軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:甘い心に気合をぶち込め

再ログインしました。

休日昼間にバレンタインダンジョンでの狩りを終えて、夜の再ログインでプレゼントチョコを作成。

「相棒ー、はい、あーん」

「ん……はい相棒も」

「……んー、あま~い」

交換してバフアイテムに変化したチョコレートをテーブルに広げて、食べたり食べさせあったりしながらのんびりと二人で新聞や掲示板をチェックしていた。

「『チョコレート素材買い取ります』の広告がちょいちょい新聞に出てるねぇ。まぁポイントも投票も興味無くて、バフアイテムよりもリリー稼ぎたいってプレイヤーもいるもんね」

「イベントダンジョンなだけあって効率は良かったからな」

「NPCがチョコレート欲しがるクエスト、それなりに発生してるらしい」

「へぇ〜、それなら逆にNPCの店にチョコレート売らない方がいいのかな?」

「だな、大量に流したら他のクエスト潰すかもしれない」

無課金の配布レシピはバフも大して強くないが、無いよりマシだ。

イベント専用レシピは建築テンプレみたいにレシピと素材を選んでOKを押すだけで作れるから楽だしな。

「じゃあそろそろ兵士さんにチョコレート持って行こうか」

「だな」

* * *

プレゼント用チョコレートは、イベントアイテムなだけあってチョコレートしか使っていないにも関わらずチョコットファクトリーのラッピングがされた箱に詰められた状態で完成する。だからそのままNPCへ渡して大丈夫だ。

……とはいえ、貴族が買い占めるような状態らしいから、剥き出しでやり取りすればさすがによろしくない注目を浴びるかもしれない。

なので、俺達は城へ行く前に露店に寄って手頃な清潔感のある布袋を調達してきた。

(露店広場、めっちゃラッピング用品売ってたね)

(……これも飾った方がよかったか?)

(いやぁ〜、そういうのは告白する当人がやるもんでしょ)

(だよな)

カラフルなリボンのバーゲンセールかってくらい露店広場はリボンまみれだった。

キーナはマリーにと何本か買っていた。紙製じゃなく布製の綺麗なリボンだから髪に飾ったっていいらしい。俺はリボンの事はよくわからない。

ゲーム内は早朝。城の兵士は夜勤の見張りが仕事を終えて、出勤してくる兵士と交代する時間帯だ。だからこの時間のピリオノートは、行き交うNPCの数が多い。

これだけNPCが多いと、俺達が変装した姿で歩いていてもプレイヤーにガン見される事は少ない。

……とはいえ人混みは好きじゃないから、人が多すぎず少なすぎずな路地を通って城へと向かう。

到着した城は、出勤してくる城勤めの人々を門番がチェックしている最中だ。

流石にこの流れを止めると邪魔になる。

俺達は門の少し脇で立ち止まって、門番の手が空くのを待った。

なんならクエストNPCのデビットがちょうど出勤して来たら話は早い。

……なんて考えていると、本当にデビットがやってきた。

「おはようございます。御二方」

「……おはようございます」

「おはようございまーす。頼まれた物、持ってきましたよー」

キーナが袋を掲げて見せると、分かりやすくデビットの目が輝いた。

「なんと! お早い調達、流石です!」

デビットは袋の中を確認して頷くと、リリーを俺達に支払った。これでクエストは完了……と、思ったその時。

「デビットおはよう!」

「えっ、あっ、ナ、ナフローラ!?」

気安そうにデビットの肩を叩いたのは獣人の女性。あれは犬の垂れ耳だから犬の獣人なんだろう。

そしてうっすらと顔を赤らめて慌てるデビット。

……なるほど、この犬獣人女性が意中の相手か。

リアルだと犬にチョコレートは御法度だが、まぁ エフォ(EFO) はその辺ゆるいし、犬っぽいけど獣人だしな。問題無い。

デビットがナフローラと呼んだ女性は、スンと微かに鼻を鳴らした。

「あれ? その匂い……チョコレート?」

「っ!」

慌てて袋を隠すデビット。

その様子を見たナフローラは……一瞬、悲しげな顔になったように見えたが、見間違いかと思うくらい一瞬で元の笑顔に戻った。

「あー、さては誰かに告白するつもりで手に入れたんでしょー?」

「あ、いや、その……」

あ、これマズいか?

まだクエストクリアの通知が出てないって事は、この勘違いを正す所までクエストの範囲内なのか?

どうする……?

……だが、俺が何か言うよりも、隣のキーナが動く方が早かった。

ぐわっと普段の俊敏の低さは何だったのかと思う速度で繰り出されたキーナの腕。

何かチラリと赤い物が見えた手が、何の躊躇いもなくデビットの口元に叩き込まれた。

「モガッ!?」

キーナは手のひらでデビットの口を塞ぐようにして顔面を鷲掴みにしながら、ゆらりとナフローラを振り返った。

「ナフローラさん、ちょっと待ってね? 今ね、デビット君が言いたい事あるからね?」

「えっ、あっ、えっ? は、はい!?」

圧が強い。

目を白黒させてキョドるナフローラ。

そしてキーナは、鷲掴んだデビットに囁いた。

「覚悟決めろ、今すぐ」

圧が強い。

鷲掴まれたデビットの喉がゴクリと上下した。

デビットがカクカクと首を縦に振ると、「よし」と頷いてキーナが手を離す。

はい、どーぞ。とばかりにデビットを前に出し、キーナは俺の袖を引いて少し下がった。……今さら空気になろうとしても遅い気がするけどな。

デビットは軽く咳き込んでいたが……覚悟の決まった目で袋を持ち直した。

「……ナフローラ。これは確かにチョコレートなんだが……俺は、君に渡したくて手に入れたんだ」

「えっ?」

デビットは布袋からチョコレートを取り出し、ナフローラへと差し出す。

「その……食べてみたいって言ってただろう?」

「え、う、うん……あ、え、それだけで? 本当に?」

「本当だ……君の事が、好きだから」

「えうっ!?」

おお、マジで言った。

……周り、めっちゃ通勤してきてるNPCいっぱいいるんだけどな。

皆足を止めて、固唾を呑んで二人の様子を見守っている。

だがデビットは動じない、マジで覚悟の決まった目をしている。さっきまで慌ててた動揺はどこかへ消えていた。

ナフローラはあわあわとして……何故かふと、チラリと明後日の方向へ目線をやった。

その目線を追ってみると……うん? 建物の影にピンク色の人影が見え……あれ戦隊ピンクじゃねーか!

何度も頷く戦隊ピンクとその肩にいる従魔らしきフクロウ。

その様子を見たナフローラも、何か覚悟の決まった目をした。

「デ、デビット……その、アタシも実は……チョコレート、デビットと一緒に食べようと思って、手に入れてたの……」

「えっ」

「そ、その……アタシも、好き、だから!」

おめでとうございます。カップル成立です。

ワッ、とギャラリーが沸いた。

やったな! おめでとう! コノヤロー!

色々な声が飛んで来たり、祝福のつもりなのか同僚達にもみくちゃにされるデビットとナフローラ。

そしてキーナはそんな二人を見て満足気に頷いてから、建物の影からエールを送っていた戦隊ピンクとサムズアップを交わしていた。

(……ところで、さっきデビットにストロングハートベリー食わせた?)

(おおー、よくわかったね!)

そりゃわかるよ。

あんなストロング(物理)を決めるとは思わなかったけど。

(だってどう見ても両想いなのに、あそこで拗れて欲しくないじゃん)

(まぁね)

──クエスト『恋する兵士のチョコレート』をクリアしました。