに向かってくるのを迎え撃つ。

狭い路地で壁を蹴り、二度三度と短剣をぶつけ合って、そのまま通路を二人で駆け抜けた。

……しかし機をうかがうのは慎重だった割に、投擲からの特攻は随分と短絡的だったな?

答えは耳が捉えた。

息切れするように荒い呼吸音。

……なるほど、持続力は無い。

それならさっさと終わらせるか。

魔眼を発動。

壁の多いこの場所なら、周りの景色が見えにくくなるのは致命的なはずだ。

小さな体が、ビクリと震えてキョロキョロと周りを見渡した。

そして俺の方を見て恐怖に目を見開く。

そりゃあ砂嵐のような視界に、無地の仮面を着けた怪しい衣装の男が浮かび上がって突進して来たら怖いだろうな。

だが、怯えたって事はペースが崩れたって事だ。

肉薄し、手を伸ばして……

しかし、その手が届く前に俺は後ろへ飛び退いた。

尻もちをついた刺客の後ろに、いつの間にかいた黒い影。

夜風になびくマント。

そのマントのフードから覗く、ニタリと嗤った三日月のような口元。

「……またお前か」

「ねぇ、キミはこの子を殺すつもりかい?」

「いや?」

「そう……そうこなくっちゃ」

たったそれだけの問答。

黒いマントは瞬きする間に消えていた。

その隙に、体勢を立て直していた刺客が、慌てたようにナイフを飛ばしてくる。……本当アイツいらんことしやがって。

叩き落とす。

その一瞬で、俺に直接ナイフを刺そうと刺客が突進した。

だが……動きが完全に直線だ、これならっ

回避、からの、首の後ろを掴んで地面に押さえ込む。

……おい、体柔らかいな!?

抜け出されそうだ!

見るからに猫の獣人だからか? それにしたって……!?

ぐるりと振り向いた刺客の顔。

子供らしいあどけなさを残した顔。

その口がパカリとひらいて、液体の滴る、犬歯というには鋭すぎる牙が見えた。

まずい。

手首を噛まれる前に、用意していた紫の粉末を刺客の顔にかけた。

【迷宮夢の粉薬】……品質★★★

吸い込むか飲むかすると睡眠の状態異常にかかり、迷う夢から抜け出すまで目覚めなくなる粉薬。

刺客を捕まえるのに良いかと思って『迷宮夢のキャベツ』と『 微睡(まどろみ) 草』を混ぜて作った薬だ。俺達には起こす手段があるからな。

息切れしていた刺客は、思いっきり粉を吸い込んだんだろう。

強靭も高くなかったのか、それほど経たない内に力が抜けて、くたりと眠りに落ちていった。

……よし、絵面は完全に事案だからな、さっさと撤収しよう。

確保した状態で風切羽を使って拠点に戻る。

今回の作戦は、ひとまず成功でいいだろう。