軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:短剣と、大霊廟召喚

聖女の過去話を聞き終えた頃には、ダンジョン召喚の参加メンバーがほぼ全員集まっていた。

なんだかんだ途中から他の面子も作業の手を一時止めて聖女の話を聞いていた。ちなみにお嬢様は親衛隊並に号泣していた。

そんな感じで、召喚した後の支度も含めて、手が止まっていた準備を再開する。

同盟メンバーも、ド根性ブラザーさんがゴーレムを出して確認していたり、夾竹桃さんが藁人形のような物を出して何やら作業をしたりしていた。

拠点が一番近所になるゴマ油さんもやってきて、関係者と挨拶の後は見学のために自前で持ち込んだ椅子に座って待ちの構え。

そして、俺達の所にやってきたのは、聖女親衛隊のクランリーダー。

「こちらが準備したアイテムになります……」

号泣の余韻を残した顔で、聖女親衛隊が俺達に【光魔法】が籠められたアイテムを渡してくる。

……なんだこのサンタが背負ってそうな袋。

中には『回復』の魔法が籠められた魔道具がみっちり詰まっていた。

それがドン!ドン!と並べられて3袋。

そしてそれを『バフ』用と『照明』用と『結界』用と『武器付与』用と『攻撃魔法』用……それぞれ同量が繰り返される。

「……多くないですか?」

「何をおっしゃいます。本国の騎士団がアンデッドの数を理由に封鎖を選んだ禁足地ですよ? 中は常にモンハウ状態と想定しています」

モンハウ……モンスターハウス。狭い所に敵がミチミチに詰まっている、ゲームあるあるなアレだ。

確かにMMOでモンハウに突っ込むなら消耗品なんて消し飛ぶか……

「……ありがとうございます」

「いえ、御迷惑をおかけした分と、聖女様を確実にお守りいただくためですので!」

一斉に敬礼する後ろの親衛隊達。

ブレない。

若干名がまだ悔しそうな顔をしていたが、さすがにこの場で駄々をこねるような事は無かった。聖女本人もいるしな。

そしてその魔道具を、パーティを組んだ同盟メンバーで分配して使い方を確認している時に、モロキュウ冒険団のブツ切リスト婆さんが遅れて到着した。

「なんとか間に合ったね。注文の短剣だよ」

そう言って、『死の精霊牙』で作ってもらった短剣を渡してくれた。

刀身に民族っぽい彫り込みとして刻印が入った短剣だ。

反り返った牙の、内側の方が刃になっていて掻き切るのに向いた作りになっている。

【死精牙の共鳴短剣】…威力変動

死の精霊牙を使って作られた短剣。

精霊と共鳴する事で切れ味が増す、契約者だけに許された武器。

製作者︰ブツ切リスト婆

「……威力変動」

「精神ステに依存して性能が変わるレゾアニムス鉱と似たような仕様さね。プレイヤーのデータを参照して威力が変わるやつだよ」

なるほど。

あの牙はそういう仕様になる素材だったのか。

たぶん精霊との好感度とか、同化可能時間の長さとかによって威力が変わるんだろう。

試しに装備してみると……今使っている短剣の倍くらいの威力が出た。

……え、これ同化状態だともっと上がるって事だな?

