軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:鏡を前に

はい、こちら鏡が怖いので出入口担当なのをいい事にVIP待遇で留守番しています。キーナです。

ついさっき、中に突入して心配だった使徒関係を片付けた相棒から、『猿の偽物が出た』って念話が届きました。

スレにもサーカス団から報告が入ったから、こっちもにわかに大騒ぎ。

猿に化けて騙そうとしていたのは『シェイプシフター』っていう不定形のモンスター。

レベルが60って高めだから、後続の有志戦闘勢も駆けつけて臨時レイドボスっぽくなってるみたい。

ミミック君といい、本国では『成りすまして騙す』タイプのモンスターが問答無用でこの鏡に放り込まれてた時期があったのかもしれないね。

そんな鏡が、どうしてクエスト報酬として気軽に渡されたりしたのやら。

「このゲームのNPC……特に防衛関係に関わらない住人は、貴族平民問わず物品に対して『とりあえず安定していれば安全』っていう認識をしているようですからね。この鏡の元の持ち主も、普通にしている分には中の危ない物が出てこないから『ちょっと珍しい物』としか思ってなかったんだと思いますよ」

「危機意識の差が激しいな」

ミミック君を受け取りに来た行商人パピルスさんと、アメリカの大学の卒業生みたいな恰好をしたニヤニヤフラワーの……えーっと……あ、論丼ブリッジさんだっけ。

その二人が、人がごっそり減ったテントの中でそんな話をしている。

他の人達はほとんどが鏡の中に突入していったから、あんまり残っていない。

なお、ミミック君はパピルスさんにテイムされた後で『この世界、死んでもすぐに生まれ変わりますよ』って教えられて、宇宙猫みたいになってた。

どうせ生まれ変わった所で、宝箱に擬態するミミック君の居場所なんて数えるほどしかなさそうな世界なんだし、従魔になって正解だと思うけどね。

パピルスさんのところで、高価な商品が置かれる倉庫の夜警担当するんだってさ。NPCの泥棒は普通にNPCの商品を盗むから。

論丼ブリッジさんは周囲にすごい数のシステムウィンドウを広げてるみたいで、他プレイヤーから見えるダミーの魔法陣が大量に周りに浮かんでる。

色んなスレを並行して見てるみたい。

「……シェイプシフターは、プレイヤーにも変身するようだな。ステータスがそれに合わせて変動するらしい」

「ゲームで変身するタイプの敵にあるあるの仕様じゃないですか。誰に変身したんです?」

「ギョッピー」

「ギョッピーさんって強いんですか? 草のイメージしかありませんが」

「筋力極振りの物理攻撃特化。今10人くらいまとめて吹き飛んだ。数人死に戻ったぞ」

「うわ」

うわー、大変そう。

相棒は大丈夫かな……でも集中してる時に念話飛ばすと邪魔になっちゃうからね。便りが無いのが元気な証拠。

死に戻りさんはデスペナ付くけど、レイドボスに戻って来たりするかなー?

ってぼんやり考えながら本の続きを読んでいると……鏡の方から足音が聞こえた。

恐る恐る鏡の方を見ると……そこには戦隊のピンクさんが。

……戦隊ピンクさん、男性なんだ???

顔は見えないけど、体格はわかりやすく男性のそれ。

さっきまで本に集中しちゃってたから全然気付いてなかったよ。

そんなピンクさんは、肩に従魔っぽいフクロウを乗せて、しょんぼりとした猿を両手で持ってこっちに歩いてきていた。

あれは……サーカスの人達に紹介してもらった鏡の中のお猿に見えるねぇ。

「ねぇ~? このお猿ちゃんって、スレで書かれてたお猿ちゃんじゃないかしら?」

ピンクさんオネエだぁあああああ!?

低い声のオネエ言葉って不意打ちで聞くとすごくビックリするね!?

……あ、それどころじゃないや。

お猿ね、お猿。

ここに残ってる人の中だと僕しか見た事ないもんね。

本を椅子に置いて、鏡の前へ。

ピンクさんは安全のためかこっち側に出てくることはしなかった。

境界の向こう側のまま僕に【鏡魔法】を解除させて、それから僕の目の前に猿を持ちあげてくれる。

「どうかしら?」

「う~ん……それっぽく見えます。ただそんなに長時間マジマジと見たわけじゃないんで……」

「キ~……」

猿はピンクさんの手の中で暴れるでもなく、めっちゃしょんぼりとしている。

そんな僕らのところに、パピルスさんと論丼ブリッジさんもやってきた。

「……この猿は、何故こんなにしょぼくれているんだ?」

「見つけた時からこんな感じだったわよ? 何かを探すみたいにキョロキョロしてて、アタシを見て一瞬驚いた顔したけど、すぐにガッカリしたりして。だからサーカス団を探してたんじゃないかと思って連れてきたのよ」

