軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:本選トーナメント初戦

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各ブロックを突破した他選手の試合配信アーカイブを見たり、自分の試合のアーカイブを見て甘い部分を確認して調整したりと過ごして数日。

今日はいよいよ本戦トーナメントだ。

変装もいらないし、狩りと違って消耗品の準備も必要ない。

「……大丈夫? 嫌だったら棄権してもいいんだからね?」

「大丈夫」

心配そうに顔を覗き込んでくるキーナに苦笑する。

予選突破までしたんだから、それこそ今更だ。

試合が配信されるのもわかってたし。ここで出ない方がむしろ悪目立ちするからな。

シマエナガを取るっていう目的は達成しているが、それはそれ。

「出たからには出来る所までやるよ」

「……うん、相棒のそういうところ好きだよ。でも責任感で潰れたりしないでね? そんな責任重大な事じゃないからねコレ?」

「わかってる、そこまで重くとらえてない」

俺限定で心配性になるんだよな、キーナは。

* * *

再びやってきた闘技場。

本戦は観戦席があるから、ロビーは予選程混んではいない。

運営から来ていた個別メッセージに書かれていた通りに本戦出場選手として受付を済ませる。

そうして会場入りすれば、パーティメンバーと一緒にラリーストライク本戦専用会場の選手控室に直接転移された。

ちょっとした休憩室程度の広さの部屋だ。

落ち着く雰囲気の家具が置かれていて、試合観戦ができるように映像スクリーンが浮かんでいる。

「いい部屋だねぇ!」

「途中敗退しても最後までここで観戦してていいって」

「マジで? あの激混みな観戦席に移動しなくてもいいんだ? やったね」

うん。スクリーンに映ってるアリーナ席、ぎゅうぎゅう詰めだからな……あそこに行くくらいなら帰って配信で見るぞ俺は。これも予選突破の御褒美なのかもしれない。

せっかくだからとのんびりくつろいでいると、開始時間になったあたりでスクリーンに エフォ(EFO) のロゴが大きく映り、そして開会式が始まった。

『それでは時間になりましたので! これより、ラリーストライク大会本戦トーナメントを開始いたします!』

聞こえてきたのは、何度か聞いて覚えのある実況妖精の声。

今回も司会進行と実況を担当するらしい。

オープニングトークで『そろそろ体の小さな種族が活躍できる大会もやってくださいよー』なんてボヤいて笑いを誘いながら、会場には紐を引くタイプのクジが御用意された。

『それでは早速、第一試合の出場選手を選びましょーう!』

マジかよ。

ランダムとは聞いてたが、当日現地でクジ引きなのか。

ドラムロールの音が流れる中、実況妖精は紐をじっくりと吟味し……

『これだーっ! ……えー、1人目はIブロックの『ユーレイ』選手!』

「早っ」

「おめでとうございます。一番手です」

* * *

前もって通達されていた通り、いつでも出られるようにしていたから、特に問題なく試合会場のコート前へと転移する。

コートの周りはぐるりとアリーナ席に囲まれているコロシアムのような構造だ。

ステージとどっちがマシかな……どっちもどっちか。

まぁ少なくとも個人戦だから、俺がミスした所で俺の順位にしか影響がでない。そういう意味ではプレッシャーはそこまで大きくない。

そして正面にやってきたのは対戦相手。

「よぅ……テメェが噂の愛の戦士だな?」

初手でスレの通称を出すな。

頭部と脚が犬そのものなタイプの獣人。

『麗嬢騎士団』の『番犬ジョン』が俺の初戦の相手だ。

犬……犬かぁ……

見た目は確かにカッコいい犬獣人なんだけどな……スレでよく見る言動が残念すぎて、犬というよりはむしろ……いや、やめておこう。

「なぁーんで俺見てちょっと残念そうな空気出してやがんだぁ?」

「いえ別に……」

「へっ、まぁいいや。俺はあんたに訊きたい事があったからなぁ?」

「……?」

なんだ?