俺はこっちのやりとりが聞こえていなかった検証勢から隠すように短剣をしまい、ブツ切リスト婆さんへ報酬に色を付けて支払った。

短剣の精を移すのは後にしよう……

* * *

「じゃあ始めるぞー」

「配置つきまーす」

2回目のダンジョン召喚は、召喚士が経験者だけな事もあって迷いが無い。

板に描かれて組み合わされた魔法陣。

魔法陣は前回の物とは違う物だ。

何か法則があって、召喚する対象によって違うのかもしれない。

1番大きな違いは、前回は中心に描かれていたのは七芒星で、今回は正三角形だって所か。

その図形の頂点部分に召喚士が立つのは同じだ。

1人目は魔女の契約書を持ったカステラソムリエさん。

2人目は錆取りした霊廟の鍵を持ったアリス・リリスさん。

3人目は清めた鋼鉄の檻を持った抜け毛千本ノックさん。

……世界観がズレてるモヒカンの抜け毛さんが連投なのがなんとも言えないな。手に持った鉄の鳥籠も晩飯にするニワトリとか入れてそうだ。

召喚士が配置につき、場が静かになる。

「……準備いいな? 始めるぞ」

カステラさんの合図で、召喚士達が魔法陣に魔力を流す。

黒い塗料で描かれた魔法陣が……前と同じように虹色に輝き始めた。

……前と同じだ。光る魔法陣が目の前に出ると、何人かの目の色が変わる。好物が目の前に出てきた時の顔だ。ファンタジー好きがひと目でわかる。

そしてカステラさんが、魔女の契約書を掲げて文言を唱えた。

「『魂呼びの魔女による護りと導きに則りて、儀式の開始を告げる。開け、あちらとこちらの通り道』!」

どこからか聞こえる鐘のような音。

魔法陣から溢れ出す風。

虹色の光となった魔法陣は板から浮かび上がる。

……すると、明らかに前回とは違うモノが出現した。

長すぎる髪の毛のような半透明の帳。

濃紺と光がサラサラと流れる何かが、カーテンのように魔法陣をぐるりと囲む。

そして……光で輪郭を描いたような大きすぎる両の手が、魔法陣の両側へと浮かび上がった。

手首から先は虚空に溶けて見えない。

ヒトのモノより細長く、ヒトの身長よりも大きな手が。

明らかに人知を超えた存在の手が。

とても優しい手つきで動き、帳の1部を掻き分ける。

……向こう側に広がる、何色なのか分からない謎空間。

あまりにも前回と違う流れに全員が驚いていると……大きな手が、スッと鍵を持つアリス・リリスさんを指した。

それでハッと我に返ったアリス・リリスさんが、担当している次の詠唱を唱える。

「……ま、『招き入れるは堕ちた墓所、契約に記されしその名を──ガリスメリア大霊廟』!」

掲げた鍵が、白く燃え上がる。

ズン──と揺らぐ空間。

魔法陣が巨大化するのと同時に、召喚士達や近くにいた者達がふわりと浮かび上がって、少し外側へとずらされた。

そして魔法陣の上へ、砂絵を描くかのようにザラザラと、大きな石造りの霊廟が現れていく。

元は白っぽい灰色の建物だっただろう霊廟は、あちこちがボロボロにひび割れて壊れ、赤黒い汚れが付着していた。

……何より、禍々しい雰囲気の靄が、霊廟のそこかしこから立ち上っている。

明らかにヤバい建物が現れた所で、鋼鉄の檻を持った抜け毛千本ノックさんが叫んだ。

「『聖なる格子によりて、招来の地を閉じよ。これをもって儀式の終了を告げる』!!」

パリン──と弾ける鋼鉄の檻。

途端、霊廟と俺達を敷地ごと囲むように何本もの鋼鉄の柱が地面から伸び上がった。

柱は上空でカーブを描いて一点に収束……巨大な鳥籠のようになって、霊廟を閉じ込めるような形になる。

……『儀式の終了を告げる』の文言通り、これで召喚は完了したんだろう。

巨大な手も、髪のような帳も、魔法陣も……溶けるように消えていく。

後に残ったのは参加者と大霊廟、そしてそれを囲む鉄の檻。

「えっ、私達ごと閉じ込められた?」

「いや、ちゃんと出口ありますよ。あっち」

「あ、本当だ」

誰かが指差す方を見れば、きちんと檻には鉄格子の門のような物がつけられていた。

……手厚いな。ちゃんと外にアンデッドが溢れ出さないようにしてくれたのか。

……そうして余韻に浸っていた俺達は。

突如、前触れの無い地面の揺れに襲われた。