軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:ダンジョンの振り返りと、新しい住居登録

ログインまだです。

今日は休日二日目の朝。俺も真紀奈もまだベッドの中だ。

起きてはいるんだけどダルい休みの朝だから、二人揃ってダラダラとスマホでなんやかんや見ている。

「……ねぇ雄夜、昨日の霊蝶ちゃんだけどさ」

真紀奈が寝起きのぼーっとした声で言う。

「たぶんだけど、グレッグさん御一行もボス霊蝶ちゃんを倒したって事だよね? どうやって倒したのかな?」

不思議そうに真紀奈が零す。

……そうだね、真紀奈は結局TRPG的な対応をしたからな。

でも残念ながらその疑問への答えは無いんだ。

「あのダンジョンのボスは霊蝶じゃないよ」

「えっ」

たぶん俺達は変なフラグを踏んだ。

夜に行った事とか、真紀奈の職業とか、そのあたりがキーじゃないかと思っている。

「あのダンジョンのボスは……イリュージョンモスキート」

「蚊じゃん!! ついに擬態すらしなくなったじゃん!! 『蚊の山』じゃんあそこ!!!!」

「悲しいね」

* * *

色々済ませて、揃ってログイン。

朝の拠点には、ガラスみたいな蝶がちらほら飛んでいる。

『おはよー』

『おはよー』

「おはよう」

人はまったく増えてないのに賑やかになったなぁ。

この蝶だってジャックだって、分類は霊だ。

オバケばっかり増えていく。

まぁ、人よりよっぽどいいけど。

相棒が蝶にせがまれて立ち枯れの木の傍に山と同じ花畑を作っているのをネビュラと眺めながら、昨日の事を思い出す。

なんだかんだ特殊とはいえボス戦まで突破して、キーナのレベルは10に、俺のレベルは13になった。

ジャックも7 に、ネビュラも13に成長している。

初見一回行ったきりにしては良い結果だった。

それもこれも森のウサギ装備のおかげだ。アレがあるだけであんなにダンジョンの難易度が下がるなら普通に需要はありそうな気がする。精神異常デバフをしてくる敵は、何もあそこだけじゃないだろうし。

いまいちだった点を強いて上げるなら、俺達のキャラレベルは上がったけど、プレイヤースキルは大して上がってないだろうなってあたりかな。

きちんと対策をした結果のベリーイージーだからそれは良いんだけど、雑にぶっ放すだけで踏破できちゃったから。

……ああ、あと一つ確認しておきたい事があったんだ。

「そういえば相棒……霊蝶って召喚した時の効果は?」

「あ、確認してなかった」

忘れてたな?

「えっと、霊蝶ちゃんたちは召喚すると何ができるの?」

『霊蝶は、いっぱい出る』

アバウトだなぁ。

『いっぱいで、広い敵、精神異常デバフ』

『どれ、なる?』

『わから、ない』

『ランダム』

『ランダム』

『ランダムデバフ』

……アバウトだなぁ

『あと、敵、MP、もらう』

『行きがけの、駄賃』

『遠慮、しない』

『ザマァ』

おい、なんか口悪いのがいたぞ?