まさか森夫婦の事じゃないとは思うが……

「へっへっへ……アンタ嫁さんいるんだってなぁ? って事はよぉ……アンタも物理的に尻に敷かれて喜ぶドMだったりするのか!?」

「……は?」

突然何を言い出すんだ、この犬モドキは。

「だーからー、アンタも嫁さんに罵倒されて喜ぶドMなんだろって!」

「ちげーよ」

「またまたぁー! 家では踏んでもらったりしてんだろー!?」

「しねーよ」

「嘘つけー! だって俺の方にハラスメント警告こないぞー!」

「警告欲しいのか?」

システムウィンドウを展開。

そこから通報画面を開いて、通報ボタンに手を伸ばした……ところで、番犬ジョンは体に染みついているとひと目でわかる、流れるように綺麗なフォームの土下座を決めた。

「生言ってスンマセンっしたぁー!!」

なお、試合前のやりとりは観客や配信には聞こえていない。

もしも聞こえていたら本気で通報した。

誤解の無いように言っておくが、俺が特に不愉快に感じずハラスメント警告が飛ばなかったのは、番犬ジョンがこういう冗談を言う性格だって事をスレで見て知っていたからだ。

断じて、俺は、同類ではない。

* * *

気を取り直してコートイン。

円柱状の壁を展開した状態のコートにそういうシステムが入ってるんだろう、ここから配信が開始されて俺達の音声も周囲に届く。

立ち直りも早い番犬ジョンは、ニヤリと笑ってこっちを見ている。

カウントダウン

……2……1……0!

開始と同時にワンドを向けて、撃てるだけショットを撃ち込んだ。

「オラ……イッテテテテェエエエ!? テッメェやりやがったなぁああ!?」

番犬の予選動画は、全部初手で対戦相手に突進しての至近距離貼り付き。

半分球技のラリーストライクで常時近距離戦を強制する、気の狂ったようなプレイスタイルだった。

だったら、それを崩してやれば番犬のペースにはハマらない。

加速してくる番犬。

俊敏100超えの犬獣人が飛びかかるのを、同じく俊敏100超えのトップスピードで引き離す。

円柱状のコートの中で、自分達も球になったような鬼ごっこが始まった。

「クッソガァアッ! 引き撃ちしてんじゃねぇええ!」

ショットを乱射してくるのを、最小限の動作で打ち返しながら引く。

壁を蹴って、引いて撃つ。

飛来する球をワンドで撫でて道を開ける。

「うっぜぇえええ!! クッソ性に合わねぇ戦い方しやがる!! 男なら喉笛噛み付いてこいやぁあ!!」

番犬よく喋るな?

俺は集中すると喋れないから返事は出来ないぞ。

距離を取り続けるとどんな動きになるか観察しながら逃げていたが……番犬ジョンは、その狂犬っぷりとは裏腹に、めちゃくちゃ素直な動きをするプレイヤーだった。

ダッシュがとにかく直線。

球を打ち返しに行く動作も分かりやすいし、フェイントにも引っかかる。

ランダムな動きをあまり取り入れていない。

……これが演技じゃないなら、『俊敏と狂人ムーブで驚かして撹乱』っていう常套手段に頼り切っている印象だ。

「待てっつってんだろぉおお!!」

やたら吠えるのもその一環か。

絶対に張り付かせないよう注意しながら、直線突進にショットを叩き込む。

──28-10

業を煮やした番犬が「『ストライク』!!」と全力で吼えた。

赤く光るワンドを握った番犬は……何を思ったか、接近してきた球を連続打ち返し始めた。

「オラァッ! オラァッ! オラオラァッ!!」

間髪入れずに飛来する複数のビーム球。

……動きが単純なんだよなぁ。

壁を蹴る。

進行方向を反転。

姿勢を極限まで低くして、輝くビームの下をすり抜け背後に周る。

「ああん!?」

見失ったらおしまいだ。

こっちを振り向くその前に……試合開始と同じように、背中へ撃てるだけショットを撃ち込んだ──

『試合終了ー!! 勝者『ユーレイ』選手ー!』

……勝った。

なんというか……相性の勝利って感じだったな。

番犬ジョンは、別に球にダメージも衝撃も無いはずなのに、潰れたカエルみたいに床に倒れている。

「……へっ、俺に勝ったくらいでいい気になるんじゃねーぞ。上位のボッチ共が愛の戦士をブッ倒す! お前はドラゴンを手に入れることは出来ねぇんだぜぇ……」

なんだその負け台詞。

あまりにも意味がわからなかったから、俺はついついそれに返事をしてしまった。

「別にドラゴンが目当てじゃないが」

「じゃあ何だよ……鳥か? 象か?」

「……シマエナガ」

「…………ハァ?」

番犬が犬のくせに宇宙猫みたいな顔でガバッと起き上がる。

「……妻がシマエナガ好きなんで」

「…………本戦が つ(・) い(・) で(・) かよリア充が!!」

壁が解除されていく魔法陣の上で、番犬ジョンはそれはそれはお手本のような床ドンを決めたのだった。