作品タイトル不明
ユ:まったり観光しながら
妖精女王からクエストを受けた俺達は、のんびりと城の中を歩いて観光をしていた。
「……さすがにアクセ枠使うか」
「何が? さっき貰った指輪?」
「そう。結婚指輪と違って、これはアクセ枠がひとつ埋まる。まぁ俺らは念話が出来るから、必要な時に着ければいい」
「オッケー」
貰った指輪の使用感は、後で確認しないとな。
俺達が受注したクエストで、スライムの元に返さないといけないスライムの卵はインベントリに入っている。
これをスライムの親を探して届けて、代わりにチェンジされていた托卵を引き取るわけだ。
問題は……托卵の方は返す場所が無い事。
なんたって托卵だ。自分で子育てしない生き物なわけだからな。親を見つけた所で喜んで受け取るわけがない。
だからといって、托卵だと分かっているのに豆ニワトリの小屋に戻すわけにもいかない。
そして捨てるのもあんまりだ。
妖精女王からは、俺達が気に入ったら飼ってもよし、他の誰かに託すもよし、誰も見つからなかったら妖精女王に託してもよし、という『好きにしていい』というニュアンスの言葉を貰った。
あの亀みたいなドラゴンも、似たような経緯でこの城にいるらしい。
まぁ……そもそも見つけて何の卵なのか確認してからの話だな。
「野生の鳥の巣なら分かるんだけどさ……家畜状態な豆ニワトリの巣箱に托卵するって何の卵だろ? 謎の鳥が飛び込んできたら豆ニワトリも大騒ぎしそうだけどね」
「さぁ……?」
それも見つけたら分かる。
アイテムとして卵の名前が見えるはずだ。……まぁ、使徒みたいに『???』表記じゃなければの話だけどな。
喋りながらのんびり歩いていた俺達は、黄色の花が咲いていた扉を潜って、温室にやって来た。
大きな温室だ。体が小さくなっているから余計に大きく感じる。
背の高い果樹やベリーの茂みが生い茂る、花や果実の甘い匂いが漂う湿気が高めの空間だ。
青い空が透けるクリスタルの屋根が、生い茂った緑の先に見えた。
「ねぇねぇ、アレなんだろ?」
「ん?」
キーナが指す方を見ると……蜘蛛の巣のような細い糸の格子の向こう側に、不思議な物があった。
丈夫そうな蔦が絡まり宙に支えられた……大きな琥珀のような物体。
深い橙色をしたそれは、つるりと丸い形をしているが、一部が花のような形をしていて、その中心の穴から粘度の高い液体がゆっくりと滴り落ちていた。
「なんか不思議な見た目だねぇ」
「……だな」
「あら、お客様はアレを見るのは初めてですか?」
眺めていた所へ、葉っぱのエプロンを着けたフェアリーが飛んできた。
「アレは女王様が所有しているアーティファクトです」
「アーティファクト」
「へぇ……」
「私達フェアリーが『アリストフェアリー』に昇格を望むのならば、【幻術】と【解析】を習得した上で女王様に謁見し、昇格を許されれば、あのアーティファクトから得られる『大河より滴る結集の蜜』を授けていただけます。そうして虫と言葉を交わす力を手に入れて、共に生きる虫族を選び交渉に挑むのです」
「へぇー」
フェアリーの上位種族はそういう流れでなるのか。
「他の種族の方でも、女王様のお名前を教えていただける程に覚えめでたくなられれば、蜜を授けていただく事もあるそうですよ」
「なるほど」
妖精女王の好感度をゴリゴリに上げた場合の特典でもあるのか。
説明にお礼を言うと、フェアリーはペコリと礼をして飛んでいった。
「あのフェアリーさんも、プレイヤーのフェアリーと違って羽根が蝶みたいだったね」
「……ああ、本当だ」
「虫と交渉するって言ってたし、獣人みたいに虫の特徴が出る種族なのかな?」
「かもしれない」
その内ピリオノートに色んな羽根のプレイヤーフェアリーを見かけるようになるんだろう。
……そこまで考えて、俺はふと気が付いた。
「……ピリオでNPCのフェアリーって、あんまり見かけないよな」
「んえ? ……あー、そういえばそうかも?」
フェアリーだらけの街を作っているフェアリーのプレイヤーがいるのはwikiで見て知っている。だから住人NPCとしてのフェアリーは、別にレアな存在ではないはずだ。
……なのに、ピリオノートの種族の比率は、たぶんかなり低い。
「……やっぱり、あまりにも物理的に儚いからじゃない?」
「……やっぱり?」
「だって、そこら辺飛んでる猛禽にワンパンされるんでしょ? NPCそんなほいほい死なれたら困るし……または……」
「または?」
「さっき、アリストフェアリーになるには【幻術】を覚えないといけないって言ってたから……妖精じゃない姿になってるとか」
「ああ……」
なるほど、襲われないように擬態しているのか。それなら納得だ。
プレイヤーのフェアリーも、それが出来るようになったらかなり戦略の定石が変わるのかもしれない。