サーカスって言葉に、猿は反応した。

切なそうな顔をして、テントの中をキョロキョロと探している。

その様子を見て、パピルスさんは苦笑した。

「なるほど、これは絆されますねぇ」

「これが演技じゃないなら、サーカス団はRPボーナスのテイム確定枠にもう入っているだろうな」

そうだねぇ。

ただ最悪な事に、ついさっき、このお猿の偽物まで出ちゃったんだよねぇ……

「そもそもこの猿は本当にサーカス団と交流していた猿なんでしょうか?」

「どういうこと?」

「さっき奥で猿の偽物が出た。シェイプシフター。今まさに戦闘中だ」

「あらやだ。それはまたややこしいわね……」

……今目の前にいるお猿もシェイプシフターだと、ちょっとまずい。

皆奥に行っちゃって全然人が残ってない。

通行こそ出来ないようにしたけど、そこに居座られると開けられないから追加戦力の投入ができない。

まぁゲームだから、最悪死に戻ればいいんだけどさ。

それで鏡を閉じたままにすれば元通りの封印状態になるだけなんだけどね。

でもその場合、本物のお猿を見つけるのが厳しくなる。

せめてこの猿が本物かどうかわかればなぁ……

……そうだ。ひとつ、思いついた。

「あのー、論丼ブリッジさん?」

「なんだ?」

「このゲームの魔法って、出来ない事やろうとしたらどうなります?」

僕の質問に、論丼ブリッジさんは一瞬考えた。

「……それは『MPを全部使っても威力が追い付かず規模が小さくなる』という話ではなく。『【火魔法】で飲み水を出すイメージをした』というような事か?」

「そうですそうです」

「その場合は失敗の演出が入る。具体的には『ポヒッ』と気の抜けたような音がして、小さな煙が一瞬出て消える」

なるほど。じゃあ魔法の種類によって何が出来て何が出来ないのかはちゃんとわかるんだ。

それなら……

「パピルスさん、小さな手鏡とか持ってたら売ってくれませんか?」

「……こちらでどうでしょう?」

パピルスさんが出してくれたのは、ちょうど顔が映るくらいの大きさをした丸い鏡に、シンプルな木の枠と持ち手がついた物。ピリオの住民が一般的に使う物なんだって。

立てかける台と合わせてお手頃価格で売ってもらった。

僕は改めてピンクさんの手の中にいるお猿に向き直る。

「ねぇ、キミはその猿の姿が本来の姿?」

「キキッ」

こくりと頷くお猿さん。

じゃあ、それが真実かどうかを確認しよう。

「【ミラークリエイト】」

イメージするのは、ゲームや伝承でよくある『真実の姿を映す鏡』

そういうアイテム、あるあるじゃん?

【鏡魔法】で手鏡は一瞬キラリと鏡面が輝いて……そして、なんとアイテム名が変わった。

【変身看破の手鏡】…品質★★★

姿を変える術を使っている対象に向けると、真の姿を映しだす鏡。

【草魔法】で装備に花を生やしたらそういう装備になったから、それと同じような流れかな? 魔法でアイテムが変質するのは、割とあるあるなのかも。鏡、借りるんじゃなく買い取っててよかった。レンタルだったら元の状態で返せなくなっちゃう。

とっても庶民向けでリーズナブルな見た目の鏡が、そんな魔法のアイテムになっちゃったのはミスマッチ感がすごいけどね。

……そして『封魔の監獄鏡』に使ったイメージが『一時的に出入り可能にする』ってモノで良かった。

永続イメージしたら、危ないモノがいる所が開きっぱなしになってたかもしれない。出来るのかわかんないけど。

さて、僕は『変身看破の手鏡』をお猿が映る位置に持って来て……手鏡越しにその姿を見た。

……うん、大丈夫。

ちゃんとお猿そのままの姿が映ってる。

他の人達にも確認してもらったから、間違いない。

「じゃあ、このお猿ちゃんで大丈夫そうね」

「だから私は言ったじゃない。この猿の様子からはちゃんと絆を感じるわって!」

唐突にピンクさんの肩から声が聞こえて思わず仰け反った。

……え、だって、今の声……前にどこかで……

「もう! 急にアナタが喋ったらビックリするわよって教えたでしょ?」

「ふふ、ごめんなさい。だって人の子がビックリするの面白いんだもの!」

「まったくこの子は……」

ピンクさんの肩に乗ってる従魔のフクロウちゃんから……聞き覚えのある声がする。

「あの……その子……」

「あら、御挨拶がまだだったわね! はじめまして、私はワイズオウル、御主人に頂いた名前は『ピュアスイート』。 番(つがい) という尊い絆が結ばれる事を至上の喜びとする、愛の使者よ!」

……そっか……そっかぁ…………

記憶はほぼ残らなくて、幻獣には生まれないって、言ってたもんね……

「……よかった」

「なぁに?」

「なんでもないよ」

後ろで何人かが「カプ厨のフクロウかよ」「戦隊ピンクも割とカプ厨」「主従揃って……」とか喋っているのが聞こえて笑いが込み上げる。

フクロウちゃん……気の合う人と出会えてよかったね。

笑いと一緒に零れかけた涙は、どうせ仮面で見えないし、気付かなかった事にした。

「あの……森女さん」

「はい?」

「その鏡……売った側がこう言うのは大変心苦しいのですが……買い取らせていただく事は可能ですか……っ!?」

「どうぞー」

別に僕はいくらでも作れるからいいよ。

涙引っ込んだわ。