軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:鏡よ鏡

「はい落ち着いて。大丈夫……大丈夫……」

パニックに陥りかけた僕は、相棒に抱き締めて貰ってジワジワと落ち着きを取り戻した。

鏡はダメだよ……ホラーの中でも鏡関係がダントツでダメなんだ僕は……

どれくらいダメかって言うと、鏡で自分の顔を見るだけで、映った自分がニターッと笑うホラーを即想像しちゃって直視出来ないくらいにはダメです。あと寝室に鏡があると眠れない。

だから【鏡魔法】で鏡の中に入れるっぽい事を取り替えっこ屋さんの猫が言ってたけど、聞かなかった事にして目を逸らしてました……

どうにか落ち着いて周りを見ると……僕の悲鳴に驚いて駆け付けちゃったテント内のサーカス団員達が、生暖かい微笑みで僕を見ていた。

「森女さんホラーダメなんだ、意外」

「あれ? 【死霊魔法】って最初に使えるようになってたの森女さんだよね?」

「ハロウィンみたいなジャック君も森夫婦さんのオバケだって話では?」

うるせー! ハロウィンモチーフとホラーは違うんですー!

相棒の温もりで正気を取り戻した僕は、促されて恐る恐る鏡をチラ見する。

……鏡の中には、テヘペロ☆って感じの顔をした猿がいた。

【封魔の監獄鏡】…品質☆

悪い事をした魔物が封じられている鏡。

「……オバケ?」

「たぶん違うんじゃないか?」

なんだオバケじゃないんだ?

……うん、猿も別に怖い見た目してない。

「驚かせてごめんなさいね」

苦笑いしている美人団長さんが、鏡の横に立って猿に笑みを向ける。

「とある貴族関係のクエスト報酬で貰った鏡なの。本国で手に入れた珍品で、見世物とかにどうぞって」

「完全に封じられているから安全という話なんですが……一応裏に置いて確認中でして」

へぇ~、かなり珍品っぽい?

そういう物が報酬になる事もあるんだねぇ。

「ただねぇ〜、今映ってるエテ公がママの心を鷲掴みにしちゃってさぁ〜」

「だって可愛いじゃない。変身能力もあるみたいだから、サーカスにも合うと思うのよ」

「とはいえアイテム説明的に、この猿も悪い事して封じられてるっぽいしなぁ〜」

「それならそれで上下関係わからせて服従させればいいだけよ」

「ヤダうちのママったら、マジ女王様」

うん、鞭がものすごく似合うよね、団長さん。

猿はサーカス団の人達の会話を聞いて、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。

確かにそんなに悪い猿には見えないけども……でもこういうのって、こっちを懐柔しておいて、いざ自由の身になったら牙を剥く〜とか定番だよね。

サーカス団の人達は、「まー結局、猿を鏡から出す方法は見つかって無いんだけどー」って言ってるけど……

……たぶん、僕はこの猿を外に出せるんじゃないかなぁ?

猫の取り替えっこ屋さんで貰った【鏡魔法】なら、出来るような気がする。

ただねぇ……出せても、出すの怖いなぁ!

猿の真意がわからないし……しかも変身持ちでしょ?

ネモと契約してる僕は、変幻自在な能力の使い勝手の良さを知ってるからね。

ネモみたいに何にでもなれるってわけじゃないかもだけど……それでも、鏡から出した瞬間にパーッと逃げちゃって兵士とかに化けられたら、もうわかんないしNPCが危ないし……

……うん、『責任が取れない』ってやつかな!

僕が猿を眺めながらつらつらとそんな事を考えていると……僕にしがみつかれている相棒がジッと猿を見ながら口を開いた。

「……そもそも、何やって閉じ込められたんだ?」

「キキー? ウキキッキー、キキー」

「……へぇ……それで?」

「キキキキー、ウキー、ウキッキー! ……ウキキ、キキ、ウキーウキウキー!」

「……あー、なるほど?」

あー、相棒は会話出来るのかー。【ワイルド・ファクター】すごいねぇ。

で、僕は慣れたけど、サーカス団の人達には、それは当然ビックリな光景なわけで……

「えっ!? 森男さん!? えっ!?」

「猿と……会話……してらっしゃる?」

「えええええー!? どうやってー!?」

会話を終えた相棒に、美人団長さんが猿と相棒を見比べながら声をかける。

「……この子は、なんて?」

「……あー……かなり昔の話ですけど、王城に入り込んで、散々人を迷わせたりからかったりして遊んでいたらしいですよ」

わぁ、絵に描いたようなイタズラ猿だー。

「王城でそれは自殺行為では?」

「……はい。なので強い魔法使いが呼ばれて、鏡に封印されたそうです」

「キキー」

やるせない顔で『若気の至りだったなぁー』みたいに頷く猿。

「他に同じ鏡に放り込まれた魔物が凶悪なのばかりなんで、『そこまで酷いことしてないだろ』と憤った時期もあったらしいですが。鏡の中から色々見聞きした今は、『そんな凶悪なのと一緒にされるくらい悪い事だったんだなぁ』と反省して、凶悪なやつらの動向を観察しているそうです」

「おー、反省の出来るエテ公」

「まぁ……猿の自己申告ですけど」

それなー。

結局、口では何とでも言えるからね。

初めましてな僕には、本当はどう思ってるのかなんて判断は出来ないよ。

今の話含めて、同情を引くための演技かもしれないし。

それでもサーカスの人達は、鏡を手に入れてから今日までで色々やり取りをしてて思う所があったのかな?

なるほどなー、みたいな顔で猿を見ている。

……僕はどーするべきかなー?

なんて考えていたら、外にいたっぽいメンバーの1人、カメラ作ってた錬金術士のヒトが、大きめの布をかけた何かを持ってテントに入ってきた。

「わっ、皆ここにいたのか……ちょうどいいや。団長、今お客さんのひとりが変わったアイテム売ってくれたよ」

「あら、どんな?」

「なんかね、鏡系のアイテムに作用する鏡だって。それに使えるかもしれない」

そ(・) れ(・) って言いながら、猿の映る鏡を指す錬金術士さん。

ってことは、その布の中身は大きな鏡なのかな?

……その時、不意にテント内に外からフワリと風が吹き込んだ。

「キキィーーーーーッ!!」

悲鳴みたいな猿の声。

風で捲れた布からチラ見えしたもうひとつの鏡から、禍々しい銀の光が溢れ出した。