軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:懸念事項を潰しに

キーナが鏡のダンジョンの出入口を作った事で、テントの中は一気に騒がしく……というか、忙しくなった。

「道標用のインクもっとあるかー!?」

「魔法の地図は駄目だ。見通しの悪さと反射で書き出されない」

「チーム戦隊、突入します!」

「スレ見てた入りたい戦闘勢がテント前に集まり出しましたー!」

まぁ降って湧いた新ダンジョンだもんな。それも今の所は期間限定の。

検証勢によって無駄に豪華な椅子を用意された現状唯一出入口を作り出せる相棒は、とりあえず出入口を維持するためにMPポーションを飲みながら、提供された本を片手に寛いでいた。

サーカスの人達は、俺達が外に出たなら猿を見つけ次第適当に死に戻るつもりらしいから、ぶっちゃけさっさと帰っても良いんだが……俺達が主目的の救援要請で集まってくれた人達をスルーしてさよならするのも心苦しい。

だから少しの間だけ、出入口を提供する事にした。

……俺もちょっと気になる事があるしな。

(じゃあもう1回行ってくる。誘導尋問とか気を付けて)

(はーい、行ってらー)

俺が立ち上がって鏡を通過すると、周りの検証勢は驚いて声をかけてきた。

「アッ!? 森男さん、また行くんです!?」

「……はい」

「ミミックいらないんですか?」

「……いらないです」

なおミミックは、俺も相棒もいらないから欲しいならどうぞと提供したら、その場でジャンケン勝ち抜き戦が始まって、論丼さんが獲得していた。

こっちに向かっているパピルスさんの所有になるらしい。防犯用トラップかな?

なお、ミミック本人は殺されたくない一心でそれを飲んだようだ。……この世界、死んでもすぐ生まれ変わるんだけどな。まぁ、余計な事は言わない。

ネビュラに乗って、鏡まみれのダンジョン内に突入する。

「あの混沌の種がいたら倒して行く。他はスルーできるならスルーでいい。ヒトの気配がしたら教えて」

「承知」

目的地が無く風切羽で帰る前提ならネビュラで走る。

先に入っていた有志を追い越し、黒いウミウシのような奴らを片付けてまわっていると……ふと、高い天井の近くに横穴がある事に気が付いた。

「ネビュラ、あの穴いけるか?」

「無論だ掴まれ」

鏡の壁を蹴って、駆け上がるネビュラ。やはりイ……狼は良いぞ。

上がった上段は、下段と違って暗い。

下は下で光源の無い謎の明るさだったが、上はその謎光源が無い暗闇のミラーハウスだ。

「【フレイムクリエイト】」

俺の【火魔法】は大してレベル上げをしていないが、明かり程度なら問題無い。

……そうして光を灯すと……暗闇に沈んでいた何かが鏡に浮かび上がる。

ヒトじゃないな、猿っぽくもない。

反射して映っているそれに近付くには……

「【アクアクリエイト】」

細長く射出する、破壊力の無い放水。

まっすぐに映る何かに向ければ、鏡はその魔法を反射して映り込んだ元の物体がある方へと曲がる。

それを道標にして、近付いた。

辿り着いて見つけたのは……濁った小さな水晶片。その周囲に蠢く、黒いウミウシ。

なるほど?

やっぱりウミウシは使徒関連か。

なんて思いながらウミウシを片付けていると、にわかに騒がしい声が近付いてきた。

「あれ、森男さん!?」

「出たって聞きましたけど、また入ったんです?」

やって来たのは、ハニカムサーカス団のメンバー達。

ぞろぞろとやってくる面々はたぶんサーカス団全員が集まっている。合流出来てたんだな。

……ただ、何故か先頭の蝶ネクタイ紳士だけずぶ濡れなんだが?

「なんか上から急に水が降ってきて……確認しに来たんですよ」

あ、ずぶ濡れの原因俺だ。

さっきの方向確認用の水鉄砲がどっかの穴から下に落ちたのか。

「あ、コレあれじゃーん。イベントとかで使徒が出す湧きポイント! 夏のやつよりだいぶ小さいけど」

「じゃあコレから水がドバァしたん?」

「壊しましょうぞ、速やかに」

「ヤダお蝶紳士激オコ」

「……すいません、その水は俺です」

「アレッ!?」

「やっぱり奥さんへの告白に見えた紛らわしい言動が心にトゲとして残って……」

「……いえ、反射させて方向確認をしてました」

「あ、なーんだ」

「不幸な事故か……良かったねお蝶紳士」

「なんかすいません?」

「……いえいえ、すいませんでした」

ウミウシを狩りながら実に呑気なやり取りを終えて、俺達は危険物に向き直る。

「で、つまりコレって使徒案件?」

「じゃない?」

「よく見たら結晶の下に鏡落ちてない?」

「あ、これ『鏡の大口』ですよ」

ああ、ここにあったのか。

さっき戻ったテント内には姿見の方しかなかったから、消えたのかと思ってた。

「この『鏡の大口』から結晶が出てきたんですかね?」

「って事は……初手で俺達を飲み込んで姿見にインして? ダンジョン内のそこら中に俺らを振り落としながらここに来て、結晶を吐き出した?」

「超迷惑〜!」

まぁ仕組みはわからなくても、流れとしてはそんな所か。

スレに書いてあったのを見たが、たぶんこれを持ち込んだのはマッスラゴライベントで会った名前が『???』だったアイツだろう。やっぱり使徒だったのか。

ボディバッグくらいの大きさの結晶は、さっさと壊すことになった。

「ハイ! ギョッピーのぉ〜? ちょっとイイとこ見てみたい〜!」

前に鉄球をぶん回していたヒトが、両手で結晶を鷲掴む。

……え? いや待て、素手で行くのか!?

「「「「そ~れ、粉砕! 粉砕! 粉砕!」」」」

どこの飲み会だよ。

……ギョッピーさん、別に筋肉質なアバターじゃないんだが。むしろ割とショタ枠な見た目をしてるんだが?

俺がテンションに引き気味なのを意に介さず、ギョッピーさんは大きく深呼吸。

そして……

「……フッ!」

鋭く息を吐き出すのと同時に、結晶が手の中でバキバキに砕け散った。

……マジかよ。

「ヒューーーー! ギョッピー最高ー!」

「よっ! 筋力極振り野郎!」

「筋力以外の全てを捨てた筋力の申し子!」

「草」

それでいいのか?

大盛りあがりなサーカス団。

酒も入れてないのに酔っぱらいの集団みたいになっている……

……するとそこへ

「キキー!」

「ん?」

「あー! エテ公じゃーん!」

……猿が現れた。

「やっと見つけたわー」

「これでここには用事無くなったねぇ」

「キキーキキー!」

嬉しそうに駆け寄ってくる猿に……

「【ダークネスクリエイト】!」

俺は【闇魔法】でステータスダウン効果付きの闇の触手を呼び出し、縛って押さえ付けた。

「エッ!?」

「森男さん!?」

「……何か喋ってみろ」

猿は反応しない。

「……さっきのお前は、 猿(・) の(・) 鳴(・) き(・) 真(・) 似(・) を(・) し(・) て(・) い(・) る(・) ようにしか聞こえなかった」

サーカス団の面々が息を飲む。

俺は猿から目を離さない。

「……何か言ってみろ」

猿は

「…………ウヒャ。なーんだ、つまんないの」

悪意に満ちた笑みを浮かべて、ズルリとその姿を変質させ闇の触手から逃げ出した。

シェイプシフター Lv60