「えっと、『広範囲の敵に、精神異常デバフをランダムでかけるのとMP減少』で、あってる?」

『あってる』

『あってる』

「あってた!」

「うん」

なるほど、物理ダメージは入らない召喚か。

それこそ襲撃の防衛戦で使いやすいかもな、覚えておこう。

「できたー!」

『できたー』

『できたー』

『やったー』

刻印を描くように咲く花畑が完成したらしい。

オレンジ色の背の低い花がワッサワッサと揺れている。

「いいね」

「うむ、安らぐぞ」

「良い色だ」

うっかりここの影響でヤバい花にならないといいけどな。

* * *

相棒はしばらく土いじりをする事に決めたらしい。

いつぞや買ってきていた素焼きの植木鉢を引っ張り出して、何やら作業をし始めた。

俺はそれを、ヒヨコの生活スペースに床板を敷きながら見守っている。

「鉢底石忘れた……石材ひとつ砕いちゃおうか」

土が流れ出さないように石を少し入れて、その上からこの森じゃない他所から持ってきた土を入れる。

「まずは、ちょっと深さ足りないかもだけど、断トツヤバい方だったニンジンを植えます」

「はい」

植木鉢なら芋よりはいいと思う。

相棒はその後、キャベツとトマトもそれぞれ鉢に植えた。

根菜と葉野菜と実。

これでとりあえず様子見。

その頃には俺の方の作業も一段落した。

「鉢ひとつ残ってるけど?」

「これはちょっとやってみたいことがあって」

「何?」

相棒は、おもむろに立ち枯れの木の一部を切り取った。

【木工】で板状にして、【刻印】で魂籠の底板と同じ紋を描く。

その板に細長い棒をつけて小さな看板みたいな物を作り、土を入れた鉢に刺した。

「植木鉢って植物のお家じゃんすか」

「……まぁ、そうかな?」

「【住居登録】!」

「あっ」

マジかよ。

植木鉢を中心に、風が渦を巻いた。

蝶々がそれに流されて『キャ~』と楽しそうに笑う。

そして植木鉢には……シンプルな半目の顔の付いた半透明の木が、盆栽みたいに植わっていた。

「……なんじゃい。根本でワチャワチャしとると思うたら。ワシみたいな老木にも家なんぞ用意しおって」

「キター!」

* * *

グルグルとしてコブまみれな木の霊は、周りと同じ 微睡(まどろみ) の森の木の老木だと名乗った。

俺達が勝手に目印に使ってた立ち枯れの木の霊らしい。

「何千年だかは忘れたがの、長い事この森の長老をしとったわ。そんでまぁそろそろ終わりって頃に他の長生きしとる木に代替わりしようと思うたが……腑抜け共が押し付け合う内に寿命が来てしもうたんじゃ!」

それで死んでも死にきれずに霊になって留まっていた、と。

気概の強いお爺ちゃんだ。

「ようやく話せる状態になれたわい。礼を言うぞ」

「アッハイ」

「恩は返す性分じゃ。喜んでお前さんと契約させてもらうわい」

「おおー、やったぜ」

頑固爺かと思ったけど、そうでもないな。

義理人情に厚いタイプか?

「ワシは見ての通りの老木じゃからな。その杖に入れれば【草魔法】と【木魔法】を強化する」

「【草魔法】は持ってるけど、【木魔法】もあるんだ?」

「木は草の上位だよ」

「あ、そうなの?」

「うむ、ワシを使えば先取りで習得できるぞ」

「おおー」

上位属性が先取り出来るのはいいな。

いつぞや熊にやった拘束みたいなのも、木の方が強そうだし。

「あとはそうじゃな……召喚として使うなら、根でそこら辺の敵を薙ぎ払うか、戦場を森にするかじゃな」

「……戦場を森にする???」

「これでも長老じゃからな、若いのを引っ張り込むくらいは朝飯前じゃ」

「……それ、戦闘で若いの燃えたりしても大丈夫?」

「一時的な呼び出しじゃから問題無い。若いのは多少打たれて硬くなるくらいがええんじゃ。やられたらすごすご元の場所に帰るわい」

豪快だ。

考え方が熱血系のそれ。

でも戦場が森になるのは助かるかもな。

俺達は大人数のパーティは組まないだろうから、敵の数が多い時に隠密しやすくなる。

「ではお嬢、ワシにも名前を頼む」

「うん……僕はもうお嬢って歳じゃないけどね」

「千年単位のワシから見れば若いわい」

それはそう。

「じゃあそうだなぁ……コダマ爺ちゃんにしようかな」

「コダマ爺じゃな、よかろう」

木霊(コダマ) の爺さんね。

「ではお嬢、旦那、ちとしばし煩いがすまんな。耐えてくれ」

「「え?」」

コダマ爺さんは仰け反って天を仰ぐと、木のくせにスゥゥウウウッと大きく息を吸った。

「くぉうらぁあああ!! こんの腑抜けどもがあ! 何年押し付け合っとるんじゃあああああ!!」

おお、豪快な一喝。

耳がキーンとした……

「……年単位で長老不在かぁ」

「そりゃ死にきれんわ」

森にはしばらくの間、コダマ爺さんが木々をガミガミと叱りつける声が響いていた。